59・幕間の幕府
人域から遥か北方。
火山列島の洞窟に、白竜幕府の根拠地はあった。
その洞窟の大気を、今、竜の激しい怒りが震わせていた。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
怪獣を思わせる激烈な鳴き声が、洞窟を壊さんばかりに響き渡る。
「どういうことだ!! なぜ白骨公主が死なねばならぬ!! ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
玉座で絶叫しているのは、白竜帝。
この幕府の主にして、帝王である。
美しい白い鱗は白骨公主に勝るとも及ばず、それを金糸で神々しく作られた武者鎧が覆っている。
あまりの怒りに、天井から鍾乳石が落ちて来て、下にいる奉族――トカゲ人間たちの中には串刺しになるものまで現れていた。
家臣のドラゴンたちは鍾乳石ごとき鱗で弾き返せるが、主君の怒りを恐れて平伏していた。
「お、落ち着いて下され若!!」
白いひげに顔どころか全身覆いつくされた侍従長のドラゴンが慌ててなだめに入るが、白竜帝の怒りは収まらない。
「炎天君が着いていながら何をしていたのだあああああああああああああああ!!!」
「い、いかな四大天の炎天君と言えども、その場におらずには戦えませぬ……」
「なぜだ!! 奴には白骨公主を任せていたはずだ!! 余の許嫁ぞ!! そのそばを離れるなぞあってよいわけがあるか!!」
「そ、それは、姫さま御自ら、炎天君を遠ざけましたので……」
「なに!」
「はい、喧しいのは嫌じゃ、と……。それで溶岩誘導のみ行い、近隣の火山へ去られたとのことです……」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
白竜帝の怒りのあまり、玉座のひじ掛けが握り潰される。
額に青筋は立っているが、努めて冷静さを取り戻そうと白竜帝は深く息を吐いた。
その息の勢いで、奉族が何人か吹っ飛んだが、それは知ったことではなかった。
「……だが、白骨公主とて白竜純血。猿なんぞに敗れるはずがない……!! なぜ愛しき姫は死んだのだ……!!」
「詳しくはまだわかりませんが……【国宝】に戦いを挑み、深手を負ったとの話もあります。流石に【国宝】ともなれば侮れませぬ……」
「そも【国宝】を引き付けるための【千魔夜行】であろう!! なぜ白骨が交戦しておる!!」
「……若に良いところを見せようとしたのではありませんか」
「!」
「覇道を進まんとする若と己が釣り合うか、気にされていたご様子でしたので……。そもそも出征に参加なさったのもそのためでございました……」
「お、おおおおおおお……おおおおおおおおおおおお!!」
大粒の涙をぼろぼろ零す白竜帝。
「なんと健気な……そのような健気な白骨をむざんに殺し猿どもなぞ、生かしておける道理があるものか!!」
玉座から立ち上がる白竜帝。
広大な天井に着かんばかりの巨躯は、他のドラゴンたちを圧倒している。
その威圧感たるや。
「余はここに宣言するぞ!! 我ら白竜幕府は必ず猿どもに復讐する!! 人域を蹂躙せしめ、全て溶岩の海に沈め尽くさん!!
よいな者ども!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
唸りを上げて立ち上がる家臣一同。
今日この日より、白竜幕府の侵攻は一気に本格化することになる――




