78・対消滅
「なんや……!」
空中を突っ込んで行く俺を迎撃しようとするゼフィー。
だが、巨大な槍では、一度攻撃した後、大きな隙が出来る。
そこで右手に纏った【死】で槍にタッチして殺す。
毒水の流れで出来たこの槍は、絶えず動いているので殺せる!
「ああっ!?」
そして左手に纏っているのは、真逆の力!
それをゼフィーの腹に押し込む!
「なあああっ!? 何や、この暖かさ……!?」
ずっと考えていた。
スパルネを救う方法を。
その中のアイデアとして、【死】で竜の要素だけを殺すことは出来ないか? と考えたことがあった。
だが、どれがどう混ざっているのかもわからない。
体内となればなおさらだ。
重要な臓器の一環を成していたならば、そこを殺してしまったら終わりだ。
だが、さっきのユラーゲルの言葉を思い出す。
「異界律では必ずしもそうじゃない。だって私はマイナスの生命なんだし」
マイナスの生命。
おそらくユラーゲルは、この世界の人間が正負の概念をよく理解していないと思ってつい零してしまったのだろう。
この世界でも、経理上の概念としてマイナスという考え方はある。
しかし、それは、電子と陽電子のような物理学的な正負の概念じゃない。
だが、俺は知っている。
例えば物質そのものに正負の性質があり、物質と反物質が存在する。
マイナスの生命とは、そういう意味ではないか?
死んでいるのではなく、マイナスの性質を持つ物質で構成された生命……!
「ぎいいいい……!! なにをし……た……!」
強い拒絶反応で動きが止まるゼフィー。
これは賭けだ。
物質と反物質が触れると、対消滅を起こし、純粋なエネルギーに変換される。
なら、マイナスの生命に、プラスの生命をぶつけたら?
「俺のスキル【バナナ型神話】はバナナを生み出すのと、【死】を付与する力がある」
「はぁ……なんや、その無茶苦茶なチカラは……」
前世の世界では、それをチートと言う。
いま、ゼフィーに与えられた力と、本質的には同じ。
世界を歪めるチカラだ。
「だが、それは俺のスキルの本質の一部分でしかないんだ」
「なん……やて……まだ他にあるっちゅう……んかい」
バナナ型神話は、死の無い世界に死を生み出したもの。
だから死を付与できる。
しかし、バナナも生み出せることは、それに相反する性質だ。
すなわち――
「俺のスキルの本質は、【生の創造】と【死の創造】だ!!」
「はぁ……っ!?」
あまりにも、スキルの枠を逸脱した力。
言ってしまえば、これは神の力。
だからこそ、なんとなくわかってはいるのに、怖くて使えなかった本質のチカラ。
スキルの範疇を外れたもの。
外れスキル。
「お前に流し込んでいるのは【生の創造】! プラスの力だ!」
「なにを……ゆうとるんやあ……!!」
わからないだろう。
能力だけ与えられて、その本質を理解していないことの恐ろしさ。
異常に進歩した槍は作れるが、それがどういうバックボーンを持っているかの知識はないアンバランス。
だから、正負の力の意味はわかるまい。
だが、これはゼフィーの中の負の力を相殺する力なんだ。
「ぐぎいいいいいいいい!!」
ゼフィーは相殺によって能力を使えず、腕を振り回すくらいしか出来ない。
冷静になれば本来の水の力も使えるだろうが、混乱していてそれも出来ていない。
「離せやあ!!」
それでも俺に当たれば痛いし血も出る。
関係ない。
逃がしはしないし、逃げることは出来ない。
【生の創造】でツタを生み出し、俺の腕と縛り付けているからだ。
そしてゼフィーの中の【深魔】の因子を、花に変えていく!
「なんや、なんやこれはぁ……!?」
ゼフィーの体のあちこちで咲いては散っていく花。
それは、その分マイナスの因子が消えてくことを意味する。
本来、対消滅は危険なものだ。
その反応は凄まじく、1gの物質反物質の対消滅が、第二次大戦時の原子爆弾の数倍の破壊力を持っていたはずだ。
だが、単純な対消滅ならばユラーゲルはこっちの空気に触れただけで吹っ飛ぶはず。
だから、あくまで概念的な正負なのだろう。
なら、対となる概念で打ち消せるはずだ!
消すのは概念であるがゆえに、重要臓器を破壊することはおそらくない……!!
あとは、俺の体力が持つかどうか……!
「この……ぉ!!」
ゼフィーが、本来の【水】の力で槍を生み出す。
もはやそこに紫の色は無い。
「離さな、死ぬで……!!」
「死んでも離さん!!」
「このアホ……があぁあああ!!」
槍が突き出した腕を貫く。
そのまま何度も突き刺し、腕を引きちぎろうとしてくる。
「ぐうううっ!!」
痛みが脳を焼く。
どうにかなりそうなのを、気合でこらえる。
痛みと、スキルの使い過ぎで、目の奥で火花が弾けるような感覚がする。
体の末端が震える。息が上がる。心臓が跳ねる。
知ったことか。
この力ではスパルネは救えない。
ドラゴンはこの世界の存在だから。
だから、せめて、俺はお前だけでも救う……!!
救ってみせる……!!
「あああああああああああああああああああああああ!!!」
そして、数えきれない花びらが舞った――




