74・邪神ウルトラヴァイオレット
【深魔】ユラーゲル。
深き魔。
ならば――
「お前は、邪神の一味なのか……?」
「あら? ウルトラレッドの被造物のくせに、その概念を認識できてるのね」
ユラーゲルは、胸元まで届くほどの長い舌を出し、ゆらゆらとそれを揺らす。
一挙手一投足に冒涜的なものを感じる異なるもの。
「ウルトラレッド……?」
「なんて哀れ。なんてアンバランス。自分たちの神の名も知らないなんて惨めで素敵ね」
「!」
この世界の創造主は、ウルトラレッドというのか。
「我らが神、ウルトラヴァイオレットの対立者にして、飽き性で腰抜けの卑怯者。あははは。惨めな貴方たちに相応しい神ね」
ウルトラヴァイオレット?
ウルトラレッドは赤外線のことで、ウルトラヴァイオレットは紫外線のことだ。
ユラーゲルは会話というより、念話であり、こちらの記憶を元にもっとも近いニュアンスの言葉が当てはめられている感覚がある。
あくまで、赤外線や紫外線の名を冠す神性ということだろう。
かつて地球の人々が、太陽や月を神に当てはめたように、この世界では赤外線と紫外線の神がいる……?
だが、いずれも人間には見ることができない波長の光だ。
ならば、それを名付けたのは人間ではあり得ない。
人ならざる者が名付けた神――
「あら?」
ユラーゲルは心底不思議そうに首を傾けた。
「貴方、面白いわね。自分の神を罵倒されたのに、全く怒りもしていない」
「!」
言われてみれば、それはあまりに不自然なこと。
この世界で、創造神を侮辱されて何も感じない人間などいない。
俺は前世が現代日本人であり、無神論に近い考え方だったから、民俗学的興味しかなかったが、そんなのは異常なのだ。
「貴方に興味出ちゃったなぁ」
空中を音もなくスライドしてユラーゲルが接近してきた。
ぬめりのある肌が触れ、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
そこにあるのは性的な興奮などではなく、肉食獣の顎の中にいるような恐怖だった。
唾液滴る怪物の口中に等しい……!
「どう? 貴方のヘモグロビンを、ヘモシアニンに変えてみない?」
どんな殺し文句だ。
いや、文字通りか。
ヘモシアニンは、タコやエビの血中で酸素を運ぶものだ。
ヘモグロビンが鉄を含んでいるなら、ヘモシアニンは銅を含んでいる。
「御免こうむる……俺は赤い血が好きなんだ」
「やっぱり、この世界の知識の埒外にあるわね」
「……っ」
しまった……!
だが、念話である以上、答えないというのが難しい。
思考が読まれているわけではないようだが、返事として考えたことが、止められずに出てしまう。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。私は、気に入ったおもちゃは大事にする方なんだよ?」
「誰がおもちゃだ……」
「だったら、それを自認できるまで、壊してあげちゃおうかしらね? どう?」
「ふざ、けるな……!」
俺は【死】を手に込める。
「ああ、それ無駄よ。私たちは貴方たちと【死】の概念が違うから」
「なっ」
「それってゾンビには多分効かないでしょ? 死なないものは殺せても、死んでるものはもう殺せないんじゃない? 厳密には違うけど、そういうこと」
だから、とユラーゲルは続ける。
「諦めて、おもちゃになりなさい」
その異様に長い五指が、俺の顔に伸びて――
「何しとんじゃクサレ痴女が!!」
凄まじい横薙ぎの暴風が、ユラーゲルをぺちゃんこにしながら吹き飛ばした。




