65・精霊召喚
【酔歩する天災】とはよく名付けたものだ……。
竜巻に振り回されながら、そんなことを考える。
善意であってさえ、これだ。
本気で大暴れしたらどうなることか。
俺たちはただ吹き飛ばされる間に、塔の屋上まで運ばれていた。
「にぃやははは! 到着やー!」
「うげぇ……」
頭はぐわんぐわんと揺れている感覚が続いているが、空中で胃の中は空っぽになっている。
【水鉄砲】で口の中をゆすぐくらいしかできない。
「それ……いいアイデアですわね……」
同じように竜巻の中で洗濯物と化していたジゼロジゼロも口をゆすぐ。
「っていうか胸ぇ!?」
胃の中が空っぽになったせいか、ジゼロジゼロは体が縮んでおり、金ビキニがぶかぶかになっている!!
非常に危険だ!!
「バ、バナナ食うか!?」
「さ、流石に……今は食べれませんわ……」
ですよね……。
「まぁ、こんなのはこうすればいいのですわ……」
ふらふらしつつ、ジゼロジゼロは塔の壁から崩落したと思しき岩の破片を掴むと、それを【岩石操作】のスキルでヌーブラのように貼り付けて即席のビキニにした。
それはそれできわどいが、さっきよりずいぶんマシだ……。
「なんや、二人とも千鳥足やんか。酒飲んだんか?」
「……それは貴方だけです」
「にぃやははは。屋上には誰もおらんみたいや」
ピサの斜塔にも似たこの塔の屋上は広々とした円形になっており、鐘がいくつも配置されている。
灯台になっているかと思ったが、よく考えたらここは湖だった。
ガングレーナの言う通り、敵の姿はない。
そもそも空を飛べるスキル持ちなどごく稀なのと、鳥型琥珀を彼女にまとめて撃墜さっれたのもあるだろう。
しかしこう、何度も何度も、自分より強い人に助けられていると、自分が外れスキルで主人公になる……なんて思っていたのが恥ずかしくなる。
実際には【死】なんて物騒なスキルを手にしたが、それでもまるで足元にも及ばない。
……俺は、外れスキルを手に入れて、何をしたかったんだったかな……。
「まだ調子悪いんですの? そろそろ降りた方がいいと思うのですが……」
「あ、ああ。大丈夫。行こう」
気持ち悪さは残っているが、胃が空なのでそれ以上悪くなることはない。
既にガングレーナは千鳥足のまま階段を降りており、慌てて後を追いかける。
階段は短く、すぐに下の階についたのだが――
「……あっ!?」
塔の中央に柱のように伸びた琥珀の木。
そこに、ゼフィーが半身を埋め込まれたまま気を失っていた。
「ゼフィー!」
声をかけてみるも、返事が無い。
「大丈夫ですの!?」
「待ち!」
近づこうとするジゼロジゼロを、ガングレーナが手で制した。
「そこにおるんやろ? なぁアルガスはん」
呼応するように柱の影から現れたのは、長身で黒の長髪、黒い長袖長ズボンではあるがそのサイドが大きく開いた服を着た絶世の美男子だった。
【堕ちた国宝】アルガスだ……!
「静かにしてくれないか……? 彼女の声が聞こえないと困る……」
アルガスは、耳に琥珀の結晶を当てていた。
琥珀の結晶というのは語弊があるが、水晶の結晶そっくりの形なのだ。
その中に、裸の美女らしき姿が見える。
あれが【精霊琥珀】か!
「だぁれが静かにするかいな! 何人も何人も殺しくさって!! アンタを慕ってた女を次々殺すなんて、鬼畜の所業や!!」
そうだ。俺も聞いている。
追っかけをしていた貴人たちを、琥珀に閉じ込めて殺したと――
「あれは彼女たちが望んだんだ……」
「あんな死に方をか!!」
「みんな【精霊琥珀】になりたがったんだ……そうすれば、私が振り向くと信じてね……」
「!?」
「嘘……ですわ……」
自ら……!?
何人もがそれを選ぶだなんて、そんなことがあり得るのか!?
だが、アルガスのどこか病的な美は、死の色を感じさせる。
その瞳を覗き込んでいたら、飲み込まれそうになるような……。
「哀れなことだよ……私が愛してやまないのは、精霊だけなのに……それでも、あれほど強く望まれたなら仕方ない……」
「ふざけんなや!! だったら外で死んでる人らはなんや!!」
「彼らには近づくなと警告はした……ここは彼女の再誕の聖地になるのだから……」
「身勝手なことばっか言っとるとぼてくりまわすぞコラァ!!」
ガングレーナが両腕に竜巻を纏わせる。
凄まじい風の勢いで、触れるもの全てを微塵に砕いてしまうだろう。
「静かにしろと、言ったよ」
アルガスが指を鳴らした瞬間、稲妻が宙を走った。
「がはぁっ!?」
稲妻は正確に、ガングレーナの胸を貫いた!
彼女は体を跳ねさせ、そのまま膝から崩れ落ちる。
「なっ!?」
「ガングレーナさん!?」
おかしい!!
どうやってスキルを発動したんだ!?
突然、明後日の方向から稲妻が来たぞ!?
「……いい子だ」
そうつぶやいたアルガスの肩に、稲妻が形を持ったような少女がしなだれかかった。
それはまるで、雷の精霊だった――




