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64・琥珀世界

「な、なんですのここ……中の人たちは大丈夫……ですの?」


 琥珀の中には目を見開いたままの漁民や騎士たちが取り込まれていた。

 まるで時間が止まったかのようだが、苦悶や恐怖のまま固まっている……。


「おそらく……もう……」

「そんな……」


 被害者の数は、目視しただけでも10をくだらない。


「【堕ちた国宝】か……」


 あのアルガスがこんな殺戮を行うとは……。

 彼はこの国の誰もが知るような有名人だったし、功績も抜群だった。

 国宝級防険者の代名詞とすら言っていい。

 誰もが憧れる美形の騎士。

 それが、こんな……。


「と、とにかく危険ですから、一旦、ゼフィーには戻ってもらいましょうか」

「そうだな。その方がいい。目的のものを手に入れたら狼煙を上げる」

「おおきに。うちもそこまで命知らずやあらへんしな……心配せんでもちゃんと迎えには来たるからな」

「信頼していますわ」

「……真正面から言われると照れるで」


 顔を赤くしながら、ゼフィーは踵を返した。

 その、次の瞬間――


「なんや!?」


 人型の琥珀が、ゼフィーを羽交い絞めにしている……!

 それは異常に美形の騎士の姿!


「アルガスか!?」

「はな……しや!!」


 ゼフィーが琥珀の騎士の腹に水流をぶつけるが、まるでひるまない。


「ゼフィーさんを離しなさい!!」


 ジゼロジゼロが磯の岩を使って石礫を琥珀の騎士に放つ。

 俺はその横を駆けて剣を引き抜く――


「わああああぁ!?」


 琥珀の騎士が形を変え、スライム状になると一気に塔の方向へ飛んで行く。

 石礫を振り切る猛烈なスピードだ。

 俺もとても追いつけない!


「ゼフィーさん!!」

「助けてえええええええ……!!」


 水飴のように琥珀の体を伸ばし、塔へ飛んで行くそれを必死で追うが、速度が違いすぎる……!


「アルガスさんは、ゼフィーさんをどうするつもりですの!?」

「わからない! だが、殺すつもりならその場で出来たはずだ! だから、大丈夫だ!」

「ですわよね! ですわよね!」

「ああ、大丈夫だ!」

 

 言いながら、自分に言い聞かせる。

 アルガス……絶対に許さねえ!!

 スパルネの時の轍は踏まない!!

 二度と逃してたまるか!!

 琥珀が半分呑み込んでいる森を、その琥珀を踏まないように駆けて行く。

 おそらく踏んでも乗れる強度だろうが、ずぶりと飲み込まれないとも限らない。

 と――


「ストーーーーーーーーップ!!」

「わぁっ!?」

「何だ!?」


 俺たちの足元の地面が、大きく切り裂かれた。


「焦りすぎや。まんまとハメられとるで~。ういっく……」


 上空から降りて来るガングレーナ。

 地面を切り裂いたのは【風】の上位スキルによる斬撃だった。


「どういうことですの!? わたくしたち、急いでいますの!!」

「通れるところをわざわざ残しとくのはどう見ても罠やで~

 ほれ!」


 ガングレーナが風を操り、近くの岩を吹き飛ばし、そのまま森の奥へ送り込む。


「ほああっ!?」


 森の木々から樹液が飛び出し、岩を取り込んでしまった。


「そうか……! ()()()()()()()()()()()()……! あれも操れたのか!?」

「にぃやはははははははは、どや、思うた通りやろ! ……ホンマ言うと、樹液は予想外やったけどな」


 酒臭い息を吐きながら、ガングレーナが言う。

 流石は【国宝】。酔っ払いだが、腕は確かだ。


「せやから、行くのはうちにまかせとき」

「そういうわけにもいかない。俺たちは友達を救うために、【精霊琥珀】が必要なんだ」

「にぃやはははは。秘宝を欲しがるとは欲張りやな! なんや、ジブンら、大泥棒か?」

「ちがいますわ。駆け出しの防険者ですの」

「そか。まぁ、ほっとくのも危なそうやな。しゃーない! うちが連れていったろ!」

「え?」


 びゅう、と俺たちの足元で竜巻が巻き起こる。

 そしてあっという間に体が上空へ吹き飛ばされてしまう。


「動いたらあかんで! あと舌噛まんようにな!」

「うわああああああ!?」

「ほあああああああ!?」


 上下左右の感覚すらまともにわからない。

 視界がめちゃくちゃに入れ替わり、全身を揺すぶられながら吹っ飛んでいく。

 まるで洗濯機の中だ。

 思わず吐いてしまう。

 竜巻に巻き込まれた人間とはこうなるのだろうか。

 『オズの魔法使い』でドロシーは竜巻に飛ばされていたと思うが、彼女も吐いていたのだろうか――

 そんなファンタジーは嫌だな……。

 あまりのGに消えかける意識を繋ぎとめるため、そんなことを考えていた――

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