33・分析騎行
俺たちは、センテールへ向かっていた。
スパルネが乗っていた馬にはダンバドが乗り、その後ろに気絶したファルケファルケを乗せている。
ここからだと、首都よりセンテールの方が近いからだ。
それほどに、ファルケファルケは重傷だった。
落雷が当たった人はショックで心停止することが多く、心臓マッサージなどで助かる場合があるが、ファルケファルケは全身を走った電流のダメージそれ自体がかなり深い。
その上で高所から落下したことで打撲も酷いのだ。
「……うぅ……」
気を失っているが、うめき声は時折上げている。
正直、【国宝防険者】がここまでボロボロになるのは、想像していなかった。
ファルケファルケを見て、無意識に安心していたのだ。
【千魔夜行】に挑む際、あれほどしていた覚悟が緩んでいたとしか思えない。
だから、スパルネを助けられなかった……。
そもそも、意地でも断るべきだったのだ。
「……」
「なぁ」
しばらく無言で馬を走らせていたが、先に口を開いたのはダンバドだった。
「……何ですか?」
「あのトカゲ男、いったい何だったんだろうな?」
「ダンバドさんが知らないなら、わからないですよ……」
「それにしちゃ、姿を消す相手に妙に慣れてる感じがしたが……」
「たまたまですよ。カメレオンのやりそうなことはわかってますし……」
「カメレオン?」
あ。
しまった。
「なんだそりゃあ」
反応を見るに、この世界にカメレオンはいないのか?
あるいは、一般的ではないのか?
「え、ええと、森の中で隠れるために、体の色を自在に変えられるトカゲがいるんですよ。それがカメレオンと言うんです」
「なるほどなあ。物知りだなお前さん」
「ただ、カメレオン男なんてもちろん知らないです」
「【変身】系のスキルかもしれねぇな。トカゲの鱗を纏う【スケイル】ってスキルを使うやつなら見たことがある」
なるほど……。
そしたら、あれもカメレオンに変身するスキルを持った人間だったのかも。
「どっちにしろ、アネさんや嬢ちゃんを狙った理由はわからねえがな……」
「明らかに【千魔夜行】を操ってましたよね……」
「ああ。あそこまで大がかりなことを一人二人で出来るわけがねえ。魔物の操作、骨の操作、雷使い、カメレオン男……最低でも四人は関わってるだろうな」
「……」
でも、それはおかしい。
四人もいるなら、カメレオン男を援護できたはずだ。
「骨は自動の仕掛けで、術者は現場に居なかったんじゃないでしょうか?」
「どうしてそう思う?」
「ぬいぐるみを持ち帰ろうとしていたからです。人間と区別がついていないように思えました」
あの融通の利かなさは、言うなればプログラムに見えた。
流石にそれを言っても伝わらないから言わないが……。
「けどよ、アネさんの隙を作るためにわざとやったのかもしれねえぜ?」
「そうだとしたら、人形を連れ去る必要はないと思うんです」
「一理ある」
人形を捕らえたアバラ骨は、そのままどこかへ飛んで行ってしまっていたのだ。
「お前さんの言う通りなら、色々辻褄が合うな……」
「ハイレベルなスキルを使う敵対国家やテロリスト集団に心当たりはないんですか?」
「全く無い。あまりに不可解すぎる……」
やはりそうなのか……。
そもそも【千魔夜行】自体が一〇〇年に一度くらいしかなく、ろくに情報がない。
しかし、それが人為的だとすれば、人間の寿命のスパンと全く合っていない。
それだと、たとえ国家が裏に居たとしても、メリットが無さすぎる……。
……あるいは、パコニカのように長命の種族なら、まだ違うか?
いや、それでもメリットがわからない。
飢餓が起こりにくいこの世界では、領土的野心のある国もまた生まれにくい。
人の欲は際限がないから絶対にないとは言えないが……。
「……」
再び沈黙が場を支配する。
考えても考えても答えが出ない。
――スパルネをさらった奴らがなんなのか、全くわからない。
スパルネの助け方が、わからない。
「……そろそろ、センテールが見えて来るな……っておい!!」
ダンバドが素っ頓狂な声を上げたが、なぜだかはすぐにわかった。
進行方向、センテールの遠景に――
「ジゼロジゼロ……?」
巨大化したジゼロジゼロが、大暴れしているのが見えた……。




