25・壊滅
「まだ下の階がある……」
それは、衝撃の事実だった。
この大迷宮はここが最下層ではないのだ。
ということは――
「もっといいスキルがもらえるかもしれないってことぉ!? びっくりハテナなんですけど!」
その可能性はある。
どちらの意味で降りるか悩みどころだ。うまい。
「さぁ、早く帰りましょう。お肉が食べたいですわ」
こいつはもう脳を使用する気はないらしい。
だが、一理ある。
保存食ばかりでは、体調に支障をきたす。
ただそれより問題は、剣が折れていたり、油壷などの装備を消耗したりしていることだ。
下がこれまでのフロアより凶悪だとしたら、とても超えられまい。
「ここは一旦、帰ろうと思う。先に進むにせよ、ちゃんと体を休ませてからがいいと思うんだ」
「一応、降りるだけ降りてみるって手もあるけど……それはどうなの?」
「それも考えたんだけど、この上の階が強制ワープだったみたいに、戻れなくなるかのうせいもあるからね。帰るなら今かな」
「それもそうね。私は賛成」
そもそも彼女はここ自体に用はないのだ。
「もちろんわたくしもですわ」
しかし、パコニカは首を横に振った。
なお、セカンダールでも縦が肯定、横が否定だ。
「わしは一人で調べてみようと思う」
「ええっ、大丈夫ですの?」
「そもそもこのフロアも調べ切れておらんでな。伝説の神殿まで来たんじゃ。ゆっくり調べさせい。下に降りるかはまぁ、後で考えるわい」
なるほど。それならそこまで心配もいらないか。
「気が向いたら戻ってくるが良い。戻ってこんでも別に恨みはせぬでな」
「お言葉に甘えさせて頂きましょう。さ、帰りますわよ」
お前は肉食いたいだけだろ。
まぁ、帰るけど。
「じゃあ、先に上に行かせてもらうよ。どこに出るかはわからないけど……」
「一階の神殿入り口の奥の壁に、不自然な空白があったでな。おそらくあそこが隠しエレベーターだったんじゃろう」
「びっくりハテナ! よく気づきましたね」
「じゃからダンジョン考古学者じゃと言うとろうに。外も当然調べておるわ」
もっと話を聞きたいところだけど、いい加減帰ることにして、エレベーターに乗り込んだ。
中にももちろんボタンがあり、上を押す。
閉まっていくドアの向こうのパコニカに手を振ろうと思ったが、もう調査に夢中でこっちなど気にもしていなかった。
スパルネたちは当然、高速エレベーターに乗るなど初めてで、動いてないのではと疑っていたが、あっという間に地上についた。
「あら、本当に一階ですわ」
出てきた先は、まさにパコニカが言っていた場所だった。
壁が開き、外に出る。
念のため、戻れなくならないか、中にスパルネたちに残ってもらい、周囲の壁を調べると、ボタンがあった。
と言っても備え付けや浮き彫りではなく、デジタル表示のように直接壁に光が浮かんでいた。
おそらく、有資格者にだけ反応するのだろう。
これが最初から出ていたら、パコニカが気づいているはずだ。
また地下に降りれるのは確定したので、俺たちはファスティバ王国第二都市センテールに向かうことにした。
最寄りで一番大きな都市だからだ。
俺やスパルネの故郷に帰るにも、ジゼロジゼロの領地に行くにも、そこがハブとなる。
太陽の位置から見て、まだ朝だろうから、途中で馬車にでも乗れれば、一日で着く。
そんなわけで俺たちはセンテールを目指し外れ大迷宮がある山を下って行った。
それほど急峻ではなく、平地に向かって行くと村がある。
直接センテールに向かってもいいが、腹ペコ大魔神が寄りたいと言い出した。
小さな村だから馬車はないので寄る意味はないが、食料調達くらいは出来る。
あれだけバナナに執着していたくせに、色々食べたがるあたり、貴族らしい……というよりは、食への執着心だろう。
「あれ? なんかおかしくない?」
最初に気づいたのはスパルネだった。
彼女は昔からとても目が良い。
そういえば流れ星を見つけたのもスパルネだったな。
「おかしいって何が?」
「畑に誰もいないのよ。こんなにいい天気なのに」
「え?」
確かにそれはおかしい。
いまは農閑期でもない。
畑作業を全くしていないというのは、不自然だ。
「寄合でもあるのではなくて?」
「そうかもだけど……」
スパルネの声には不安の色があったが、まさにそれが敵中した。
誰もいないのだ。
村の中に、誰も。
荒らされた形跡はなく、どうも、急にみんなが逃げ出したというような印象を受けた。
「どういうこと……? ハテナハテナ……」
「わからない……でも嫌な予感がする……」
街道に出て、そこでジゼロジゼロのスキルを応用して、石の車が作れることに気づき、それで一気に進むことにした。
岩石操作で岩の車輪を回せばいいのだ。
実際には、四つの車輪を同じ回転速度にするのは至難の業で、構造を工夫するのに手間取ったのだが。
結局、回すのは車軸にし、前輪用のそれに二輪をつけ、後輪は操作しない二輪駆動方式にしたところ上手く行き、昼下がりにはセンテールに到着した。
「……!!」
そして、そこで見た光景に絶句する。
倒れた風車。
崩れた建物。
上がる煙。
まるで震災の後かのよう。
センテールが、壊滅していた。




