26・大惨事
第二の首都と言われるセンテールの壊滅。
その光景は衝撃だった。
地震も滅多にない牧歌的世界で、これほどの破壊を見るのは初めてだった。
だが、これ自体はわかっていたことだ。
道中、少し大きめの町――当初、馬車をチャーターする予定だったところ――には、まだ人が残っていた。
というより、センテールから避難してきた人で溢れていた。
だから、センテール壊滅は、既知の情報ではあった。
しかしやはり、実際に目にすると、ショックは大きい。
「まさか、こんな……」
名物の大風車が倒れているのが、よりその衝撃を大きくする。
俺とスパルネは近くの村の出身だが、スキルの事前教育のためにこの一年はここに住んでいたのだ。
第二の故郷の壊滅に、動揺が抑えられない。
「これを本当に魔物がやったっていうの!? だって、私たちが迷宮に入ってたった一日でしょ!?」
「一晩だと聞いていますわ……」
「そんな……そんなのって……信じられない……」
「でも、信じるしかないんだ……」
何が起きたのか。
避難民から伝え聞くところによれば、真夜中に魔物の群れがなだれ込んできたのだという。
防険者も数多く駐在していたこの街だが、抗うことは出来なかったという。
中には超大型の魔物もおり、建物ごと薙ぎ倒されたという。
そして、倒れ伏す人々は生気を吸われてしまった……。
「【千魔夜行】……実在したんだ……」
数えきれない魔物がどこかから出現し、その行く手を壊滅させてしまう災害。
百年に一度程度に発生するそうだが、これがあるために国家間の相互協力に繋がりやすく戦争になりにくいとも言うが……。
この状況はもはや戦争と大差ない……。
「スパルネ!!」
突如、女性の声が辺りに轟いた。
「!」
それは全身に包帯を巻き、眼鏡にもひびが入っている、満身創痍のカペローラだった。
「カペローラ! 何があったの!?」
「……っ!」
カペローラは唇を食いしばり――
パァン、と乾いた音が鳴った。
「痛っ」
スパルネの頬を、カペローラがはたいていた。
「アンタが抜けるからっ!! ソルダが……!!」
普段のおどおどした様子からは想像もつかない、鬼の形相でカペローラがスパルネに掴みかかる。
「急に何よ! ソルダがどうしたのよ!?」
「街を守るために【千魔夜行】と戦って、意識不明の重体よ!!」
「!!!!????」
【千魔夜行】など駆けだしの防険者が対抗できるものじゃない。
なんて無茶を……!
「常人なら即死するくらい生気を吸われて、どんなに回復スキルを受けても目を覚まさないのよ!!」
「そんな……」
「アンタがいれば、ここまでのことにはならなかったのに……!!」
強気なスパルネも、責任を感じて揺すられるがままだ。
止めないと!
「待って! 急に抜けたのは俺だ! 俺の責任だ!」
「アンタなんかいてもいなくても同じでしょ! スキルなしのくせに!!」
それはその通りだが、ヒートアップしすぎている。
肩を掴もうが何をしようが止まらず、あたふたしているところに突如、ジゼロジゼロが割って入った。
「おやめなさい!」
「何よアンタ! 関係ないでしょ!」
「ないですわ! ですが、胸を貸すことくらいできます!!」
言うや、カペローラの顔面を自分の胸に押し付けた。
「むぐっ!?」
「落ち着きなさい。カッカしていると自分で嫌いな自分になってしまいますのよ」
いいこと言ってはいるんだが、カペローラはじたばたもがいている。
「あ、あの、ちょっと離してあげたほうが……」
「わたくしは、お母様からこうしてなだめてもらいましたわ。人肌と、心臓の鼓動が一番人間は安らぐんですのよ。きっと、お腹の中に居た頃の本能じゃないかしら」
「そうじゃなくて、その、息が出来ないんじゃ……?」
「ほえ?」
カペローラの、もがく手足が止まった。
「あっ」
カペローラは、ほかほかになって失神していた――




