55・誕生
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああん!!!」
悲鳴とも咆哮ともつかぬ絶叫が響き渡る。
胸から鮮血を噴き出しながら、それでも落下を防ごうと公主が羽ばたく。
「許さぬ……!! 許さああああああああああああああぬ!!!」
怒り狂い、滅多やたらに雷を撒き散らす公主。
そのまま、地表すれすれに突っ込んで来る。
「くっ!」
カウンターで【死】をぶち込みたいところだが、そんな生易しい速度ではない。
そして直感的に理解しているが、奴に触れられたら終わりだ。
奴は、触れた対象の骨を支配できる可能性が高い。
そうでないなら、今頃とっくに骨の遠隔操作で俺たちを殺しているだろう。
体から頭蓋骨を飛び出させるか自壊させるだけで、簡単に相手を殺せるのだ。
契約のような条件はあり得ない。
【千魔夜行】の、知性を持たない魔物の中から骨が飛び出したのだから。
高確率で接触を条件とするはず。
絶対に触れられるわけにはいかない。
バナナの木々に隠れながら、なんとかギリギリでかわす。
滑空で根こそぎ抉られて吹っ飛んでいく木々。
「潜れジゼロジゼロ!!!」
「わかりましたわ!! でも貴方は!?」
「なんとかするから早く!」
「合点ですわ!」
ドリルは左右の手にあり、飛ばしたのは右だけなので、左のそれで地面に潜っていくジゼロジゼロ。
彼女にはああ言ったが、対抗策を考えてあるわけではない。
出たとこ勝負だ。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!!」
気取るだけの余裕も捨てた公主が、雷を撒き散らしながら旋回して突っ込んでくる。
【死】を腕に纏わせ、頭の上に掲げながら逃げ回る。
この【死】は動くものなら、生物と見做し、死を与えることが出来る。
雷もまた、動くもの。
これなら雷が命中しても、殺すことが出来る……かもしれない。
ここまで来たら、即死技を持つもの同士、どちらが先にそれをぶち当てられるかだ。
最悪、食らってでも殺される前に――
「馬鹿め」
「え!?」
突っ込んできていた公主は羽根を広げて急ブレーキをかけた。
完全に虚を突かれたところに、地面から骨の槍が飛び出した。
「がああああっ!?」
体を捻ったが、右肩の肉を抉って突き抜けたそれの威力に吹っ飛ばされる。
衝撃にバウンドし、折れたバナナの木に叩きつけられる。
「がはっ!?」
「滑空した際に埋め込んでおいたのよ。地下が貴様らの特権だとでも思うたか。ほほほほほほ!!」
くそっ……ハメられた!!
奴らは人間よりずっと大きな脳を持つ生物なのだ。
激昂しながらも、冷静さを同居させて油断を誘っていたに違いない!!
脳内麻薬のおかげか痛みは麻痺しているが、このダメージでは追撃をとてもかわせない……!!
「さぁ、死ぬるが良い!!」
俺の頭上に翳された骨の槍。
まだ動く左手に【死】を集めるが、仮にそれで槍を殺せたとしても衝撃まで殺せるかはわからない。
おまけに種がバレたら遠距離攻撃を連射されるだけだろう。
詰んでいる。
だが、分の悪い賭けでも目先を凌ぐしかない。
「ほほほ。何を企んでおるか、見せてもらうとしよう。ああ、もちろん、あの螺旋女が出てきたらモズの早贄にしてやるからの」
わざわざ俺の真上の上空に滞空する公主
いつの間にか、骨の槍がその周りに多数空中に浮いている。
槍は血に塗れているから、おそらく骨の檻を再利用したんだろう。
これではジゼロジゼロは飛び出した瞬間に狙い撃ちだ。
「くそっ……!!」
「ほほほ。よい顔じゃ! 猿もなかなか味のある顔をするもんじゃのう。ほほほほほほ!!」
「バカ笑いはよいがな。誰か忘れておらんか?」
「何じゃと!?」
声は上から降ってきた。
「貴様!!」
「随分頭に血が昇っておるようじゃの」
パコニカは浮遊する雲に乗り、公主の更に上空に現れていた。
「ちょっと水で醒まさせてやろう」
「な――」
「【豪雨集中】!」
パコニカの雲から、滝のような大雨が降り注いだ。
「ぎいいいいいいいいいいいい!!」
思わぬ不意打ちと凄まじい水の勢いに、公主の羽ばたく力が完全に殺される。
炎の羽根と水の相性も最悪であっという間に浮力を失っていく。
自身の骨は操作して浮かぶことは出来ないのか、あるいは加減が難しく危険なのかはわからないが、外付けの翼を必要とした以上、出来ないのだろう。
「おのれ! この裏切り者!! ふざけるなああああああああああ!!」
「竜もかなか味のある顔をするもんじゃのう!! ケロケロケロ!」
「くがあああああああああああああああ!!!」
ド級の煽りに完全に意識が向いていた公主は、気づいていなかった。
俺が、足元から勢い良く生成したバナナの木によって、打ち上げられていたことに。
「あ」
気づいた時にはもう遅い。
俺の【死】は、公主の尾に触れていた。
「ああっ!? な、なんじゃこれはああああああ!!!???」
白い鱗を黒変させ、尾から一気に駆け上っていく【死】。
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃあ!!」
悲鳴を上げるも、無意味。
俺は、落下しながらそれを見ていた。
「なんでわらわがこんな目に! おかしい!! おかしい!! おかしいいいいい!!」
すぐに尾を切り離せば助かったのかもしれないが、パニック状態の公主には思いつかなかったのだろう。
泣き喚き、体を悶えさせるが、どんどん体が動かなくなっていく。
「嫌じゃあああああああああ!! 助けてたもれ白竜帝どのおおおおおおおおおお!!!」
気の毒に感じるほど、無様な悲鳴。
胸がすく思いなどどこにもない。
だが、もう、彼女は助からない。
【死】は、落下する彼女の首元まで迫っていた。
「嫌じゃあああああああああああああああ………………」
その悲鳴すら【死】が呑み込み、黒が彼女を覆いつくした。
そして――
【それ】が誕生した。




