57・最強のシスポン
「お姉様!?」
ファルケファルケが、空中にいた。
よくよく見れば氷の階段を生み出して、それに乗っているようだ。
全裸と大差ないさらしとふんどしだけの姿が目に毒だ。
彼女が放った【ダイヤモンドダスト】は、その名の通り空気中の水分を氷結させて、波のように火竜公主の周囲に漂っていた。
月夜とマグマの明かりしかないこの世界では、本来の輝きは見えないが、その気になれば一瞬で攻撃に転じられるのだろう。
「どうしてここにいらっしゃいますの!?」
「無論、迷宮を制圧して降りてきたのだよ。愛しきジゼロジゼロ」
「そうではないですわ! お姉様は絶対安静でしょう! ぷんすこ!」
「怒ると可愛い顔が台無しだぞジゼロジゼロ。いや、怒った顔も可愛いから問題ないな。流石だ」
もはや国宝というより、シスコンのポンコツ、シスポンだ。
「何漫才やってのよぉ!! 主役はわえでしょぉ!!」
「貴様は人間を滅ぼすだのと言っていたが、まさか冗談とは言うまいな」
「もち――」
「やめろバカ!! 相手は国宝だぞ!!」
状況をまるでわかっていない!
「なっ、誰がバカよ! わえは才色兼備なんだから!!」
「自分で言う奴いねえよ!! ふざけてる場合か!! あの人は、いつでもお前なんか殺せるんだぞ!! 周りを良く見ろ!!」
「この氷のこと? こんなもの、わえの前では!」
火竜公主が、全身から炎を噴き上げさせた。
まるでどんど焼きの中に投げ込まれたかのように膨大な火力に包まれ、周囲の細氷を溶け散らしていく。
「にゃははは! どうだ! わえの【火装パーティー】は!」
ネーミングは致命的だが、確かにすごい火力だ。
首にかかった縄ともいうべき細氷をたやすく消し去ってしまった。
「逆に問いたいのだが、その程度でわれの攻撃を防げると、本気で考えているのか?」
「ふぁえ?」
「【雪崩くずし】」
ごっ、と唸るような轟音がしたと思うと、ファルケファルケから火竜公主に向かって、雪崩が巻き起こった。
あまりに一瞬のことでわけがわからない。
あれほどの大質量の雪が、いきなり出現するなど常識の埒外だ。
「ふぁばす!?」
雪崩に巻き込まれ、火竜公主の姿が消える。
火山地帯が一瞬で雪景色になってしまう。
溶岩に触れた箇所で凄まじい水蒸気が上がっている。
しかし、【雪】は【風】と【氷】か【水】の複合スキルだったはずだ。
ちょうど、ソルダとカペローラがそれぞれの属性で発動させていたように。
どういうからくりかはわからないが、国宝ならそのくらいやっても不思議ではない。
そんな相手に、生まれたての火竜公主が敵うはずがないのだ。
「もーっ! もーっ!」
雪崩の中から飛び出して来たのは流石だ。
人間なら雪の重圧で指一本動かせないだろう。
「よくもやったわねぇ~……ってあれ?」
だが、役者が違う。
飛び出して来たその瞬間、両手両足を氷の鎖が拘束する。
更に頭上には巨大な刃が出現していた。
巨大な氷によって作り出されたそれは、落ちてきたならば即座に火竜公主を真っ二つにしてしまうだろう。
「な、なによこれぇ……」
「名前はまだない。【大根切り】とでも名付けようと思ったが……」
「まるで氷の断頭台だ……」
「採用。これは【氷の断頭台】だ」
採用された。
この世界には、ギロチンは無い。
牧歌的な世界とはいえ天国でもないから処刑がないわけではないが、単にまだ発明されていないだけだ。
ファルケファルケは単に響きが気に入ったのだろう。
いや、そんなことより――
「やめてくれ! あれは仲間なんだ!!」
「悪いがやめてやるわけにはいかん。人域を危険に晒す者を粉砕するのが【国宝防険者】なのだ」
「でも、アイツは敵に洗脳されただけなんだ!」
「お前は本当に上の階を通ってきたのか? 近道でもあったのか?」
「え?」
「お前たちの話では、上は砂漠や湿原だったらしいな。だが、どこもマグマ溜まりに変えられていたぞ」
「なっ!?」
全部が火山地帯にされたってことか?
じゃあここも、温泉と違う場所に出たんじゃなく、火山地帯に変えられて温泉が干上がった……?
「こいつらは人域を侵す。殺さねばならない」
「そ、そんな……」
「だ、誰がやられるもんですか! うーん、うーん!!」
炎で氷の鎖を消そうとする火竜公主だが、溶かす端から再氷結して拘束が続く。
「われを恨めスパルネ。妹の友達にして恩人だが、そこまで混ざった元に戻せるとは到底思えん。人域のため、お前を討つ」
腕をかざすファルケファルケ。
それに合わせて、ギロチンの刃が持ち上がる。
「きゃーーーーーーーーっ!!?????」
「頼む!! やめてくれーーーーーーっ!!??」
「ならぬと言った!!」
巨大なギロチンが落ち――
「やめてくださいましお姉さま!!」
「わかった」
止まった。
「えっ」
「ふぁえっ?」
「ほあ?」
「ジゼロジゼロがそう言うならやめる」
なんだこのシスポンはぁああああああああああああああああああああ!!!




