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15・灼熱の温泉

 かぽーん。

 そんな音を幻聴する。

 ケロリン桶もない異世界では、そんな音はしない。

 だいたいそれは銭湯であって温泉ではない。

 だが、日本人の魂に、強く訴えて来る情景。

 ここは天然の温泉郷だ。

 だが、硫黄の臭いがしない。

 火山活動で出来た温泉じゃないんだろうか。


「ジーロ、何をしていますの? 早く入りましょう」

「え? おわあ!?」


 ジゼロジゼロはすっぽんぽんになっていた!

 全裸とか生まれたままの姿とか、そんな形容では追いつかない堂々さ。

 すっぽんぽんという言葉が一番似合う。


「何を驚いているのです? ビキニだからわたくしが脱ぐのが早いのは当然でしょう」


 いや、そこじゃない。

 早さどうこうじゃない。


「い、いや、そう堂々とされると……」

「何を恥ずかしがっているのです? もしかして、お肉ついちゃってますか?」

「そ、そんなことは……」


 この世界では、宗教的制約がないため、裸は基本的に問題とされない。

 特に、高温多湿で日本そっくりの気候のファスティバ地方において、裸を忌避する文化が生まれること自体、不自然だし。

 かつて日本に宣教師が来た時、人々が半裸で暮らしていたので、こんなところに信仰が広まるはずがない、と愚痴っていたという話も聞いたことがあるが、常識と思っていたものが、単に舶来の宗教の戒律でしかないのをこの世界で痛感する。

 むしろ、この地方では体型が崩れたと気にして厚着をする、という人はいる。

 下手な目の逸らし方が逆に失礼になりかねない。

 だが、俺は物心ついた頃に前世の記憶が蘇り、それなりにこの世界で生きてきたが、いまだに意識してしまうところはある。

 ど、童貞ちゃうわ。前世では、だが。


「ええい、まどろっこしい!!」

「あっ!?」


 考えこんでいる隙を突かれ、服を引っぺがされてしまった。

 誰だ、と言う暇もなく。


「早う入らんか! ゆっくり話も出来ん!」

「どわっ!?」


 背後から蹴飛ばされ、そのまま温泉に頭から落ちてしまった。

 たぶん、外から見たら犬神家のアレ。


「もう、はしたないですわね」


 全裸は、はしたないに入らない世界。

 ともあれ、三人で温泉につかり、話をする流れになった。

 パコニカは肩まで……というか顔半分近く湯船につかっているのでまだいいが、ジゼロジゼロはどことは言わないが脂肪の浮力もあって目のやり場に困る。


「で、何の話じゃったかの?」

「えっと、迷宮の入り口に足跡があったんだけど、あれはパコニカさんの? たぶんゴブリンを倒した跡だと思うんだけど」

「たぶんそうじゃろ。覚えておらんけど、よくあるし。じゃが、そんなことが聞きたかったのか? もっと聞きたい事があるのではないか?」


 確かに、これはジャブみたいなものだ。

 いま一番聞かなければならないことは――


「じゃあ、お言葉に甘えて。パコニカさんはここのスキル神殿まで辿り着いたことがあるの?」

「ないの」


 おっと、これは肩透かしだ。

 聞いたことすらなかった【雲操作】のスキルも、あるいはここで授かった可能性も……と思っていたところはある。


「そうなんですの? あの雲を使えばどんな場所だってすいすいでしょうに」

「あのな、本来ダンジョンとは洞窟みたいなもんじゃ。むしろ飛行とは相性最悪なんじゃぞ」


 これも確かに。

 普通のダンジョンなら、天井が近すぎて意味がない。


「無論、次の階には行ったことがあるがな。じゃが、そこどまりじゃ。次の階はあまりにわけのわからん場所でな。飛ぶとかそういう問題ではなくての」

「妙に奥歯にものがはさまったような言い方ですのね」

「仕方なかろう。本当に見たことも聞いたこともない場所なんじゃ。直接見よとしか言えぬ」

「相当変わったフロアなんだろうね……」

 

 砂漠、大湿原、温泉だから、次に何が来てもおかしくはない。というか想像もつかない。


「そんなわけでわし一人では攻略できずに困っておったところじゃ。助けてやったのじゃから、手伝ってはくれような?」

「う、うん。こっちとしても渡りに船というか、ジゼロジゼロもいい?」

「え、はい……もちろん……ですわよ……」


 生返事、かと思ったら、目がとろんとしている。

 やはり、感覚が狂わされていたが、外はもう夜。

 おねむの時間らしい。

 言うや、頭を岩に乗せ、そのまま寝てしまった。


「溺れないか不安だ……」

「わしは打たせ湯に行ってくるでな。おぬしが見ておるが良い」

「あ、うん」


 パコニカは、すいすいと奥に泳いでいった。

 またケロケロと気持ちよさそうに笑っていた。

 やはり素の癖なんだろう。

 とすると、普段の口調は作っているのかもしれない。

 パーティーになったばかりであれだが、少し、注意はしておいた方がいいだろうか。


「……温泉で考えるのも無粋か……」


 せっかくなのでゆっくりつかる。

 しかし、打たせ湯か。いい具合にお湯が落ちて来る場所があるのだろう。

 湯けむりで見えにくいが、他にも色んな湯があるのかもしれない。


「ん?」


 と、急にぶくぶくと泡が湧き起こってきた。

 おお、泡風呂か、と思ったが、どうも違う。

 温度が急に上がっているのだ。


「沸騰してる!?」


 何で!? と思う必要はなかった。


「へぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~執拗にパーティーを抜けたがると思ってたけど、こぉぉぉぉぉんなむちむち美女と、しっぽり温泉旅行ですかぁ」


 背後からの声に、温泉の中なのに、全身に寒気が走る。鳥肌が立つ。


「びっくりハテナなんですけどぉ??」


 全身から炎を噴き上げた大魔王――もとい、スパルネが現れた……!

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