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55/119

55・誕生

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああん!!!」


 悲鳴とも咆哮ともつかぬ絶叫が響き渡る。

 胸から鮮血を噴き出しながら、それでも落下を防ごうと公主が羽ばたく。


「許さぬ……!! 許さああああああああああああああぬ!!!」


 怒り狂い、滅多やたらに雷を撒き散らす公主。

 そのまま、地表すれすれに突っ込んで来る。


「くっ!」


 カウンターで【死】をぶち込みたいところだが、そんな生易しい速度ではない。

 そして直感的に理解しているが、奴に触れられたら終わりだ。

 奴は、触れた対象の骨を支配できる可能性が高い。

 そうでないなら、今頃とっくに骨の遠隔操作で俺たちを殺しているだろう。

 体から頭蓋骨を飛び出させるか自壊させるだけで、簡単に相手を殺せるのだ。

 契約のような条件はあり得ない。

 【千魔夜行】の、知性を持たない魔物の中から骨が飛び出したのだから。

 高確率で接触を条件とするはず。

 絶対に触れられるわけにはいかない。

 バナナの木々に隠れながら、なんとかギリギリでかわす。

 滑空で根こそぎ抉られて吹っ飛んでいく木々。


「潜れジゼロジゼロ!!!」

「わかりましたわ!! でも貴方は!?」

「なんとかするから早く!」

「合点ですわ!」


 ドリルは左右の手にあり、飛ばしたのは右だけなので、左のそれで地面に潜っていくジゼロジゼロ。

 彼女にはああ言ったが、対抗策を考えてあるわけではない。

 出たとこ勝負だ。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 気取るだけの余裕も捨てた公主が、雷を撒き散らしながら旋回して突っ込んでくる。

 【死】を腕に纏わせ、頭の上に掲げながら逃げ回る。

 この【死】は動くものなら、生物と見做みなし、死を与えることが出来る。

 雷もまた、動くもの。

 これなら雷が命中しても、殺すことが出来る……かもしれない。

 ここまで来たら、即死技を持つもの同士、どちらが先にそれをぶち当てられるかだ。

 最悪、食らってでも殺される前に――


「馬鹿め」

「え!?」


 突っ込んできていた公主は羽根を広げて急ブレーキをかけた。

 完全に虚を突かれたところに、地面から骨の槍が飛び出した。


「がああああっ!?」


 体を捻ったが、右肩の肉を抉って突き抜けたそれの威力に吹っ飛ばされる。

 衝撃にバウンドし、折れたバナナの木に叩きつけられる。


「がはっ!?」

「滑空した際に埋め込んでおいたのよ。地下が貴様らの特権だとでも思うたか。ほほほほほほ!!」


 くそっ……ハメられた!!

 奴らは人間よりずっと大きな脳を持つ生物なのだ。

 激昂しながらも、冷静さを同居させて油断を誘っていたに違いない!!

 脳内麻薬のおかげか痛みは麻痺しているが、このダメージでは追撃をとてもかわせない……!!


「さぁ、死ぬるが良い!!」


 俺の頭上に翳された骨の槍。

 まだ動く左手に【死】を集めるが、仮にそれで槍を殺せたとしても衝撃まで殺せるかはわからない。

 おまけに種がバレたら遠距離攻撃を連射されるだけだろう。

 詰んでいる。

 だが、分の悪い賭けでも目先を凌ぐしかない。


「ほほほ。何を企んでおるか、見せてもらうとしよう。ああ、もちろん、あの螺旋女が出てきたらモズの早贄にしてやるからの」


 わざわざ俺の真上の上空に滞空する公主

 いつの間にか、骨の槍がその周りに多数空中に浮いている。

 槍は血に塗れているから、おそらく骨の檻を再利用したんだろう。

 これではジゼロジゼロは飛び出した瞬間に狙い撃ちだ。


「くそっ……!!」

「ほほほ。よい顔じゃ! 猿もなかなか味のある顔をするもんじゃのう。ほほほほほほ!!」

「バカ笑いはよいがな。誰か忘れておらんか?」

「何じゃと!?」


 声は上から降ってきた。


「貴様!!」

「随分頭に血が昇っておるようじゃの」


 パコニカは浮遊する雲に乗り、公主の更に上空に現れていた。


「ちょっと水で醒まさせてやろう」

「な――」

「【豪雨集中】!」


 パコニカの雲から、滝のような大雨が降り注いだ。


「ぎいいいいいいいいいいいい!!」


 思わぬ不意打ちと凄まじい水の勢いに、公主の羽ばたく力が完全に殺される。

 炎の羽根と水の相性も最悪であっという間に浮力を失っていく。

 自身の骨は操作して浮かぶことは出来ないのか、あるいは加減が難しく危険なのかはわからないが、外付けの翼を必要とした以上、出来ないのだろう。


「おのれ! この裏切り者!! ふざけるなああああああああああ!!」

「竜もかなか味のある顔をするもんじゃのう!! ケロケロケロ!」

「くがあああああああああああああああ!!!」


 ド級の煽りに完全に意識が向いていた公主は、気づいていなかった。

 俺が、足元から勢い良く生成したバナナの木によって、打ち上げられていたことに。


「あ」


 気づいた時にはもう遅い。

 俺の【死】は、公主の尾に触れていた。


「ああっ!? な、なんじゃこれはああああああ!!!???」


 白い鱗を黒変させ、尾から一気に駆け上っていく【死】。


「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあ!!」


 悲鳴を上げるも、無意味。

 俺は、落下しながらそれを見ていた。


「なんでわらわがこんな目に! おかしい!! おかしい!! おかしいいいいい!!」


 すぐに尾を切り離せば助かったのかもしれないが、パニック状態の公主には思いつかなかったのだろう。

 泣き喚き、体を悶えさせるが、どんどん体が動かなくなっていく。


「嫌じゃあああああああああ!! 助けてたもれ白竜帝どのおおおおおおおおおお!!!」


 気の毒に感じるほど、無様な悲鳴。

 胸がすく思いなどどこにもない。

 だが、もう、彼女は助からない。

 【死】は、落下する彼女の首元まで迫っていた。


「嫌じゃあああああああああああああああ………………」


 その悲鳴すら【死】が呑み込み、黒が彼女を覆いつくした。

 そして――


 【それ】が誕生した。

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