75・侵略的外来魔性
突如開口部から飛び込んできたガングレーナの一撃で、ユラーゲルはぐしゃぐしゃに潰されて壁に叩きつけられた。
「ハァハァハァ……」
ふわりと降り立ったガングレーナは、全身血だらけだった。
琥珀の散弾を全身に受けて吹っ飛ばされていた彼女は、そのダメージを色濃く感じさせる……。
「だ、大丈夫ですか?」
「……そう、いいたいとこやけどね……まぁ、ぼちぼちや」
全身の試験管はもうない。
砕けたり使い切ったりしたのだろう。
そのせいか、ガングレーナが酔っている印象は無い。
本来、そんなに簡単に酔いが抜けたりはしないが、そもそも飲酒とは中毒しているようなものだから、【国宝】の身体能力だと簡単に解毒出来てしまうのかもしれない。
「そっちこそ、だいぶキツそうやで?」
「え?」
言われて気づいたが、全身ぐっしょりと汗をかいていた。
【深魔】のプレッシャーで、恐ろしく憔悴していたことに、今更思い至る。
下手をすれば、サンデラの電撃より体がストレスを感じていた。
「あぁ、ありがとうございます。ガングレーナさんが来て来れなかったら、どうなっていたか……」
「……いつも遅れてばっかやからな……間に合わないことばかり……」
その顔に、陰が見えた。
口調も、訛りが揺らいでいる。
余人にはわからないことはあるのだろう。
ここで踏み込むのは、出会ったばかりの俺には出来ない。
「そんなことは……実際、俺は助かりました」
言葉が上滑りしているのはわかるが、それでも言うべきだ。
「にぃやはは……」
笑みに元気がない。
……これが彼女の素なのかもしれない。
だから酒を飲んでいたのかも……。
「ま、とにかく任務は完了やな。……【精霊琥珀】は無くなってもうたし、アルガスも死んでもうたけど……っていうか、今のバケモンはなんやったん?」
「あれは――」
「【深魔】ユラーゲルよ。我らこの世を侵すもの。侵略的外来魔性」
「「!?」」
ぺちゃんこになったまま、ユラーゲルは喋った。
いや、これは念話だ。
そもそも発声器官など、必要としていない……!
「まったく無粋ね」
柱に張り付いていた体が、ずるりと下に垂れ下がり、形を取り戻す。
気味の悪い巻き戻し映像のようだ。
「そんなもので私を殺せるなら、精霊はとうに殺していたでしょうよ。考えたらわかるでしょ?」
「あ」
だから、【呪い】で封印していたのか……!!
殺すことができないから……!
「あなたたち、ひ弱な生命体とは、規格が違うのよ」
ぬらりとする肉体の表面を手でなぞり、なまめかしく笑うユラーゲル。
妖艶ではあるが、生理的嫌悪感も沸き起こる。
「そんなん、試してみんとわからんのちゃう? 例えば、細切れになっても元に戻れるんかとか」
ガングレーナは両腕に纏わせた嵐をこすり合わせ、電撃の火花を撒き散らした。
「死なないだけで別に痛くないわけじゃないのよ? だから、とっても不快だわ」
一方、ユラーゲルは紫色の光弾を自身の周囲に展開する。
それはまるで弾幕シューティングゲームのよう。
まるでスキルの文法が違う。
「でもまぁ、私が戦う必要もないか」
「……何を言い出しとんアンタ?」
「だってちょうどいい手駒はあるんだし」
――!!!
激しい悪寒と共に振り返ると、そこにはゼフィーが立っていた。
「あは」
その肉体は、青く変色し、てらてらとぬめっていた。
笑いながら出した舌は、へそにまで届いていた――




