69・精霊の救い方
アメーバ状に広がる琥珀の波が、ジゼロジゼロに襲い掛かる。
「危ない!!」
くそっ、俺の位置からじゃ間に合わない!
「ほあっ!!」
ジゼロジゼロはほとんど反射的にドリルを床に向けた。
床が砕け、下に落ちていくジゼロジゼロ。
その上を、琥珀の波が薙ぎ払っていく。
「ふぅ……」
一安心したが、下からドゴンドゴンと音がしている。
……まさか、着地しようとしてドリルを装備してるの忘れて下の階もぶち抜いたのでは……。
「ほあー」とか聞こえて来るし……。
怪我していないといいが……。
いずれにせよ、すぐ戻っては来れないだろう。
そうなると、ここに残っているのは、アルガスたちと俺だけだ。
「……なぜ、ジゼロジゼロの動きがわかった? そっちからは見えないはずだ」
「そもそも僕は最初から目が見えていないよ」
「なっ!?」
「明るい暗いや、ぼんやりものの輪郭は見えるけどね……だから、小さな頃から私は音に頼ってきた」
「そうだったのか……」
輪郭がぼんやり見えるくらいというのは、視力が0.01程度なのだろう。
現代日本では眼鏡の進歩で障害と扱われることもない視力だ。
だが、この世界においては、まだ眼鏡が普及しきっているとは言い難い。
カペローラも、実家が裕福だから眼鏡をしていられるのだ。
「そのせいだろうか……私がスキルを手にして以降、ずっと聞こえていた。彼女の悲痛な叫び声が……」
「【琥珀操作】で聞こえていたわけだな」
それなら、アルガスだけに声が聞こえていた説明がつく。
「そうかもしれない……だから私は巡礼騎士になった。功績を上げ、彼女に近づくために。そして彼女を救う術を探すために……」
「他人を琥珀に埋めるのが、救う術だっていうのか」
「彼女の封印は、物理的なものじゃない……強力な【呪い】だ」
「!」
【呪い】か……!
既存の【解呪】は高レベルの【呪い】を解除できないのは、ジゼロジゼロが受けた【飢餓】で証明済みだ。
【精霊琥珀】に【解呪】を試した人間がいなかったとも思えない。
「【呪い】の対象を他に移す……それしか彼女を救う手段はなかった……」
「他人はどうなってもいいって言うのか!」
怒りを込めて言う。
だが、アルガスは動じない。
「……君には理解出来るはずだ。精霊に選ばれた君には……【Eスキル】を授かった者なら……」
「俺は、精霊からこの世界を救えと言われた。人間同士が争っている場合じゃないはずだ」
あの時の精霊は「神に見捨てられた地を、この力で救うのだ」と言っていた。
そしてバトラーは「侵食しているのは、邪神」と言った。
ならば精霊の望みは、邪神と戦うことのはずだ。
「世界なんてどうでもいい……僕は彼女を救いたいだけだ……」
「そうかい……ならアンタは真の意味で歩く災害だ。だから――」
俺は両手に【死】を纏う。
「アンタをここで倒す」
「出来はしないよ」
アルガスが、全身に琥珀を纏い、目にも留まらぬ速度で突進してきた――




