48・死、あるいは
心臓を電撃が撃ち抜く。
一度大きく跳ねた心臓が、動きを止めたのを感じる。
ほどなく血流は止まり酸素を失った脳が、思考が停止する。
その止まった血の代わりに、死が全身に行き渡っていく。
指一本動かせず、意識は闇に落ちていく。
死――
ああ、なんだ。
そんなこと、経験済みだ。
俺は一度死んだんだから。
強烈な既視感。
死の手触り。
それを自覚した時、心臓ではない胸のどこかで、何か歯車が噛み合う感覚を覚えた。
脳内を何かが一気に駆け抜けていく。
それは前世の走馬灯。
警官として生き、ブラックさに挫折し、一般企業に就職するもそこもブラック。
心身を壊し、孤独をかこち、全てに絶望し、以降はただ無難に生きるだけ。
自身が摩耗していくのがわかるが、何もアクションを起こせない。
健康も、金もない。
そんな男に誰が近寄る?
トラックに轢かれるといった劇的な死ではなく、自室で心筋梗塞を起こし、激痛の中、誰に助けを求めることも出来ず、死んでいった中年。
平穏だけを望み、何も手にすることなかった男の物語。
助けてくれる人などいない。
愛してくれる人などいない。
みじめなみじめな……透明人間。
ならばその人生はとうの昔に死んでいたようなもの――
「……!」
どくんっ、心臓が跳ねる。
臨死は一瞬だったのだ。
長い長い一瞬。
溢れ出す情報量に、血流を無視して脳が起動する。
「あああああああああああああああああああああ!!」
衝動の赴くまま、カカシ兵に突っ込んで行く。
研ぎ澄まされた意識は、雷弾の飛んでくる方向を感覚で把握する。
確信にも似たそれに従い、銃撃を避けて肉薄。
「うああああああああああああああああああああ!!」
胸の内にわだかまる黒い衝動を、右手に流し込む感覚。
殺意というより、希死念慮にも似た、どろどろとした感情を。
前世の無念を。
【■】を。
自分の内から、相手に押し付ける!
その一念で、右手をカカシ兵の胸に突き入れる。
「――!!!」
カカシ兵は声なき声で絶叫する。
声帯のない人形が、それでも何かを叫んでいるかのようだ。
黒い何かが胸から這い回り、カカシ兵の全身を覆いつくす。
そして、焚火に入れた雑誌のように、薄い層状の灰の塊となる。
灰は当然、自重で潰れてしまい、その場に崩れて積み重なる。
「なんですの……それ……?」
ジゼロジゼロが茫然とつぶやいた。
得体の知れない現象でも、本能的に何かを悟っているように。
俺も、理解した。
これが、【バナナ型神話】というスキルの本質。
いや、あの神話の本質。
バナナを生成するというのは、あくまで不随する要素でしかない。
真の意味とは――
「そういう、ことか……」
人類は、神からバナナか石を選ぶよう迫られた。
バナナを選んだ人類は、石の持つ不死性を失った。
そう、バナナ型神話の本質とは、人類に死を付与したこと。
死の始まりの神話――
「おめでとうございます。ついに目覚められましたね。【死】に」
バトラーの能天気な拍手だけが、静寂の中に響き渡った……。




