27・千魔討滅の誓い
スキル神殿は即席の野戦病院と化していた。
街はずれにあるため被害を免れたからだが、避難民たちも集まって来ていた。
意識を取り戻し、落ち着いた――わだかまりは消えてはいないのだろうが――カペローラの案内で、ソルダの元へ向かっているのだ。
怪我人でごった返す神殿の前を抜け、中に入る。
床に直接置かれた布団が並んでおり、意識の無い人や、うなされている人たちが大勢いた。
建物の倒壊に巻き込まれるなどして物理的な怪我をしている人たちにベッドは割り当てられているようだった。
どちらの患者も、回復スキル持ちの医師や防険者が駆けまわって治療を施しているが、彼らの疲労も色濃い。
スキルは【万気】を吸収すれば使える無尽蔵の力ではなく、使うたびに本人の体力も消耗していく。
そして、回復できるかはスキルの強弱とは別に、患者の基礎的な体力にかかっている。
時折、神殿のどこかで悲痛な声が上がっているのは、親しい人が亡くなったことを想像させる……。
「……」
一行の誰も言葉を発さない。
奥に進み続け、やがてソルダが寝かされているベッドに辿り着いた。
「あ……」
思わず声が出た。
ソルダは、全身大怪我をしており、まさに満身創痍だった。
その上で魔物の群れに生命力を吸われたため、意識がない。
しかし、そばに回復スキル持ちの姿は無かった。
「……ソルダ、助かりそうにないから、順番はあと回しなんだって……あんなに街の人を守るために一生懸命戦ったのに……不公平だよね……」
カペローラがぼそりとつぶやく。
患者の優先度、すなわちトリアージは、この世界にもあるのだ。
「わたしが……回復スキル使えたらなあ……」
俺はその姿に、何も感じないほどの人間ではなかったらしい。
胸の奥からふつふつと湧き上がる、後悔にも似たマグマ。
ソルダのパーティーを勝手に抜けたのは俺だ。
いたから何が変わったかはわからないが、ここまでのことにはならなかったんじゃないだろうか。
身勝手な薄情者の癖にそんなことを考えてしまう。
「……【千魔夜行】は俺が討伐する」
不意に、そんなことをつぶやいていた。
「……え?」
「……アンタ、それ本気で言ってるの?」
「ああ。ソルダをこんな目に遭わせた奴らを、野放しにはしておけない」
本心だった。
ソルダは、気位は高いし、調子に乗りやすいし、たまに鼻持ちならないところもある。
でも、良い奴だし、勇気があるし、リーダーシップもある。
こんなところで、倒れていい奴じゃない。
俺には、回復させる力もないけど、ただじっとなどしていられなかった。
「あなたが行って、どうなるの。何のスキルもないのに……」
「わかってる。でも行く」
カペローラは、俺がスキルを持っていることを知らない。
だが、【バナナ生成】があるなんて言ったところでふざけていると思われるだけだ。
「……わかった。私もついていく。私にだって責任がある」
「……そうか」
流石に断るつもりはない。
スパルネが感じている責任は痛いほどわかるのだ。
「いいよ……行けばいい。今のわたしには、あなたを止めてあげるだけの優しさなんかないんだから……」
そう言うと、カペローラはソルダの手を握り、そばに座った。
もう俺たちの方を見ようともしない。
と、これまで一言も発していなかったジゼロジゼロが、ベッドのそばの石畳をはがしだした。
「お、おい、何をしてるんだよ?」
「あくまでわたくしの感覚なのですけど、出来る気がするのです」
言うや、地面に手をつくジゼロジゼロ。
すると、その地面から一斉に草が芽吹く。
「びっくりハテナ!? なにそれ!?」
草はツルとなり、ベッドに巻き付いていく。
「アンタ、何してんのよ!!??」
流石にカペローラが血相を変えてジゼロジゼロに叫ぶ。
「いや、これはたぶん――」
「【大地の癒し】!」
ツルがソルダの体に巻き付くと、緑色の光の粒をまき散らす。
カペローラの顔色も、驚愕に染まっていく。
「まさか、回復スキルなの!?」
「いつの間にか習得していましたの。【水鏡】にはスキル名しか書いていないから、効果はわかりませんでした。でも、きっとこうやって使うスキルなのですわ」
「!!」
まるで大地からエネルギーを吸い上げ、ソルダに流し込んでいるかのようだ。
「どうやら、使っている間は動けないみたいですの。残念ですが、わたくしはついてはいけませんわね」
何でもないことかのように振る舞うジゼロジゼロの姿に、カペローラの涙腺が崩壊した。
ぼろぼろと流れ出した涙は留まることを知らない。
「ありがとう……!! ありがとう……ございます……っ!」
「お礼はいいですわ。それより――」
言いそうなことはわかった。
今の空気にそぐうかはともかく――
「食べ物を持ってきてくださいまし。あるだけ全部ですわよ。誇張でも比喩でもなく、全部ですわ!」




