40・開示された情報
「死ぬかと思ったわい」
服もボロボロで擦り傷だらけのパコニカは、ジゼロジゼロから水筒を渡されるとそれを一服したのち、しみじみつぶやいた。
深手はないらしく、会話する分には支障はなさそうだ。
「何があったの? 生気を吸われたようにも見えないけど……」
「ふむ。さっそく疑っておるようじゃな」
「な……!」
「嬢ちゃんに情報を共有したんじゃろ? 失敗じゃったな。これほど顔に出る娘に言えばバレバレじゃ」
ジゼロジゼロを見ると、汗だらだらで目が泳ぎまくっていた。
もう一万人遠泳大会くらい泳いでいる。
「ぴゅーぴゅー」
口笛も吹いている。下手だ。
うん。
こりゃダメだ。
「……うん、正直疑っていたよ。だから、倒れていて驚いた」
「じゃが、魔物に襲われたなら、生気を吸われているはず。不自然だ、かの?」
「全部お見通しかぁ……」
「わかりやすいんじゃよ。おぬしらは。……まぁ嬢ちゃんはそこまで考えてはおらんかったじゃろうがの」
「もちろんですわ! 普通に心配してましたわ!」
「……他人事ながら心配じゃの」
心配された。
あるいは、話を逸らされた、か。
「話を逸らす意図はないぞ」
何でもお見通しらしい。
なら、腹芸はしないほうが楽だ。
「じゃあ、何で倒れてたの?」
「あの部屋をひとしきり調べた後、機材を保管しておる温泉に戻ろうとしたんじゃがな……例のエレベーターは地上と神殿の移動しか出来ぬ。じゃから、一旦1階から潜り直したわけじゃ」
そうか。あのエレベーターには上と下のボタンしかなかった。
回数指定は出来ないのか。
神殿までとそれ以降を選ぶことが出来るのか、それとも一回神殿に降りてから、もう一度下を押さねばならないのかはわからないが。
「そうしたら、地下一階に魔物が大量発生しておっての。出口に殺到するところに出くわしてしもうたわけじゃ」
「なっ!?」
「命からがら外に逃げだして、雲の上に避難したんじゃが、力尽きてまぁまぁの高さから落下してしもうての……このざまじゃ」
「なるほど……」
言われてみれば、近くの木々の枝がへし折れて葉っぱが散らばっている。
あの上に落ちたのだろう。
だが、そんなことより――
「じゃあ、【千魔夜行】に出くわしたんですの!?」
「千魔……あぁ、そうか。昼間じゃったで気づかなんだが、確かに【千魔夜行】じゃな」
……何だろう。
少し違和感があった。
【千魔夜行】と言われるのがそんなに意外だったのか?
「ということは、やはり侵深偵団は大迷宮で魔物を繁殖させていたのですわ!」
「なに!?」
パコニカが飛び上がらんばかりに驚く。
「ど、どうしたんですの!?」
「今なんと言うた?」
「侵深偵団は――」
「侵深偵団じゃと……」
サングラスで瞳は見えないが、寄せられた眉根でその困惑が伝わってくる。
相当な考え込みように、嫌が応にも緊張感が高まる。
「何か知っているんですね?」
「……今は言えぬ。たとえ疑われたとしてもの」
上手い。
疑われているのを分かったうえで、出す情報をコントロールしている。
「にゃはは。じゃから顔に出ているわ。坊主はなかなか腹黒いの」
「……人の事言えないでしょ」
「もっともじゃ。じゃから、代わりにいい情報を教えよう」
「……!」
瞬間的に、空気が変わる。
自然と、ごくり、唾を飲み込んでいた。
「美味しい料理店の情報ですの?」
「ごめん。ジゼロジゼロ、少し黙ってて」
「ひどいですわ!」
落ち込むジゼロジゼロはさておき。
「……わしも逃げるのに必死じゃったから、一瞬しか見えなかったが……奥に向かう魔物の群れの中にスパルネがおったぞ」
「!!!??」
「ほあ!!??」
……いた!
やはりここだった!!
「うむ、どうやら見間違えではなかったらしいの。おぬしたちが二人で戻ってきたのは、それが理由じゃろうしな」
「スパルネはどうしてたの!?」
「骨の檻のようなものに入れられて、ゴブリンたちに運ばれておった。ほとんどの魔物は入り口に向かっておったのに、その一群だけは奥に進んでおった」
「一体……何が目的なんだ……?」
「わからぬ。じゃが、ゴブリンを率いている者は見た」
「あ、わかりましたわ! トカゲ男でしょう!」
「トカゲ……そうとも言えるかもしれぬが……」
妙に歯切れが悪いな……。
「あれはどう見てもドラゴン人間であったな」
「ええっ!?」




