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48/74

48・死、あるいは

 心臓を電撃が撃ち抜く。

 一度大きく跳ねた心臓が、動きを止めたのを感じる。

 ほどなく血流は止まり酸素を失った脳が、思考が停止する。

 その止まった血の代わりに、死が全身に行き渡っていく。

 指一本動かせず、意識は闇に落ちていく。

 死――


 ああ、なんだ。


 そんなこと、経験済みだ。


 俺は一度死んだんだから。

 強烈な既視感。

 死の手触り。

 それを自覚した時、心臓ではない胸のどこかで、何か歯車が噛み合う感覚を覚えた。

 脳内を何かが一気に駆け抜けていく。

 それは前世の走馬灯。

 警官として生き、ブラックさに挫折し、一般企業に就職するもそこもブラック。

 心身を壊し、孤独をかこち、全てに絶望し、以降はただ無難に生きるだけ。

 自身が摩耗していくのがわかるが、何もアクションを起こせない。

 健康も、金もない。

 そんな男に誰が近寄る?

 トラックに轢かれるといった劇的な死ではなく、自室で心筋梗塞を起こし、激痛の中、誰に助けを求めることも出来ず、死んでいった中年。

 平穏だけを望み、何も手にすることなかった男の物語。

 助けてくれる人などいない。

 愛してくれる人などいない。

 みじめなみじめな……透明人間。

 ならばその人生はとうの昔に死んでいたようなもの――


「……!」


 どくんっ、心臓が跳ねる。

 臨死は一瞬だったのだ。

 長い長い一瞬。

 溢れ出す情報量に、血流を無視して脳が起動する。


「あああああああああああああああああああああ!!」


 衝動の赴くまま、カカシ兵に突っ込んで行く。

 研ぎ澄まされた意識は、雷弾の飛んでくる方向を感覚で把握する。

 確信にも似たそれに従い、銃撃を避けて肉薄。


「うああああああああああああああああああああ!!」


 胸の内にわだかまる黒い衝動を、右手に流し込む感覚。

 殺意というより、希死念慮にも似た、どろどろとした感情を。

 前世の無念を。

 【■】を。

 自分の内から、相手に押し付ける!

 その一念で、右手をカカシ兵の胸に突き入れる。

 

「――!!!」


 カカシ兵は声なき声で絶叫する。

 声帯のない人形が、それでも何かを叫んでいるかのようだ。

 黒い何かが胸から這い回り、カカシ兵の全身を覆いつくす。

 そして、焚火に入れた雑誌のように、薄い層状の灰の塊となる。

 灰は当然、自重で潰れてしまい、その場に崩れて積み重なる。


「なんですの……それ……?」


 ジゼロジゼロが茫然とつぶやいた。

 得体の知れない現象でも、本能的に何かを悟っているように。

 俺も、理解した。

 これが、【バナナ型神話】というスキルの本質。

 いや、あの神話の本質。

 バナナを生成するというのは、あくまで不随する要素でしかない。

 真の意味とは――


「そういう、ことか……」


 人類は、神からバナナか石を選ぶよう迫られた。

 バナナを選んだ人類は、石の持つ不死性を失った。

 そう、バナナ型神話の本質とは、人類に死を付与したこと。

 死の始まりの神話――


「おめでとうございます。ついに目覚められましたね。【死】に」


 バトラーの能天気な拍手だけが、静寂の中に響き渡った……。

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