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39・プチクレイジードライブ

 これ以上神殿内を騒がせるわけにはいかないので、大迷宮への道すがら話すことにした。

 流石に、人が集まって来て出来る話じゃない。

 例によって、ジゼロジゼロの岩石カーで移動している。


「やはり信じられませんわ。パコニカさんが敵だなんて。保存食もくれましたのに」

 

 それは餌付けじゃないのか。


「敵だと決まったわけじゃないよ。でも注意したほうがいいのは確かなんだ」

「根拠はありますの?」

「いくつかある。まず、何か演技しているように見えること」

「演技? 何がですの?」

「パコニカは笑う時、にゃははと笑ってたよね」

「ええ」

「でも、不意に笑う時はケロケロケロと笑うんだ」

「ほ? いまいちピンと来ませんけれど……」


 ケロケロなんてカエルみたいな笑い方だ。

 爬虫類と両生類は別物だが、それもひっかかる。


「もちろん、それだけじゃない。パコニカがしていたサングラスだ。あんなもの、見たことがない」

「ああ、珍しい色眼鏡でしたわね。でも色付きのガラス自体は珍しくないでしょう?」

「黒のガラスというのが気になるんだ。そんなの見たことがないから……」

「うーん、気にしすぎじゃありませんの?」

 

 なかなかここは説明が難しい。

 地球の歴史でも、サングラスが出来たのは、近代くらいだったと思う。

 少なくとも、昔の肖像画にそんなものはない。

 あの野球帽のような帽子も気になってはいるけど、それは偶然かもしれない。

 疑い出したらキリはないが……。


「一番気になるのは、外れ大迷宮を調べていたことなんだ」

「ダンジョン考古学者なのでしょう? 不思議ではないのでは?」

「それはそうなんだけど、侵深偵団が活動していた可能性が高くなって来たでしょ? それなりに長く調査を続けれていたというのが不自然じゃないかな?」


 紫の気珠がそれを裏付ける。

 如何にパコニカが雲で飛べるとはいえ、本当に無事でいられるだろうか。

 それに、パコニカは侵深偵団に言及しなかった。

 違和感は多い。


「どれも偶然と思えますわ。あれだけ広かったわけですし」

「確かにそれはあるんだけど……」


 これは言うべきか迷うが……。

 しかし、もしそうだったら取り返しがつかない。

 やはり、言っておくべきだろう。


「……ファルケファルケと戦った雲の中の敵は、雷雲を操った。パコニカかもしれない」

「ほあっ!?」

「雨しか操っていなかったけど、考えてみれば雲が操作できるなら雷を使わないのは変だ」

「そ、そんなことはないでしょう。【水】と【雷】は別の属性ですし……」

「雲の中の摩擦で、雷を起こすことが出来るんだ。それはスキルの属性とは関係ない自然現象なんだよ」


 属性というのは、発現するスキルの種別に過ぎない。

 個々が操れるものがその属性であるというだけだ。

 【雷】でも火は起こせるように、結果を属性のみに固定するわけじゃないのだ。

 

「うーんうーん……」


 ジゼロジゼロは考え込んでしまった。

 頭から煙が噴きだしそうな悩みっぷり。

 人っ子一人いない街道だからいいが、運転手としてはあまりよろしくない。

 車型のゴーレムのようなもので、ハンドル操作ではなく都度都度スキル使用で命令を変えるだけだが。

 やがて、頭の上に豆電球が浮かびそうなほど、そういう顔をした。


「閃きましたわ! 直接問いただしてみればいいのですわ!」

「……うん。確かにそれが道理だ」

「間違っていたら、二人で謝りましょう!」

「って、前―――――っ!?」

「ほあ?」


 運転中に気を取られていたジゼロジゼロは気づいていなかったが、藪からゴブリンが飛び出して来た。


「どいてですわーっ!?」


 車は急には止まれない。


「ピギャアーーーーーーーーッ!?」


 轢いた。

 ヒラタケのように潰れたゴーレムの死体が風景と共に背後に流れていく。


「……運転中に考え事は危なそうですわね」

「……そうだね」


 それからしばらく、ジゼロジゼロは目に見えて落ち込んでいた。

 あれが人間だったら大変なことだったからね……。

 もちろん、人通りのあるようなところでは話しかけたりはしないが……。

 しばらく無言のまま進み、日も沈んで夕暮れになってきた。


「そろそろ大迷宮だね」

「……ですわね」


 まだ落ち込んでいる……。


「一つ想像していたことがあるんだけど」

「車止めましょうか? 話すの危ないですわ」

「ここに来る人はいないから大丈夫」

「本当? 本当に大丈夫ですか?」


 めちゃくちゃ心配している。


「大丈夫だって。何ならスピードを落としてもいいし」

「それは名案ですわ!」


 徐行するジゼロジゼロ。

 大雑把なのに、こういう調整は妙にうまい。


「それで、何でしたっけ?」

「仮定を話しておきたいんだ。急な事態にショックを受けないために。もしかしたら、侵深偵団に大迷宮自体が破壊されているかもしれない。こちらの戦力を削ぐためには破壊するのが合理的だから」

「なるほど……その場合、スパルネさんの行方はわからない……」

「そしてもし、パコニカが敵だった場合、エレベーターが破壊されていたり罠があるかもしれない」

「……どちらもあまりしたくない想像ですわね」

「そうならないことを祈るよ」


 やがて、大迷宮のある山が近づいて来た。


「ああっ!?」


 先に気づいたのはジゼロジゼロだった。

 ゴブリンを轢いて以来、かなり気を張って注意していたからだろう。


「どうし……あっ!?」


 街道脇に、誰か倒れていた。

 その姿に見覚えがあった。


「パコニカさんですわ!!??」

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