80・3つの分岐
ファルケファルケの手紙の内容はあまりに衝撃的なものだった。
だったらなんであんな前置き書くんだよと言いたいが、あの人はそういう人なので仕方ない。
「北の国境を越え、侵入が確認されたドラゴンの数は4……これはあくまで巨大な個体であり、ドラゴンともトカゲ人間ともつかぬ小型の個体が無数に付き従っている……」
改めて口に出してみても絶望的だ。
おそらく戦闘型ではない白骨公主との戦いですら、紙一重だった。
パコニカの助け無しには、俺もジゼロジゼロも死んでいただろう。
なにせ、ファルケファルケとすら相打ちになった怪物だ。
そんな白骨公主以上のドラゴンが4体もいるのだ。
「洒落になってへんな……」
「お姉様は逃げろと書いていましたが……」
「ファルっちにしては賢明な判断やなぁ。アンタらがどうこう出来る問題やないよ」
「それは、そうなんですけども……どうしますジーロ?」
「……」
実際のところ、悩んでいる。
今、頭に浮かんでいるやるべきことは多いが、どれも一度に出来ることではないのだ。
どの道を選ぶべきか。
これはジゼロジゼロとも、ガングレーナとも話しておくべきことだ。
「選択肢は三つある」
俺は指をまず一本立てる。
「一つは、ドラゴンとの戦いに協力すること。正直、雷を操るドラゴンとファルケファルケは相性が悪すぎる。もちろん、彼女だけがファスティバ王国の戦力の全てじゃないから、一概には言えないけど、それでも厳しい戦いだろう。戦力は多い方がいい。ドラゴンとの対戦経験を持つ人間なんてほとんどいないから、俺たちでも助けにはなると思う」
「わたくしも心情的には賛成ですが……」
ジゼロジゼロは腹ペコの時は別として、基本的には思慮深い人だ。
こうした言い回しになるのは、冷静に状況を見ている証だ。
「うちはおすすめせぇへんよ。ドラゴンなんか国家間で対処すべき話やし。うちも、すぐ国に戻って相談けど、きっとファスティバから救援依頼が来とるやろね。下手すりゃ大陸連合で動くことになるかもしれん。あんたらの参加が必須とも思えんよ」
冷静な物言いだが、ガングレーナの言葉の端々には、俺たちへの優しさを感じる。
本人の優しさから、新米を激戦地に送り込む事への忌避感を感じる。
彼女も、酔っぱらってなければ、ごく常識的な人なのだ……。
「ええ……そこで二つ目。それが、ゼフィーを外れ大迷宮へ連れて行くこと」
二本目の指を立てる。
「どういうことや?」
そうか、一般には知られていない情報だ。
【深魔】が出てきた以上、ガングレーナには共有すべきだろう。
「外れ大迷宮は、精霊が異界の侵食を留めるために作ったところなんです」
「なんやて……?」
「ゼフィーの異界因子は俺のスキルで相殺しましたけど、たぶん全部消せたわけではないですし、特に体内はどうなっているか……だから、外れ大迷宮に連れて行って、そこで治療する方が確実だと思うんです」
あの場所自体に、異界の力を抑える働きがあるように思う。
あそこにはバトラーもいるし、知恵を貸してくれるはずだ。
「なるほどなあ……」
「それに関連するんですが、もしかしたら、外で琥珀に包まれている人たちも救えるかもしれない」
「なんですって!? それは本当!?」
掴みかかってくるガングレーナ。
口調から訛りが消えたが、生まれはセクタバではないんだろう。
俺たちに引っ張られて、意識していないと訛りが消える感じだ。
それだけ焦っているわけで、仲間の生死に関わることだけに、無理のない話だろう……。
「あ、あくまで可能性です。ユラーゲルは【精霊琥珀】を汚染していました。それはこの世界の生き物と反対の性質を持っている。だから、その琥珀に包まれた状態では、死んでいるように見えても、そうじゃないのかもしれない」
「……待って。だとすると、みんなもゼフィーのようになるかもしれないってこと……?」
そうなのだ。
それが喫緊の問題なのだ。
「……可能性はあります。だから、彼らも、外れ大迷宮に運ぶほうがいい。俺のスキルで助けるにしても、たぶん一日に一人が限界です。何か起きた時のためにも、管理できる場所に運ばないといけません。……冷たい言い方ですが」
ふう、と息を吐き、ガングレーナが手を離す。
「……いや、正論や。けど、助かる可能性があるだけましや。運ぶのはうちがやる。流石に二人には無理やろ」
「ええ。助かります」
窓の外、眼下の森に目をやると、琥珀の塊が見える。
アルガスが死んでも、琥珀は消えないらしい。
元が樹液か、琥珀自体を召喚したのか、【精霊琥珀】から取り出したのか……条件によっては液体に戻っているものもあるようだが、多くは琥珀のままだ。
たとえジゼロジゼロの石の車を使っても、運ぶのは大変すぎる。
ガングレーナの風の力が使えるならそれに越したことはない。
「その前に、これは俺とジゼロジゼロにしか関係がないことだけど、最後にもう一つ選択肢がある」
「なんですの……?」
緊張した面持ちのジゼロジゼロの前に、俺は三本の指を立てる。
「パコニカを追うこと」
「え? どうしてですの?」
「【精霊琥珀】はパコニカの提案で取りに来たものだ。精霊なら、スパルネを助けられるかも、と。だけど、中身は【深魔】だった」
「あっ……!?」
「白骨公主との会話から、パコニカは【侵深偵団】なんじゃないかと思っている。約定を破ったとは、白竜幕府の事を隠すために配下が【侵深偵団】を口にしたこと。そう考えれば辻褄が合う……そして【深魔】と【侵深偵団】に関係がないとは思えない」
「ま、まさか……」
「パコニカは、【深魔】の一味かもしれない。スパルネが危ない……!!」




