38・幕間あるいは漫才
「すぴゃー……ひゅるひゅるひゅる……すぴゃー……ひゅるひゅるひゅる……」
「……はっ!?」
目が覚めた時、そこは見覚えのない天井だった。
大ヒットアニメが一瞬頭を過ったが、そんなことはすぐに掻き消える。
「どこだ!!??」
跳ね起きる。
広がる視界。
「神殿……?」
神殿のどこか小部屋で寝かされていたようだ。
簡素なベッドで目が覚め――
「すぴゃー……ひゅるひゅるひゅる……」
隣に、幸せそうに寝ているジゼロジゼロがいた。
「おーい」
「ん~……まだ食べられますわ……」
本当にこんな寝言を言う奴がいるのか。
しかも満腹になっていないver。
「……朝ごはんですの……?」
「違う。それより説明して」
「せつめい……?」
ダメだ。全く頭に糖が回っていない。
バナナを生成して渡すと、一瞬の躊躇なくもしゃもしゃし始めた。
……こいつも、ハムスター人間なのかもしれない。
ともあれ、おかげで一呼吸おけたので頭が回るようになる。
頸動脈を絞めて落とす柔道技は、警官時代に道場で鍛錬中に同僚から食らったことがある。
柔道が得意な同僚が、剣道三倍段が事実かどうか試すとか言い出したので、遠慮なく面をぶち込んだら逆切れして乱闘になり、色々あって最後落とされた、どうしようもない記憶。
あの時と全く同じ感覚だった。
「……ダンバドさんが、俺を落としたんだね?」
「もしゅ」
喪主。
「食べてからでいいよ……」
「そうですわ。そうでもしないと、ぼろぼろのまま向かっていたでしょう?」
「……」
それは全く否定できない。
確実にそうしていたはずだ。
焦り。
恨み。
そう感じないほど人間をやめられてはいない。
だが、それと切り分けて冷静に考えられないほど、前世の社会人経験は伊達でもない。
――彼の判断は、正しい。
「それでわたくしが付き添って見ていたのですわ」
寝てたじゃん!
「……おかげで、体力も回復した」
窓に目を向けると日は傾き始めているが、急げば夜になる前に大迷宮には行けそうだ。
それを考えると、おそらく3時間程度の気絶だったのだろう。
「俺は大迷宮に行く。……君はどうする?」
「もちろん行きますわ」
「……断ると言ったら?」
「? 行くと言ったら行きますわ」
……もしかしたら案外、暴君かもしれない。
「俺は後悔してるんだよ……スパルネを連れて行くべきじゃなかったって……だから……」
「そしたら、捕まっていたのはお姉さまだったのでしょう?」
「!」
その、通りだ。
「お姉さまを助けてくれたスパルネさんを助けないといけません。何より、実際に助けに行けるのはわたくしたちだけなのです。なら、行かない選択肢はありませんわ」
「一つだけ約束をして」
「しますわ」
即答すぎて心配になる。
ジゼロジゼロを信用できないという意味ではなく、何か詐欺とかに遭いそうで怖い。
前世の職業柄、そういう子も見てきたし……。
だが、約束を破るタイプではないのはわかる。
「危険だと思ったら逃げる。俺がその判断をしたら絶対だよ。いいね?」
「構いませんわ。その時は残念ですけど、お姉さまの回復を待って、もう一度行きますわ」
「正しい判断だと思う」
だがファルケファルケの怪我は重かった。
如何に回復スキルがあるとはいえ、一日二日では回復できないだろう……。
「わかった。一緒に行こう」
「ええ。それじゃあすぐに……」
「ちょっと待って。行く前に、一つ話しておかないといけないことがある」
「なんですの? 神妙な顔をなさって……」
「驚くとは思うけど、落ち着いて聞いて欲しい」
「落ち着くのは得意ですわ。小さい頃からお姉さまに、ジゼロジゼロは食べ物さえ与えておけば泰然自若としているな、と言われていたものですわ」
前提条件に不安になるが……信じよう。
「パコニカは敵かもしれない」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
神殿中に響き渡りそうな声が、鼓膜をつんざいた。




