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73・番外編・アルガスと声

 彼女の声が聞こえてきたのは、スキルを授かった日だった。


「助けて……お願い……助けて……誰か……誰か……」

「!」


 初めは、自分がおかしくなったのかと思った。

 次に、スキル神殿の誰かかが話しかけてきているのだと思った。

 だが、周囲には誰もいなかった。

 私は視力が良くなく、ぼんやりと形しかわからない。

 そのため、意識的に耳を研ぎ澄ませて来た。

 ゆえに、声の方向から、相手の距離もわかる。

 だが、この声はよくよく集中すると頭の中に響いているようだった。

 どこか水中のような不思議な声だ。


「君は、誰?」

「私の声が聞こえるの……?」


 頭の中の声と会話出来た。

 私の脳が作り出した幻覚なのか、まだわからない。


「ああ、聞こえるよ」

「お願い……助けて……」

「その前に教えて。君は誰?」

「言えない……」


 どういうことだろう。

 私が考え込んでいると、声が自然と話し出す。


「私は……【精霊琥珀】に閉じ込められているの……」

「【精霊琥珀】の精霊……?」


 私も【精霊琥珀】については聞いたことがあった。

 絶世の美女が封じられた秘宝だと。

 だが、その中にいる精霊とされるものの由来は不明とも……。


「お願い……助けて……私を……ここから出して……」

「時間がかかるかもしれないよ?」

「! 助けて……くれるの?」


 声はずいぶんと驚いていた。

 しかし、私にとってはごく自然なことだった。

 初恋、共依存、英雄願望……その感情を適切に表す言葉は私にはわからない。

 だが、心から、彼女を助けたいと思ったのだ。


「もちろん。助けるよ」

「ありがとう……!」


 その一言が、私にとっては一番の報酬だった。

 私は、見た目が良いらしい。

 視力が良くないので自分で鏡を見てもわからないのだから、それを言われてもピンと来ない。

 これまで、たくさんの女子が私に群がって来た。

 だが、私の判断基準は声でしかない。

 見た目を基準に私を評価されることが、ピンと来なかった。

 だからこそ、私の見た目を知らない、見ず知らずの声にこそ、私は救われたのかもしれないのだ。

 それも頭で後から考えた理屈だ。

 本心はもっとカタチにできない曖昧なもので、それこそが私を動かしている。

 そうして、私は旅に出た。

 彼女を解放する方法を探す旅だ。

 途中、竜棲列島の祠で、雷の精霊に出逢い、妙に懐かれた。

 違う存在に惹かれる気持ちは私にもわかる。

 彼女をサンデラと名付け、共に旅をした。

 【精霊琥珀】の破壊を求めているとバレないために、【雷】のスキル使いに見せるのは、便利でもあった。

 一応、私も琥珀の【静電気】で弱い雷を扱うことが出来たのも、隠れ蓑にちょうどよかった。

 旅をするうち名声は上がっていったが、そんなことはどうでも良かった。

 ただ、【精霊琥珀】に近づけるので、ありがたい。それだけだ。

 名声が上がれば上がるほど、私の周りを取り巻くご婦人方が増えてきた。

 ご婦人方に悪感情は無い。

 だが、私は空っぽな人間なのだ。

 彼女を救うことしか興味が無いのだ。

 そんな人間を好きになるのは、私の何を見ているのだろう。

 おそらく見た目だけだろう。

 私がつれなくするので、彼女たちはより過激になって行った。

 なんと【精霊琥珀】を持ち出す者まで現れたのだ。

 王族に連なる女性だった。

 彼女は自らを【精霊琥珀】に変えてくれと言い始め、侍女たちまで同じようにそれを望んだ。

 そうすれば、私に愛されると考えたらしい。

 そんなことはあり得ないが、私は彼女たちを琥珀で包んだ。

 それが【精霊琥珀】を持ち出して来てくれた彼女たちへのせめてもの礼だ。

 彼女たちの美は永遠となり、私が【精霊琥珀】を愛したように、いつか彼女たちを愛するものが現れるだろう。

 とにかく【精霊琥珀】は手に入れた。

 あとは、彼女を解放する方法を見つけなくてはならない。

 彼女が囁く。


「こんな方法はどう?」


 きっとそれは悪魔の囁き。

 他者を犠牲とする手段。

 だけど――


「ああ、そうしよう……」


 私は、そう答えた。

 私は彼女に操られてはいない。

 ただ、助けたいだけだ。

 それさえ成せるなら、そのあとにどう裁かれようが構わない。

 それだけだ――

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