28・追撃者
街は装備を整えるどころではないが、何とか最低限の装備だけ補充して、【千魔夜行】を追う。
魔物の群れは、北に向かったらしい。
その方向には王都がある。
夜行の名の通り、動くのは夜だけだ。
夜行性ではない魔物も多数含まれるのに、なぜ夜にしか発生しないのかは解明されていないが、おかげで急げばじゅうぶん追いつけるはずだ。
馬を借りて一気に北へ向かう。
宇宙で道しるべに使った分は回収できなかったが、気珠は迷宮で大量に得られていたので、それだけの余裕はあった。
紫の気珠は怪しまれそうなので出さなかったが……。
「ねぇ、また考え事?」
馬で並走しているスパルネが言う。
「ああ、うん、まぁな」
「何よそんなあいまいな」
「いや、魔物はどの辺まで進んでるかなと思ってね」
「わかんないけど、あれ見る限り、だいぶ先行してるわね」
スパルネが視線で指し示したのは、北へ向かう大きな轍。
道なき道を、魔物が直進し、あらゆるものを踏みつぶし、薙ぎ倒していった跡。
六車線道路並の幅から、魔物の数の凄まじさがわかる。
千というのは、「数が多い」という意味しかなく、実際の数とは一致しない。
「うわぁ、って感じよね。勝算あるの?」
「夜しか動かないってことは、昼間は寝てるはず。そこを攻撃すれば……」
「それって、ハチの巣をつつくようなものなんじゃない?」
「そうだね。だから、群れのボスの寝込みを襲おうと思う」
「そんなのいるの?」
いるはずだ。
魔物が種類問わず、まとまって動くというのは他にない。
おそらく、何かそれを統率する魔物がいるのだ。
力なのか、フェロモンのようなものなのかわからないが。
「勘だけどね。まずは追いついてみないと」
「わかった」
「なんか妙に素直だな」
「私はずっと素直ですよーだ。アンタこそ、普段はそんな喋り方のくせに、みんなの前だとなんで猫被ってるのよ」
猫を被っているわけじゃない。
目上の人がいる時にタメ口できない日本人の習性というか……。
「ま、私にだけ気を許してるってのは、悪い気分じゃないケド」
そういうことにしておいてもらおう。
「……って、あれ?」
「どうした?」
急にスパルネが怪訝そうに眉根を寄せた。
「蹄の音に交じってわかりにくいんだけど、何か聞こえない?」
スパルネが嘘を言う理由はない。
なので、耳を澄ませてみる。
「……」
確かに、何か音が聞こえる。
近隣の小学校で体育祭をやっているときに、だいぶ離れていても人の声や音楽が聞こえて来るような、あの感覚。
「あっ! あれ見て!」
魔物が作った轍の遥か先で、何かが光った。
それが戦闘によるものだと気づくまで、時間はかからなかった。
「もう誰かが戦っている!!」
考えればわかることだった!
王都から討伐隊が出ないはずがない。
きっと俺たちが迷宮にいる間に被害が伝わり、討伐隊が送り込まれていたのだ。
豆粒のように見える魔物の群れが、爆発で吹っ飛んでいく。
「どうするの!?」
「任せっぱなしってわけにもいかない! ソルダのことがあるからな!」
「オッケー! じゃあ急ぐわよ!」
木々に遮られてわかりにくいが、光って爆発の音が届くまで、約6秒。
音速から考えて、2キロは先のはずだ。
馬の走る速度は時速50キロほどだろうから、数分で追いつけるはず!
「ちょっと、何あれ!?」
「なっ!?」
視線の先、2キロ近い前方の上空で、距離感がおかしくなるほど巨大な、氷の城が空に出現していた。
氷の城が、一気に落下していく。
それが豆粒のような魔物たちの上に落ちて来て、激しく砕け散った。
とてつもない質量の落下によって巻き起こる土煙と、太陽光を反射するダイヤモンドダスト。
その光景から数秒遅れて、発破解体かと思うくらいの耳をつんざく爆音が聞こえて来る。
「あんなこと、人間が出来るの!?」
「……【国宝防険者】だ!!」




