52・白竜幕府(はくりゅうばくふ)
パコニカと白骨公主が遠間からにらみ合っている。
そのまま俺たちも少しずつ白骨公主に近づいていく。
やがて、謁見と呼べるような距離まで到着した。
「で、中立を破った理由はこちらの非じゃと?」
「そうじゃ。秘するべきものを、そちらの配下が漏らしおった」
二人の会話も気になるが、こっちは捕らえられた人々の方が気になる。
骨の檻の中にいるのは、明らかに防険者たちだ。
すがるような目線を、俺たちに向けて来る。
……だが、スパルネの姿は見当たらない。
カラの檻がいくつかあるのも気になるが……。
「奉族どもの所業など、わらわらは関知せぬ」
「それは随分と都合の良い話じゃのう」
「やつらはわらわらの機嫌を取るために、勝手に動いているだけじゃ。知ったことではないわ」
「それも白竜幕府が人の領域に侵攻したからじゃろうに」
「何が言いたいのじゃ? わらわに何をせよと言うのか」
「捕虜の解放じゃな」
その言葉に、檻の中の防険者たちの表情が輝く。
「別に人間どもの捕虜なぞどうでもよいが……わらわらはこやつらのスキルなぞ必要ないでな」
「……!」
人を攫っているのは、スキルを奪うため……!?
トカゲ人間たちがスキルを使っていたのは、生来のものではないということか!
たしかに、スキル前提の文化で弓矢や剣を持っているのは変だ。
奴らは、本来スキルを使えないのだ……!
「ならば、解放してもよかろうよ。のう、公主どの」
「そうさのう……」
白骨公主が骨の檻に目を向ける。
「ま、わらわは白竜帝さまに付き合おうておるだけのこと。そも、侵攻に興味もなし。ゆえに離してやるのもやぶさかではない」
白骨公主の角が淡く光る。
先ほどの稲妻とは異なり、力の行使がごく小さなものであるのが見て取れる。
これで解放される。
檻の中の防険者たちの顔に安堵の色が浮かんだ瞬間。
「が、嫌じゃ」
ぐしゃり。
トマトが潰れるような音。
「きゃあああああああああああああああああああ!?」
骨の檻がまるで折り畳み自転車のように畳まれたのだ。
白い骨の間から、赤黒い血が流れ落ちて、臭気が一気に辺り立ち込める。
俺はそれを茫然と見ていた。
ジゼロジゼロの悲鳴が、垂れ流しているラジオのように意識を上滑りしていく。
あまりに現実感がなくて。
「わらわの美しい鱗に傷をつけた人間どもなぞ解放してやるものか。ほほほ」
「てめえええええええええええええええ!!」
それが現実だと遅れて脳が理解した瞬間、怒りが沸点に達した。
こんな奴に、スパルネがさらわれたのだ。
そこから先など、想像を心が拒否する。
「わめくな猿。お前なんぞわらわの声を聴けただけ果報者じゃ。平服せよ」
「うるせえデカトカゲ!! ぶちのめしてやる!!」
「キーキーうるさい鳴き声じゃ。死ね」
角が発光し、稲妻が放たれる。
だが、そんなのは読めている。
咄嗟に生成したバナナの木の方が高い。
当然、雷はバナナの木に落ちる。
「所詮は猿知恵。すりつぶせばよい」
公主が角を光らせると、周囲の骨の檻が、まるで槍のような形状になって周囲に浮かび上がった。
その数は10を超える。
「なんですのあれ!?」
「気をつけよ! あれはあやつの権能【真髄支配】じゃ! 骨を操作して襲って来る! さっきのトカゲどもなぞよりよほどタチが悪いぞ!」
ファンネルってわけか!
漏斗ってなんだってなるだろうからいちいち口には出さない。
アニメのおかげで、未知の戦法がある程度読めるのはアドバンテージだ。
槍に見えて、あそこから稲妻を発射される可能性も考慮できる。
「っていうかいいのかパコニカ! なんか中立だったんだろ!?」
「構わぬ! コケにされてわしも頭に来ておる! ここで一発食らわせねば、沽券にかかわるでな!」
いつになくパコニカが怒りに燃えている。
雲を周囲に多数生成し、攻撃態勢に入る。
そこに、骨の槍がどんどん突っ込んでくる。
俺たちは雲で姿をうまく隠しながら、骨の槍の刺突をかわしていく。
「ジゼロジゼロ! なし崩しで巻き込んでしまった! やばいと思ったらすぐに逃げてくれ!」
「ふふっ、そのワイルドな物言いが素ですか?」
「そんなの言ってる場合じゃないだろ!」
「ですから、貴方は遠慮しすぎだと言っているのです」
「あ……」
「平気でおならをし合えるのが仲間だとお姉さまはおっしゃってましたわ! わたくしたちは仲間なのですから、いちいち確認などいらないのですよ」
趣旨がいい感じなんだけど、例えがあんまりよくない!!
だけど――
「ありがとう!」
「礼も不要ですわ!」
ゴーレムを生み出し、雲を突っ切って公主に突っ込ませるジゼロジゼロ。
だが、ゴーレムはあっという間に串刺しにされて崩れ落ちる。
「もののついでじゃ教えてやる! あやつらは白竜幕府! 遥か北方の火山列島を支配するドラゴンの一党じゃ! その島々が沈みそうじゃから、人の領域に攻め込んできたのじゃ! おっと同情はいらぬぞ! 他国の同族を頼るくらいなら人域を攻めとればよいと思っておるような奴らじゃからな!!」
よほど頭に来ているのか、何もかもぶちまける勢いでまくしたてるパコニカ。
だが、急に深刻な顔になり――
「……そして、おそらく、スパルネの嬢ちゃんは、奴の腹の中じゃ」
「!!!!!?????」




