19・外れ大迷宮地下3F
降り階段先のゲートの向こうには、宇宙空間があった。
意味が、わからない。
これまでだって色んな空間と繋がっていたが、これはダメだろう。
こんなもの、攻略できるはずが――
「何をしていますの? さっきみたいに綺麗な夜空なだけじゃないですの」
と、ジゼロジゼロが止める間もなく宇宙空間に飛び出した。
「バカっ!!??」
「はい?」
が、別にゼロ気圧で目玉が飛び出すとか、恒星の熱で焙られるとか、絶対零度近い低温で凍るとかはなかった。
「どうしたんじゃ? 顔面蒼白じゃぞ」
「あ、いや……宇宙空間かと……」
プラネタリウムだったのか?
「ウチュウ空間……? なんじゃそれは」
「あ……」
そうか。この世界では宇宙空間の知識はないのか。
確かに、学校で習ったりはしなかったが……。
……いやどうなんだ?
メガネがある以上は、レンズもあるはずだ。
なら望遠鏡も国家としては所有はしてるだろう。
だが、それを一般民衆は知らないということか。
「……まぁ、星空の世界のことかな」
「にゃはは。ま、そういうことにしておいてやろうかの」
……腹の探り合いは分が悪そうだな。
裏があれば、だが。
「でも……俺の知ってるのとは違う。ジゼロジゼロ、なんともないのか?」
「何ともって……単に素敵な星空でしょう?」
「貴方、気づいてないの? 足元がかなりびっくりハテナよ?」
「へ?」
散々歩いておきながら、そこで初めてジゼロジゼロは足元に目を向けた。
無限に続く宇宙空間に。
「ふぁあああああああああああああああ!!」
絶叫が宇宙に鳴り響く。
会話出来ていることからも明らかなように、空気はあるらしい。
そんなことより地面が無いことは、セカンダールの人間には想像を絶する恐怖なのかもしれない。
「助けてくださいましーーーー!!!! わーーーーーーーーん!!!」
ガリレオ的転回にパニックになって泣き出すジゼロジゼロの救出に、飛び出していく。
スパルネも行こうとしているが足がすくんでいるので肩をぽんと叩き、先行する。
宇宙空間に踏み出すと、足の裏に感触がある。
見えない床があるような、奇妙さ。
ウユニ塩湖のようにあまりに反射率の高い水か鏡の床かと思ったが、そういうわけじゃないようだ。
無重力でもなく、地上と変わらない重さを感じながら、空間自体に感触があるような偽りの床を駆けてジゼロジゼロの元へ。
「落ちちゃいますわーーーーーーーん!!」
「大丈夫。落ち着いて」
「ほわ」
「干し芋食べる」
「食べます」
芋ですぐ泣き止んだ。幼児か。
「もーなんですのここ……」
「なんなんだろうね。宇宙は宇宙なんだけど……」
空気や床があるのはもちろん変だ。
だが、妙に既視感がある。
「……そうか」
昔、スーパーファミコンで遊んだシミュレーションゲームの宇宙ステージだ。
見下ろし型のマップが、まさにこんな感じだ。
便宜上の床があるように見える宇宙。
2次元の中の3次元。
……ならばここは、異世界なんかじゃなく、ゲームの世界だろうか。
しかし、そんなのは邯鄲の夢と同じで、主観では判断のしようがないのだから、考えるだけ無意味か……。
水槽の中の脳じゃないんだ。
今は目の前のものを分析しないといけない。
「どうじゃ? どう攻略してよいか、見当もつかぬじゃろ?」
何度もここに来ているパコニカに、生まれたての鹿のように震えながら、しがみついてついて歩いてくるスパルネ。
「どこまで続いているかも想像がつかんし、目印が階段のゲートしかないでな。ほとほと困っておったところじゃ」
「こんなところ、攻略なんか出来るわけないじゃない! 帰ろうよう!」
「いや、攻略は出来るはずじゃ。なぜなら、過去にここで外れスキルを授かった者はいるはずじゃからな」
確かにその通りだ。
伝説が嘘じゃなければ、この大迷宮の先にはスキル神殿があるはずなのだ。
その前提が誤っていれば話にならないが、結局検証しない限りわからない。
「何か他の目印はありませんの? 北極星とか……」
「北極星は地軸と角度が同じだから意味があるんだよ。だから、宇宙から見たら意味はないんだ」
「??????」
「ごめん」
なんか知識をひけらかしてるみたいで嫌になってきた……。
上手くかみ砕いて説明できなかっただけなんだ……。
しかし、ここがセカンダールの宇宙かどうかすらもわからない。
星座は既存の大地から見て初めて意味を成す。
せめて同じ星系なら星座も当てになるのかもしれないが……残念ながら見覚えのある星の配置はない。
目印に出来るものはやはりゲートしかない。
「おぬし、妙に詳しいようじゃが、何か攻略法は浮かばぬか?」
「そう言われても……」
地球の一般常識としての宇宙の知識がある程度に過ぎない。
未知の星空の中で探索する方法なんて知る由もない。
「……ただ、昔攻略した人はどうやって次に進めたんだろう?」
「探索系のレアスキルを持っていたのかもしれん」
「なるほど……」
それならあり得る。
【ダウジング】のスキルは極めて便利だと聞く。
だが残念ながらここにそんなチートスキルの所持者は居ない。
「まぁ、人手が多いのは単純に助かる。まずはゲートから離れんようにして、それぞれ別の方向で目印が無いか手分けせんか?」
「帰りましょうよ~……」
「却下じゃ」
「ほんとびっくりハテナ……」
約一名の反対はあったが、探索開始となった。
ゲートを背にそれぞれが一方向に目を向ける。
「……」
ただただ時間が過ぎていく。
不毛だ……。
残酷なまでに美しく広大な宇宙で、何の手掛かりもなくものを探す地獄。
砂漠で針を探す方がまだ見つかる望みはあるだろう。
何の手掛かりも見つけられず、ジゼロジゼロの腹の音が激しくなったので、一旦、話し合いになった。
「この中で、何か変わったものを見つけた者はおるか?」
全員が首を振る。
「ううむ……おらぬか」
「綺麗なお星さまがいっぱいあるだけですわ。色の違いや明るさの違いはありますけど、目印というほどでは……」
「僕も手掛かりなし……」
「こんなところから見つかるわけないわよ……流れ星に帰してってお願いしたわ」
……ん?
今、おかしなことを言わなかったか?
「流れ星。いいですわね。わたくしも見たかったですわ」
……!!
「どうせハチミツが舐めたいとかでしょ」
「失礼ですわね。パンも欲しいですわ」
「わかった!!」
「ひゃん!?」
「もう、突然大きな声出さないでよ!」
単に驚いている二人とは違い、パコニカはじっと目――流石にここではサングラスはしていない――を細めた。
「……何か気づいたのかの?」
「うん」
今、スパルネはおかしなことを言った。
夜空だと思って見ているセカンダール人にはわからないが、俺にはわかる。
流れ星は、隕石が大気圏で燃え尽きる際に見えるものだ。
宇宙にあるはずがない……!!
ここには空気があるが、それを考慮しても、少なくともその先には隕石を引っ張る重力源があるということになる。
きっと、その先に惑星があるんだ。
「流れ星だ! それが目印なんだ!!」




