54・スーパーウェポン
水槽に落とした墨のように広がる【死】を両手に纏わせ、公主の腹を貫く勢いで突き出す。
しかし――
「あっ!?」
その手は空を切った。
公主の巨体が、宙に浮いていたのだ。
「猿の浅知恵と言わなんだか? 何をしたかったか知らんが、愚かよのう。ほほほ」
公主の背中には、骨で出来た翼があり、羽根の代わりに炎が燃えていた。
「それは、スパルネの……!!」
「さよう。猿にしては美しいスキルであったからの。わらわが取り込んでやったのじゃ。これ以上の名誉はあるまい」
ぶちん、と音がしたのを実感する。
何が切れたのか、わからない。
それでも、悠々と一線が踏み越えられたのを思考より先に本能が直感した。
「叩き堕としてやる……!!」
「ほざきよる」
手の届かない高さまで飛び上がった公主の周囲に、骨の槍が展開する。
「【傘骨落雷槍】」
「くっ!!」
予想通り、ファンネルのように骨の槍が一斉に雷を発射する。
咄嗟にバナナの木を生成し、それに雷を落とす。
しかし、落雷が多すぎる!
なんとかしのいだと思った瞬間、意識が飛んだ。
「――」
雷に打たれたのだと気づいたのは、一瞬あと。
「うぐああああっ!?」
意識のブランクを、強烈な痛みが叩き起こす。
神経を膨大な電流が走ったために、全身に耐えがたい激痛が走っている。
そして、自分が倒れていたのを初めて知る。
一瞬、確実に心臓が止まっていた。
たまたま心臓がもう一度動いてくれただけだ。
「ハアッハアッハアッ……」
体から煙が噴いている。
これでも直撃は受けていないのだ。
いまのは、側撃雷だ。
樹の下で雷をやり過ごすのは実は危険で、木に落ちた雷が、今度は人間目掛けて落ちて来ることがあるためだ。
それでも、木を生やす以外に打てる手がない以上、仕方ない。
この痛みも……仕方がない!!
「うがああああああっ!」
強引に体を起こし、バナナの木に背中を預けながら立ち上がる。
「ほほほ。虫の息じゃの」
「ジーロはやらせませんわ!!」
ジゼロジゼロがドリルを装着したまま、サイドスローのような大振りの体勢を取る。
「なんじゃ。そのトンガリでも投げるつもりか? 当たるとよいのう。ほほほほ」
心底軽蔑するような笑い。
その薄ら笑いが、次の瞬間凍りついた。
「【ドリルミサイル】!!」
ジゼロジゼロの腕から、ドリルが発射された!
「はああっ!?」
「な!?」
火を噴いて飛んでいくドリル。
「火が出ましたわ!?」
ぶっ放した本人も驚いているが、ドリルミサイルは高速で飛んで行く。
「くうっ!!」
慌てて上空に逃げようと羽ばたく公主。
「なにっ!?」
「あらっ!?」
本人すら意図していない動きで、ドリルミサイルが追尾する!!
ミサイルが誘導兵器という概念はこの世界にはない。
だが異界因子を受けたスキルは、ミサイルの名の通り自動追尾していた!!
「おのれえ!!」
骨の槍の群れが盾となるべくドリルの前に立ちはだかる。
だが、そんなものは役に立たない。
ドリルミサイルは、骨を貫通していく。
「あっ、ああっ!?」
幾重もの骨の盾をブチ抜き、ドリルミサイルが突き進む。
「ひいいいいいいい!!」
悲鳴をあげて逃げ出す公主。
だが、遅い。
羽ばたきがミサイルの巡航速度に敵うはずがない。
「あぎゃああああああっ!?」
ドリルミサイルは目標を過たず、白骨公主の胸をぶち抜いた――




