62・【酔歩する天災】
「肩もみまひょか? お嬢様?」
ジゼロジゼロが金持ちと知ってから、もう態度が全然違う……。
ちなみに、関西弁なのはセクタバ訛りだと思ってほしい。
もちろん、お金にがめついからという意味ではない。
単にゼフィーががめついだけで、セクタバ人がみなそうというわけではない。
「いいえ、結構ですわ。それより船はどこですの?」
ゼフィーに連れられて湖岸に出てきたが、舟屋が並ぶ場所からはずいぶん離れている。
「これですわ」
「これですわ?」
関西弁とお嬢様、言葉にすると同じだが、ニュアンスが全然違う……。
ゼフィーは得意げだが、ジゼロジゼロは困惑していた。
それも無理はない。
ゼフィーがシュロの葉の影から水内際まで引っ張り出して来たのは、ごくシンプルなボートだったからだ。
三人乗ればいっぱいになるサイズで、琵琶湖サイズの湖の中央に向かうには、なんというか、その……。
「頑張って漕がないといけませんわね!」
ジゼロジゼロが乗り気で、その善性の光に俺は焼かれそうになる。
漕ぐの面倒そうとか思ってごめん……。
「そんなとんでもない! お嬢様に漕がせたりなんかしまへん!」
「いやいや、俺が漕ぐよ」
「そうはいかん。アンタもお客さんや」
「でも、かなり距離ありますわよ?」
「もちろん、うちのスキルで行くんですわ。さぁ、乗った乗った。あ、うちは一番後ろに乗り込みますさかい」
促されるままボートに乗り込むと、ゼフィーが最後尾に立ち、足を器具で床に固定した。
「ほな行きまっせー! 【大放流】!!」
ゼフィーの両手から、勢い良く水が放出され、その勢いでボートは一気に湖面を駆けた!
「おおおお!」
「きゃー! 楽しいですわ!!」
水しぶきもアトラクションのようで楽しい。
「どうです? これなら漕ぐよりずっと早く着きますでしょ?」
「すごいですわ! すごいですわ!」
【水召喚】は基本スキルだが、【水】系のスキルを授かった人間は、もっと多くの量の水を扱うことが出来る。
この量の水を放出し続けて進むのは、なかなか手練れの水使いと言える。
「……でも、不思議だな」
「何がですのん?」
「このレベルの【水】使いなんて、引く手あまただろうに。そんなにお金に困ることあるかな?」
誰しも少量の水が出せるとはいえ、農業用水や工業用水となると話は別だ。
この世界では【水】スキル持ちに頼る形で社会が回っているため、灌漑技術がまるで進歩していない。
【大放流】が使えるとなれば、稼ぎ口はいくらでもあるはずだ。
「……それはええですやんか」
「ああ、悪い。人の事情に口出しするのは良くなかったな」
「はは。気にしすぎですて。そない大した理由やあらへんし……」
大した理由ではない、と額面通りに受け取るほど野暮ではない。
この話はそれきりになり、その間にも塔のある小島は接近して来ていた。
「さぁて、そろそろ減速しまひょか」
「いや、なんかあれおかしくないか?」
「何がですのん?」
「湖面に、何か浮いてますわね」
湖面で何かがきらきら光っている。
最初は太陽が反射したのだと思っていたが、違った。
「魚……かな?」
「いや、あないな色の魚、ここでは見た事あらへんけど……」
湖面に浮いていたのは、黄色い魚だった。
それがいくつも、ぷかぷかと浮いている。
レトロなブリキ金魚を思わせる姿だ。
「あれ、琥珀じゃありませんの?」
「なっ……だとすればまずいぞ!!」
気づいた時にはもう遅い。
琥珀の金魚が、一斉にこちらに向かって跳ね始めた。
その勢いは、もはや大量の投石に等しい。
「アルガスのスキルで作られた兵隊だ! 体当たりするつもりみたいだぞ!」
「ど、どうしましょ! 手持ちの小石で全部落とせますかしら!?」
島の外からもう防備を引いているというのは、想像していなかった。
島に入った人が帰ってこないという情報から、上陸してから罠があると思い込んでいたのだ。
油断としか言えない……!
「よけきれるか!?」
「それよか、これを食らわせたりますわ! 【放水弾】!!」
ゼフィーが放水を琥珀の金魚たちに向けて次々放つ。
範囲の大きい水の圧によって、金魚たちは水中に押し込まれていく。
だが、その水流ごと泳いで突っ込んでくる。
まるで、鯉の滝登りだ!
「アカン!」
「くっ!」
俺は新調した剣に手をかけ――
「お先失礼させてもらいますー!!」
と、女性の声がしたかと思った次の瞬間、俺たちの真横を突き抜けるように、暴風が突っ込んで行った。
それは、横に倒れた竜巻としか言えないすさまじい嵐の渦。
金魚の群れなどまとめて薙ぎ払い、湖水を巻き上げ、一直線に塔に突っ込んで行く。
ボートは波に煽られ、あやうく転覆するところだったが、ゼフィーが咄嗟に水流を放って制御した。
「ななななな、なんですの今の!?」
「わからない! ここじゃ普通!?」
「そんなわけあらへん! あんなん初めて見ましたわ!!」
「だよねー! ……ん?」
暴風の中で微かに漂って来るこの香りは――アルコール臭だ。
そうか!
今のは、セクタバの【国宝防険者】!!
「【酔歩する天災】ガングレーナか!!??」




