20・吸星鬼
確かにスパルネが見ていた方向には流れ星がちらちら見える場所があった。
真っすぐにそこに向かっていく。
帰り道がわからなくならないように、気珠を何個か置いていく。
どうせ帰りに拾えばいい。
そうして進んで行った先に、それは居た。
「……当たりだったようじゃの。あんなもの見たことが無いわ」
「もの……というか、生きていませんか?」
「びっくりハテナすぎる……」
ブラックホールを思わせる黒い渦巻の上に、人間の上半身のような姿が乗っている。
もちろん人間ではない。
悪魔のシルエットに、目と口がついたような異様な姿だった。
距離感が掴みづらいのでサイズははっきりとはわからないが、3mくらいはある。
「オオオオオオ……」
そいつの吠え声に合わせて、隕石がそいつに向かって落ちていく。
そして、大きく開いた口に飲み込まれていく。
ぼりぼりと嚙み砕かれる隕石。
「おぬし、あれに心当たりはあるか?」
「ううん……あんなの見たことも聞いたこともない……」
「未知の魔物ということかの……」
「え? でも魔物は人の生気を吸うものでしょ? でもあれが食べてるのは岩じゃない。ってことは魔物じゃないんじゃないの?」
確かに一理ある。
だが、どう見ても敵だ。
だとすれば――
「あれは攻撃のための行動かもしれないね」
「!!」
俺の言葉で一同に緊張が走る。
「吐き出して来るってこと!?」
「ちっ、あやつこちらに気づいておるぞ!!」
魔物が口を三日月状に歪めて笑った。
そしてそれがすぼめられ、ショットガンのように石が吐き出された。
「よけてっ!!」
一斉に散開する。
このメンバーだと、防御できる攻撃じゃない。
炎でも雨でも貫通してしまうだろう。
【岩石操作】は触れなければならないが、触れれば大ダメージだ。
身を低くしてよける以外手が無い。
だが、石礫はまさに散弾。
「くっ!」
かすっただけで皮膚が裂けた。
まともに当たらなかっただけマシだ。
「このっ! 【火の鳥】!!」
スパルネが【火精召喚】で火で形どられた小鳥を呼び出し、それを魔物に向かって放つ。
「コオオオオオオオ!!」
「ええっ!?」
しかし、【火の鳥】を丸飲みにする魔物。
「コハア!!」
そして、口から炎に包まれた球体を吐き出した。
さながら極小の恒星が、豪速球でスパルネに迫る。
「きゃあっ!?」
なんとかかわしたスパルネだが、床に当たったそれが弾け、飛び散ったかけらで吹っ飛ばされた。
助けに行きたいが、俺には出来ることが無い。
ならば、やるべきはこの隙に魔物に接近する!!
「コオオオオ……」
魔物は俺の接近に気づくが、残弾はないらしい。
吐き出そうと失敗したところに、隠し持っていた油壷を投げつける。
「コバッ!?」
頭にまともに命中した油壷が割れ、顔じゅうが油まみれになる。
「よしっ! これで火は吸えないはずだ!」
吸おうものなら、先に顔面に引火することになる。
石礫もまた隕石を吸わなければ補充できまい。
今が攻撃のチャンス!
まだ痛みにうめいているスパルネを除く3人が一斉に魔物に接近する。
「コフ♡」
しかし、再び魔物が笑った。
「!?」
直後、体に走る衝撃。
昔、交通事故に遭った時のような重量感あるインパクトか、左腕やわき腹に広がる。
「がっ、は」
ボーリング珠のようなものが、左腕を巻き込みながらわき腹に激突していた。
それが小ぶりな惑星だと気づいた時には、もう吹っ飛ばされていたが、傾く視界で、パーティーメンバーたちにもそれが襲い掛かっているのが見えた。
「コハハハハハハハハハハ!」
魔物を中心に、いくつもの惑星が回転している。
公転のように、ミニ惑星を操っているのだ。
軌道の操作というより、回転速度を操作しているのだろう。
架空の床を転がりながら、全身に広がる痛みの中でそんなことを考えていた。
車に轢かれた経験が活きるとは思っていなかったが、肋骨が折れているのもわかってしまう。
ボーリング玉を投げつけられたようなものだから当たり前だ。
左手は痺れて激しく痛んでいるが、上腕の肉がクッションになって折れるまでは行っていない。
「くぅっ!」
右腕一本でなんとか起き上がろうとした、その頭上を惑星が高速で通り過ぎる。
ぐるぐると回転する惑星による防御。
弾き飛ばされた仲間たちがあちこちで呻いている。
「コフフフフフフフ」
それを満足気に見ている魔物。
「調子に乗りやがって……!」
ボウガンを取り出し、魔物に照準を合わせる。
「コ?」
パスッと乾いた音がして、魔物の胸に矢が突き刺さる。
「コアアアアアアアアアア!?」
声色から混乱が伝わってくる。
「矢なんてものは知らないんだろ? いくらでもあるから、じっくり味わってくれ」
文字通り矢継ぎ早に、弓矢を打ち込んでいく。
次々突き立つ矢に喚き声を上げる魔物。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
怒り狂い、惑星を高速回転させながら、周囲の隕石を吸収し始める魔物。
ダメージからか、惑星操作のせいか、ずいぶん吸収の速度も遅い。
冷静さを完全に失っている。
「ケロケロケロ。どうやらその球は水平にしか回せんようじゃのう」
いつの間にかパコニカが雲に乗り、魔物の頭上に浮いていた。
「コアッ!?」
更にその雲から、誰が飛び下りてきた。
空腹なのかずいぶん体格は小さくなっているが、ジゼロジゼロだ。
「その岩もらいますわ!」
彼女は引き寄せられてる途中の隕石に触れると、【岩石操作】で、岩の槍に変えた。
「お行きなさい!!」
岩の槍が、魔物に突き刺さる。
「ゴガッ!?」
背中を貫通した槍に床へ縫い付けられ、呻く魔物。
その顔面に、飛んできた【火の鳥】が直撃した。
「ゴギャアアアアアアアアアアアアアア!!!????」
「ざまぁみーろ……」
倒れたままのスパルネが、指を向けて、鉄砲のように上に動かした。
むろんこの世界に鉄砲はないから、俺の【水鉄砲】の真似なのだろう。
「ゴギュウウウウウ!!!???」
俺は、もがき苦しむ魔物に近づき、剣を頭に叩き込んだ――




