34・粘液襲来
「そいやーですわーーーー!!」
十倍ほどのサイズに巨大化――ちょうど某機動戦士くらい――になったジゼロジゼロが神殿のそばで何かを蹴散らしている。
巨大化しすぎて衣服は吹き飛んでいるが、【岩石操作】で岩を下着代わりに張り付けており、上手いこと隠れていたりいなかったりする。
「ありゃあ、妹ちゃんか? なんであんなデカく……」
「最近、そういうスキルを習得したんですよ。流石にあそこまでデカくなってはなかったですけど……」
「姉妹揃って規格外すぎるな……」
「でも、何と戦って……まさか!」
「奴らかもしれねえぞ!」
「先行きます!!」
負傷したファルケファルケを乗せているダンバドは馬を全力で走らせるわけにはいかない。
というより、ファルケファルケを戦場には連れていけない。
「無理だけはすんなよ!」
約束はできない。
スパルネのようなことを繰り返すわけにはいかないのだ。
馬を全力で駆けさせ、神殿――あるいは戦場――に突っ込んで行く。
近づくにつれ、ジゼロジゼロが何と戦っているのかが見えてきた。
「もーっ! ねちょねちょ、やーですわ!」
スライムだ。
粘液質で、陸クラゲとも呼ばれる魔物で、サイズも大ぶりなクラゲ程度。
樹上などから落ちて来て、人を溺れさせてその間に【万気】を吸い取る、危険な怪物でもある。
気珠が外から丸見えなので、防険者の射幸心を煽りがちでよく退治されているし、俺も鍛錬がてら戦った経験がある。
そんな、危険ながらもプロには稼ぎの手段というまさに害獣だが、ジゼロジゼロが相手にしているのはエチゼンクラゲよりでかい超大物だ。
それが群れを成して彼女に襲い掛かっている。
巨体が災いして、的になっているのだ。
顔まで登られては、いかに巨大化していても危険だ。
引きはがすのに精いっぱいで、俺に気づいてもいない。
「くそっ、よりによって属性以外は効果が薄いやつか……!」
何しろ水分の塊だ。
矢では効果が薄いし、バナナの皮で滑ることもない。
俺に出来る手は接近して剣で斬るか、火矢で攻撃するかだ。
だが、馬にまたがったままでは、火矢の準備が出来ない。
「このまま突っ込むしかない……!」
馬も怯えているのでなだめすかしながら、もっと近づいていく。
と、神殿間近まで来てわかった。
敵はスライムだけじゃない……!
地上には多数の大蛇がいる。
ぬらぬらと、妙に光る鱗に包まれているそれが、口から火を噴いていた。
防険者たちや、スキル持ちの大人たちが応戦していた。
「くそっ、どっちだ。どっちから加勢する……!?」
冷静になれ。
俺ではスライムに有効打は浴びせにくい。
剣でも倒せないことはないが、粘液のせいで切れ味が著しく落ちるので、そう何匹も連続で倒せない手合いだ。
「……蛇しかない!」
そっちを倒せば、スキル持ちがジゼロジゼロに加勢できるようになる。
ぎりぎりまで戦場に接近し、馬を乗り捨てて徒歩で飛び込んでいく。
戦闘用に訓練していない馬は、いつ暴走してもおかしくないからだ。
代わりに全力で走り、その勢いのまま大蛇を切り裂いていく。
「助かる! こいつら、【火】スキルの効きが弱ぇんだ!」
大蛇と戦っていた防険者の一人が言った。
おそらく体表のぬらぬらが、火の勢いをそぐのだろう。
しかし、剣を防げるほどではない。
「前線は俺に任せて、出来たらあの子を援護してください!」
「わかった! 頼んだぜ坊主!」
明らかにジゼロジゼロは苦戦している。
「もー! もー!」
「ゴーレムに援護させるんだ!」
叫んでみるが気づく様子はない。
ゴーレムならスライムも踏みつぶせるだろうに……。
いや、待てよ。
「……もしかして、ゴーレムを使えないのか?」
ベルクマンの法則だったか、寒冷地の動物が巨大化するのは表面積を確保するためだったはずだ。
だが、巨大化すると体重あたりの表面積は小さくなると聞いたことがある。
だとすると、ジゼロジゼロもまた巨大化したから【万気】吸収力が上がって最強、ともいかないのだろう。
体重に対して皮膚呼吸の量が少ないわけだから、燃費が悪くなりすぎるのだ。
それでゴーレムが使えなくなったんじゃないか?
「くそっ、だったら余計に早く助けないと……!!」
気ばかり焦るが、大蛇の群れも相当なものだ。
百はいるだろう。
まるで前に進めない。
油断しようものなら黒焦げにされてしまう。
「ちくしょう……!」
スパルネの時もそうだ。
俺がまともなスキルを授かっていさえすれば……。
そうしていたら、二人とも助けられたのに……!!
俺はなんてバカな選択を――
「……!?」
頬を急に冷たい風が撫でる。
突然、風が激しく荒れ狂いだす。
荒ぶる風は雪を孕んでいた。
すなわち、吹雪である。
寒さで大蛇たちは一気に動きが鈍くなる。
雪はそのまま大蛇やスライムたちに張り付き、樹氷のように覆いつくす。
そして氷結させてしまった。
雪で出来た怪物像が次々と出来上がっていく。
これは間違いなく、氷系の高レベルスキルによるもの……!
「まさか、ファルケファルケさん!?」
あんな体で無理をしたのか!?
吹雪の風上に目を向けると、舞い散る雪の奥に人の姿が見えた。
「【スノーモンスターズ】」
そうスキル名をつぶやいたのは、ソルダだった――




