43・【深世界】にて
ドリル。
一番単純な螺旋状の棒と、それを回すためのハンドルがあるもの。
しかし、俺の目の前にあるのは、アニメに出て来るような三角のドリル。
「ドリルとはなんじゃ?」
「穴を開けるための道具なんだけど……」
「ほあ! だったら渡りに船ですわ! さっそく使ってみましょう」
「そうなんだけど……」
アニメ調のドリルでは、突き刺すくらいは出来るだろうが、地面を掘り進むことなど出来ない。
あれで地面を掘り進められるのはファンタジーなのだ。
……いや、待てよ?
そもそもこの世界自体がファンタジーだ。
あるいは――
「ええと、スイッチとかあるのかな……」
ドリルを手に取る。
持ち手はあるが、トリガーはない。
米袋のような重量感で、片手ではもてない。
「わしも色々いじくってはみたんじゃがな。つまみを回してみても、何も起きぬ」
「つまみ?」
たしかに、よく見たらつまみがある。
……ん? これ見覚えがあるぞ。
警官時代に、草刈りをしたことがあって使った草刈り機にも同じようなものがあった。
そうだ、あれだ。
おもむろに、つまみを引き抜く。
「おい!? 壊す気か!?」
「よく見て」
「む?」
つまみにはワイヤーが繋がっている。
「これはスターターなんだ」
スターターを何度も引く。
ブルンブルンと音を立て、エンジンが起動する。
「おお! まさかそんな使い方をするとは!?」
「だ、だだだだ大丈夫ですの!? どぅるんどぅるん言ってますわ!?」
直後、ドリルの刃が回転し始める。
「回りだしましたわーーー!?」
「ケロッ!? どういう仕組みなんじゃ!? どう使う!?」
「たぶんこう……」
回転するドリルの刃を土壁に当てる。
ドドドドドドドと軽快な音が響き、壁に穴が開いていく。
ドリルの直径より、出来る穴のサイズが大きい。
本当は出るはずの穴が開いた分の土砂は、どこかに消えていく。
アニメのドリルそのままだ。
腕一本のドリルで機体丸ごとのスペースを確保しながら地下を掘り進むスーパーロボットのようにどんどん突き進んでいく。
ガンガン進んでも上や左右の壁が壊れないのは、あるいは土砂はどこかに消えたのではなく、周りを圧縮して固めているのかもしれない。
「すごいですわ! すごいですわ!」
「ドリル……興味深い……」
語彙を失うジゼロジゼロと、学者としての興味を抑えきれないパコニカが後ろからついてくる地底旅行は、あっさりと終わりを告げた。
「お」
突如、開けた空間に出たのだ。
穴の向こうは、小部屋だった。
テーブルがあり、その上にはショートケーキが置かれていた。
「なんじゃここは。誰ぞの家か?」
「あ、ケーキがありますわ」
ん?
よく思い出せないが、既視感がある。
いつかどこかで見たような……。
「食べるでないぞ?」
「失礼な。わたくしだってマナーというものがあります。ひとさまのケーキをつまみ食いなんかしませんわ。ぷんすこ」
口でぷんすことか言う人いるんだ……。
しかし、そういう理性があってよかった。
「あ、でもご自由にどうぞって書き置きがありますわね。じゃあありがたく」
「え」
止める間もなく、ジゼロジゼロは皿を持ち上げて流し込むようにケーキを食べてしまった。
「うまうま」
「何やってんだーーーーーーーーー!?」
「罠かもしれんじゃろが!! 毒入りだったらどうするつもりじゃ!!!」
「ほ?」
ほじゃない!
と言おうとした瞬間、ジゼロジゼロの体が一回り大きくなった。
「こんな狭いところでスキル使わないでくれ……」
「むしゃ、スキルなんか使っておりませんことよ?」
「え?」
この巨大化は【大地母神】ではない?
瞬間、脳裏に閃くもの。
昔、読んだことがある!!
「不思議の国のアリスだ!!??」
「ほあ?」
次の瞬間、ジゼロジゼロの体が巨大化し、家を埋め尽くした。
「もきゃーですわーーーーー」
膨れ上がったジゼロジゼロのどこかのお肉に埋まってしまう。
柔らかい感触とか言っていられる余裕はない圧迫感。
みしみしと家が音を立てているので、ほどなく家を破壊するだろう。
その時、解放されるはずだ。
意識が持っているかはわからないが。
暑苦しい。とても。
その朦朧とする意識の中、肉の向こうからパコニカのかすかな声が聞こえてきた。
「……やはりこの大迷宮……小僧のために用意されたとしか思えぬ……」




