37・再深攻
カペローラがソルダを見舞いに戻るのと入れ替わるように、ダンバドが頭を掻きむしりながら、やってきた。
……服のあちこちについた血の染みは見ないことにする。
服と言ってもへそ出し半ズボンの薄着なので、それでも着いている血だから余計怖い……。
「どうでした?」
「……自決した」
「なっ!?」
予想は出来ていた……!
だが、これでスパルネは……!!
「だが、その前にいくつか情報は引き出せた」
「スパルネさんはどこですの!?」
「外れ大迷宮ですよ」
「ええっ!?」
は? はぁ?
どういうことだ。
全く想像していなかった情報に、動揺が隠せない。
「何でそんなところに!?」
「それはわからない。引き込むための罠の可能性も高い」
「いや、それはないはずです。俺たちが攻略したばかりですが、罠らしきものはなかったですから」
「攻略? 神殿までたどり着いたってのか?」
「ええ、まぁ……」
「酔狂な奴がいたもんだな……いや、それよりそうだってんなら聞きたいことがある。中の魔物は何色の気珠を持っていた?」
「何色って……」
言われて思い出した。
魔物の中には見たこともない紫の気珠を持っているものがいた。
ゴーストに至っては金色だった。
「この色じゃねえか?」
ダンバドがポケットから取り出したのは紫の気珠だった。
「そうです。初めて見ました」
「だろうな。俺もだ。これは【千魔夜行】の魔物の死体から、ゴロゴロでてきたものだ」
「あ」
「なら罠じゃなく、魔物を配置してたのかもな。あるいは、そこで魔物を繁殖させていたのかもしれねえ」
だとすれば、迷宮にスパルネを連れ去ったというのも、真実である可能性が高くなる……!
「ああ、そうだ。奴らの軍団の名前が分かったぞ」
「!」
「その名を侵深偵団。威力偵察を行う部隊だそうだ」
「あれで威力偵察……?」
この国、第二の都市が壊滅し、最強戦力が重傷を負ったというのに?
その気になれば、国の一つや二つ、楽に落とせる戦力があるということか……?
「実際、わずか数人だったしな。信憑性はそれなりにあるだろう」
「そもそも、どこの国の部隊なんですの? いま敵対している国もないはずですが……」
「どこでもない、奴はそう繰り返すばかりで。嘘をついているようには見えなかったですがね」
この国では、貴族という存在は特権身分というより古来よりの大富豪のようなニュアンスだ。
王族直系を除くと身分制度としてはかなり緩く、敬意は払われつつも、ある程度フランクに接することも珍しくない。
流石にダンバドはジゼロジゼロを下に置かないのを徹底しており、彼女が貴族なのだと思い出す。
そんなことより、どこでもないとはどういうことだ?
単なる煽りか?
「……!」
さんざん、漫画やライトノベルを読んできた自分ゆえ、脳裏に閃くものがあった。
だとすれば、見慣れないカメレオンの姿だったのも説明がつく。
そもそも、「その前例」はあるのだ……。
俺という前例が。
そう、奴らは異世界から来たのだ。
俺が転生した以上、無いとは言い切れまい。
おそらくは転生ではなく転移なのだろうが、地球とは異なる世界からの来訪者がいてもおかしくはない。
だが、これを信じてもらうのは難しいだろう。
「とにかく、それ以上のことはわからなかったんでね。アネさんはここに預けて、俺は急ぎ首都に戻る」
「全軍で迷宮に潜るんですの?」
「情報はフェイクの可能性も高いですね。意味がわからなすぎます。もちろん部隊は送ることにはなりますが……」
「……それでは遅すぎる」
思わず声が出ていた。
「ジーロ?」
「……俺は、大迷宮に潜ります」
「それは賛成できねえ。どんな罠が仕掛けられているかもわからんし、都市を落とせるような奴らだぞ」
「だからこそです。俺一人ならたいした損失じゃない」
「ガキが生意気言ってんじゃねえぞ!!」
ダンバドが俺の胸倉を掴んでくる。
若い男は上半身裸が多い――俺は薄着程度――この世界でも胸倉を掴む文化があるのだな、と呑気な思考が脳裏を過る。
「なんだその落ち着きは……その年でどれだけ修羅場を潜ってきたんだお前は」
違う。
警官時代に酔っ払いに絡まれることが多かっただけだ。
だが、いいように勘違いをしてくれたようだ。
「……そこまで覚悟決めてるやつは、止めてもどうせ行く、か……」
左手で頭をかきながら手を放すダンバド。
「だが、少しは休んでいけ。流石に死ぬぞ」
「そうですわ! 休みなしに連戦してるではないですか!」
「いや、回復スキルをかけてもらって強行軍で行く。流石に女の子がさらわれて放置は出来ない」
敢えて口にはしないが、流石に亀人間やトカゲ人間が、人間を慰み者にすることはないだろう。
逆に言えば、それくらいしか気休めがない状態だ。
「そうか……じゃあ、仕方ねえな」
ダンバドはポンと肩を叩き、背中を押した。
送り出してくれた、そう思った次の瞬間だった。
背後から首を絞められたかと思うと、意識を失った――




