32・喪失
「ファルケファルケさん!?」
黒雲から放たれた稲妻がファルケファルケを撃ち抜く。
距離的に一瞬遅れて、爆音が響き渡る。
「大丈夫だ! アネさんの氷は【雷】のスキルを通さねえ!」
「えっ!?」
「絶対に【氷鎧】を纏っていた筈だ!」
高校の頃、理科の先生が言っていた。
不純物のない氷は、非常に電気を通しにくいと。
スキルで生み出した氷は、まじりっけのない純水の氷。
ファルケファルケは【雷】系のスキル使いと戦ったことがあったに違いない。
だから、【氷鎧】で防御して突っ込んだのだ。
「でも……!」
地球の科学ではわかっている……!
稲妻のような凄まじいエネルギーの電気は、絶縁破壊を起こす……!
「氷で稲妻は防げない!!」
「何ぃ!?」
ファルケファルケが、煙を噴き上げながら落下していく。
「アネさん!?」
ダンバドが視線を切った瞬間だった。
「ケヒッ!」
カメレオン男が透明化し、ダンバドを振り切った。
「しまっ!?」
「けひゃひゃひゃひゃ!!」
「そこかぁ!!」
笑い声がする辺りをダンバドがマグマパンチで狙うが、空を切る。
巧妙なステップでも使って位置を偽装しているのだろう。
「当たるかよバーカ!! けひゃひゃひゃ……」
煽りに煽るカメレオン男。
だが。
「おわああああああっ!?」
こいつが逃げた時に備えてバラまいておいたバナナの皮で、盛大にスッ転んだ。
宙を舞う皮。跳ねる土煙。
これで位置がわかる!
「ナイスだ少年! 【ラーヴァボム】!!」
ダンバドの両手からドロドロの溶岩がばらまかれる。
次に起こる光景を想像して、背筋に寒気が走った。
「ウギャアアアアアアアア!!」
果たして、チョコレートフォンデュのように人型に張り付く溶岩。
響き渡る絶叫。
どんなスキルを使おうがもう助からないのが、はっきりわかる。
あまりに無惨。
眼をそむけたくなる光景だ。
肉の焼ける匂いが鼻にこびりついて、しばらく肉を食べられそうにない……。
「アアアア……」
「悪いな。こっちも余裕がねえんだ! そこまでさせたてめえを恨め!」
焼けていくカメレオン男をそのままに、ファルケファルケの元に向かう。
落下してどうなったかは見れていない。
果たして無事なのかどうか……。
「アネさん!!」
先行したダンバドが、ファルケファルケを抱き起している。
近くには砕けた氷の破片が散らばっていた。
おそらく、落下時の衝撃を減らすために、薄い氷を多層に生成するなどしたんだろう。
それでも、本人のダメージは甚大だった。
服はほとんど爆ぜ飛び、全身のあちこちが内出血で変色している。
骨や内臓にもダメージは相当にあるだろう……。
「くそっ、どいつがこんなことを……ぶっ殺してやる!!」
「愚か者……! 我など捨て置いて、スパルネを追わんか……!」
ファルケファルケはぼろぼろの体だが、語気強く言った。
「でもアネさん、【雷】使いがいつ追撃してくるか……」
「大丈夫だ……雲の中の奴に【ダイヤモンドダスト】をぶち込んでやった……あっちも……余裕はあるまい……」
なんと、ファルケファルケは雲中の敵と相打ちになっていたのだ。
ほとんど姿も見えなかっただろうに、敵の位置を把握していたのだろう。
「だから……早く追え……」
そこまで言うと、ファルケファルケは意識を失った。
ダンバドが顔面蒼白になり、手当をする中、俺は茫然としていた。
「……」
もうどこにも、スパルネの姿は見えない。
空の彼方に、消えてしまった――




