41・変貌する大迷宮
ドラゴン。
それは例にもれず特別な生命体だ。
大迷宮の地下一階の砂漠に砂竜が出てきたが、あれは厳密にはドラゴンではない。
オオトカゲの仲間だ。
本物のドラゴンは、「生来、スキルを使用できる種族」であると言われている。
特徴としては角があり、人間が皮膚で【万気】を吸収してスキルを発動するように、角でそれを行う。
その収束率は人間の比ではないとされる。
すべてのドラゴンが、【国宝防険者】と同等かそれ以上の能力を持つという。
伝聞ばかりなのは、極めて珍しい生き物だからだ。
主に火山を好むと言われており、人類と生存圏を共有しないので、ほとんど伝説の中の生き物だ。
ジーロやジゼロジゼロの由来となった伝説の竜ジゼロォに至っては【神の気まぐれ】とあだ名されるほど、常識はずれの強さだったという。
「ドラゴン人間か……」
「うむ、明らかに角があったでな」
「……参ったな。スキルを使って来るよね……きっと」
「でも、亀人間もスキルは使って来ていたでしょう? 同じではなくて?」
確かに亀人間は、蛇を操っていた。
トカゲ人間も姿を消すことが出来た。
だが――
「うーん、個人的には、スキルとは違う能力な気はするんだよね……少なくともカメレオンの方は」
「難しいですのね……」
「だけど、ここで戸惑ってる暇はない。行くしかないんだ」
「そうですわね! スパルネさんを助けて差し上げなくては!」
「わしも行くぞ」
「え?」
パンパンとホコリを払いながら、パコニカがさらりと言った。
「なぜ? 正直、あなたがまた大迷宮に潜る理由がわからない」
「本当に正直に言いおってからに。まぁわしにはわしの理由があるのじゃ。攻略するにもわしの能力は便利なはずじゃ」
「……」
あまりにも、不自然不可解な部分が多いパコニカを、信用すべきかどうか。
しかし、雲でのショートカットはあまりに魅力的だ。
「いいじゃないですか。ご一緒しましょうよ」
「ジゼロジゼロは気にならないの?」
「だまされていたら、その時はその時ですわ。昨日一昨日とあれだけ世話になったのですし」
あっけらかんと言ってのけるジゼロジゼロ。
この純真さは、俺にはまぶしい。
「わかった。俺もパコニカを信用する」
「そうこなくてはな。ただ、これだけは言っておく。言えぬこともあるし信用せいと言っても無理かもしれんが、わしは敵ではない」
「ああ、多分、そうなんだろう……」
ジゼロジゼロが言うように、これまで助けてくれたのは確かなのだ。
それを全く無きが如くに疑うのも失礼というものだ。
そんなわけで、再びこの三人で大迷宮に潜ることになった。
*
大迷宮の周囲には魔物もおらず、難なく辿り着くことが出来た。
二度の【千魔夜行】で出払い切ったのかもしれない。
入り口が破壊されていたら……と思ったが、そんなこともなかった。
魔物の群れが踏み荒らしていったので、むしろ歩きやすくなっていた。
逆に言えば、魔物たちは一方通行だったということだろう。
普段から出入りしていれば、足跡が一つだけ残っているなどということはあり得ない。
エレベーターの壁は気づかれていないのか無傷だったが、今回はこちらに用はない。
「ドラゴンは火山を好む。おそらく、奴らの拠点は温泉エリアのどこかにあるじゃろう」
パコニカの読みに賛成だ。
砂漠も湿地も、拠点を作るのに不向きすぎる。
宇宙は論外だ。
そうなると、一択。
というわけで、大迷宮に地下一階に乗り込んだのだが……。
「どういうこと!?」
地下一階は、大きく姿を変えていた。
具体的には、砂嵐が吹き荒れている。
「なんじゃ知らなんだか。地下一階は時折、砂嵐が吹く。前は凪の時期だっただけじゃ」
「そうなんだ……」
「わし調べじゃが、この大迷宮は各階に二つの属性が強く働いておる。砂漠は土と風、大湿地は水と土、温泉は水と火というようにな」
「なるほど……」
やはり、精霊の力なのだろう。
精霊とトカゲ人間たちに何か関係があるのだろうか。
「でも厄介だね……」
「流石に雲でどうこうできるものじゃなし、普段なら待つのが無難じゃが……」
「そういうわけにもいかない。一刻も早く、スパルネを助けないと。それにもしかしたら、敵も砂嵐で足止めを食ってるかもしれない」
「口は布で塞げばよいが、ゴーグルはわしのぶんしかないしの……」
パコニカは荷物入れからゴーグルを取り出す。
何度も調べていただけあって用意がいい。
落下して傷だらけだった中で、ゴーグルが割れなかったのは幸運だろう。
「ふっふっふ……わたくしに名案がありますわ」
ジゼロジゼロが自信満々だと一抹の不安があったが……結論から言えば杞憂だった。
「レッツゴーですわ!」
手近な岩場から素材を拝借し、【岩石操作】でゴーレムを作成。
ゴーレムには、ゴンドラのように人を乗せられる部位を作ってある。
そのゴンドラは上部に開閉式の空気穴があるが、正面や側面にはなく、砂の入りにくい構造だ。
俺たちは労せず、進むことができるわけだ。
そこまで細かい造形は出来ないが、よく考えられている。
疑ってごめん。
「でも……どっちに進めばいいんですの? わたくしが立てた塔も見えませんし……」
「風化しておるかもの。じゃが心配はいらぬ」
パコニカが出したのは、コンパスだった。
「これはの、ツイコンと言って、対となるコンパスにのみ反応するように作られたものじゃ。無論、階段に設置しておるゆえ、場所はわかるのじゃ」
「おお! すごいですわ!」
「どうじゃ? わしを連れて来て良かったじゃろう?」
「そうだね。認めるよ」
「ケロケロケロ。よい気分じゃ」
「ああ、やっぱり」
「なんじゃ?」
「いつもにゃははと笑っていたけど、素の時はケロケロなんだね」
「……それは、気づかなんだ」
ともあれ道中は比較的順調に進んだ。
最初に来た時にあった砂丘は嵐で崩れていたため、登ったり迂回する必要もなく、どんどん進むことが出来た。
砂嵐のせいか、【千魔夜行】のせいか、これと言った魔物にも遭遇しない。
心配していた罠にも遭遇しなかった。
この砂嵐が時折起こるなら、何も仕掛けようがないし、悪いことばかりでもないらしい。
外を確認する際に僅かに小窓を作り、そこからゴーグル着用のパコニカが覗きつつ、ただひたすらずんずん進んで行く。
そして、階段のそばに辿り着いた。
砂嵐は幾分ましになっているが、ゴーレムの外に出るとなかなか辛い。
「何か、いる……?」
階段前に、異様な存在がいた。
「なんじゃあれは……」
パコニカの驚きようからして、彼女も初見ということか。
だが、居た……と言っていいのだろうか。
それは、むしろ空白だった。
砂嵐にぽっかりと空いた、無の空間。
人型の空白が、そこにあった。




