51・白骨公主
稲妻の奔流が俺たちに直撃するより早く、全員でエレベーターに飛び込んでいた。
無論、雷の速度に見てから対処できるはずがない。
白竜が気づいたことがわかった瞬間、動いてギリギリ間に合っただけだ。
「間一髪……!」
エレベーターごと吹き飛ばされる可能性もあった。
だが、精霊の特別製であろうエレベーターの強度に賭けた。
果たしてそれは正解だった。
即座に二撃は撃てないと踏み、上がるボタンを押していたのを下がるボタンでキャンセル――やってみたら出来た――し、ドアを開いて飛び出す。
粉々の岩場に長方形の箱だけが突き立っている状態で、奴らもその異様さに油断などしていない。
まず見えたのは、駆けてくる六体のトカゲ人間たちだった。
ざっくりそう称しているだけで、蛇顔や亀顔もいる。
「気をつけよ! ドラゴン人間の姿が見えぬ!」
「そうか! 言ってたな!」
見えている六体にそれはいない。
奥の白竜は、今のところ動く気配がない。
稲妻を放てば味方を巻き込むからか、チャージに時間がかかるのかはわからないが。
「キシュウウウウウ!!」
蛇の鳴き声のような唸りを上げ、蛇顔が飛び出した。
「ゴシュアッ!?」
その顔面に、岩石が激突して吹っ飛んだ。
そのまま麓の斜面を転がっていく。
「近づいたら、危ないですわよ!!」
ジゼロジゼロが【岩石操作】で周囲の岩を玉状にして転がしているのだ。
転がる岩石は下手な武器より遥かに恐ろしい。
トカゲ顔の一体にも直撃し、薙ぎ倒す。
「皮膚病のサルどもがぁ!!」
亀顔が甲羅をうまい具合に当てて岩を弾き、突っ込んでくる。
その手には剣を握っている。
だが、その目に矢が突き立つ。
「グエエエエエッ!?」
「悪いけど、威嚇射撃してやる余裕はないんでね」
クロスボウで矢を乱れ撃ちにし、岩をかわしたトカゲ人間たちを射抜いていく。
岩も弓矢もかわすのは困難だ。
あっという間に倒れていく敵群。
「クソァ!!」
一体を残すのみとなったトカゲ頭が、怒りに燃え、その手から火の玉を発射してきた。
「スキルか!!」
だが、いまさらそんなもの――
「……!」
火の玉を回避した瞬間、殺気としか呼べないものを感じた。
額に鉛筆を向けるとジンジンする感じがあるだろう。
あの感覚がうなじに強烈に走り、全身に鳥肌が立つ。
オカルトではなく、全身の感覚器が言語化できない情報を拾って警告していたのだ。
その感覚を信じ、その場からダイブするようにかわす。
直後、立っていた位置の地面がえぐれる。
「くらえ……!!」
そこに目掛けて墨壺――工具としてのそれではなく、文字通りのもの――を投げつける。
「クエッ!?」
壺が割れ、墨を浴びて姿を現したのは三本角のカメレオンだった。
「おお、ドラゴン人間じゃ!!」
「(ジャクソンカメレオンじゃん!!)」
俺から見れば、こいつはジャクソンカメレオン人間だ。
だが、カメレオンを知らない世界の人間からすれば、ドラゴン人間にしか見えないのは当然だ。
それくらい異形であり、トリケラトプスを思わせる角をしているからだ。
そのカメレオン人間に剣を叩きこむ。
返す刀で火の玉を放ったトカゲ男に向かおうとするが、もう岩玉に吹っ飛ばされて斜面を転げ落ちていた。
あっという間にトカゲ人間たちは全滅した。
パコニカが何かをする必要もない――あるいはしなかった――ほどの早業だった。
味方を全滅させられた白竜が怒りに燃えているだろうと視線を向けると、白竜はあくびをしていた。
「余裕ってことか……」
「それはそうであろ? わらわがなぜ羽虫たちのことをいちいち気にかけねばならぬ?」
「!?」
それは白竜の声だった。
人間の声帯とは違うが鈴を転がすような女の声だった。
この距離で声が聞こえた?
いや、音速を考えたらありえない。
口の動きを見たのか!?
だが、視線なんか向けてすらいなかった。
周辺視野の視力が人間をはるかに超えるということか?
「奉族なぞいくらでも替えが効く。それよりわらわが気になっておるのは、おぬしのほうだ」
白竜の視線は、ある一点に向いていた。
「……」
「中立の約定を破ったと見てよいかの、パコニカどの?」
「それはこっちのセリフじゃよ。白竜幕府・白骨公主どの」
パコニカと、白竜――白骨公主と、視線が絡み合った。




