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14・外れ大迷宮・地下2F

 マーキメデューサを倒した後は、魔物たちも近寄って来なかったので、休憩がてら情報交換を始めた。


「ほ~、呪われたお嬢様と外れスキルを欲しがる変わり者とな。また妙ちくりんなコンビじゃのう」

「あら、ダンジョン考古学者だってよっぽど変わった肩書だと思いますけど?」

「そうおかしなことでもあるまい? なぜかダンジョンだけは神話に出てこぬ。興味がわくのも自然じゃろう」


 パコニカが言う通り、この世界の神話にダンジョンのだの字もない。

 どういう位置づけの存在なのか、誰も知らないのだ。

 ダンジョンを【神の御業の残業】などと呼ぶ者もいるが、仮説にすぎない。


「そんなわけで、わしは各地のダンジョンを調査していたのじゃよ」

「それはいいんだけど、ちょっとここいらでは見かけない見た目なのが気になるな」


 聞いておいてセンシティブかもと思ったが、この世界においては肌の色と奴隷制の過去が結びついていないことから、この辺りは侮蔑のニュアンスでも込めない限り気にされない部分ではある。


「ふむ、青肌を見るのは初めてか。まぁ少数民族じゃしな。南のそのまた南の方にはいるんじゃよ」

「じゃあ、ずいぶん遠征してきたんだね」

「まぁのう。ダンジョンなんてどこも似たり寄ったりじゃから、研究テーマとしてはここが一番興味深いでな」

「……正直もっと気になってたのは、その喋り方なんだ。学識もあるみたいだし、年齢不相応というか……」

「ふーむ……」


 サングラスをずらし、黒い瞳で値踏みするように覗き込んでくるパコニカ。

 少女……の中でも小柄なほうで、見た目だけなら間違いなく年下。

 日本でなら中1か中2といったところか。

 その外見と、口ぶりがどうにも一致しない。

 推定エルフという疑いは、まだ晴れていないのだ。


「そういうおぬしも、妙に老成したところを感じるがのう。喋り方も妙に馴染んでおらんような……」

「……っ!」


 確かにその通り……!

 何しろ、転生前は日本で勤め人をしてたくらいだからな。

 ……待てよ。

 じゃあ、パコニカも転生者の可能性が……?


「ま、そのくらいの年頃ならば、背伸びもしたがるから珍しくもないかの。わしとは年季が違うわ。なにしろ、これでも70近いでな」

「ええええええええええええええええええええええええっ!?」


 驚愕の声を上げたのはジゼロジゼロ。

 おかげで驚くタイミングを逸してしまった。

 まぁ、おかげで俺が知らないだけでこの世界では普通とかいうわけでもないらしいことがわかったが。


「うちのおばあ様より年上ですの!?」

「にゃはは。若く見えるじゃろう? わしら民族はなかなか老化しないでの。その分、死ぬ時はぽっくりじゃが」


 無限に細胞分裂して若くいられるが、それがない心臓や脳は老化するということだろうか。

 異世界ならありえなくもない話だ。


「ずるいですわ。同じ神さまがお作りになった人類ですのに。わたくしだって年はとりたくないですわ」

「まだ気にする年でもあるまいに。余計な心配は皺を増やすぞ」

「確かにですわ!!」


 素直か。

 そういえば、入り口にあった足跡も、パコニカならぴったりなんじゃないか。


「あ、話を戻してもいいかな? まだ聞きたいことが――」

「いや、いつまでこんなところで話しておるんじゃ」

「こんなところって、だって魔物が来ないうちに……」

「じゃから、次の階に行けばよいではないか」


 一理ある。

 階段には魔物が入ってこないのだから。


「でも階段の場所はまだ……」

「おぬし、知恵は回るが視野は狭いようじゃの」

「へ?」

「わしは飛んでおったのじゃぞ? 階段くらいとっくに見つけておるわ」

「あ」

「ぷぷっ」


 あっ、ジゼロジゼロのやつ、笑いやがった!

 絶対、自分も気づいてなかったくせに!


「ケロケロケロ」


 で、パコニカはどんな笑い方だよ。

 さっきまで「にゃはは」とか言ってなかったか?

 ツボだと変わるのか?

 

 ともあれ謎だらけのパコニカに連れられ、階段へ向かうのだった。


 *


 まともに探したら何時間経っていたかわからないというくらい、面倒な場所に階段はあった。

 具体的には葦原の中で、徒歩だとしらみつぶしに探さないといけない意地の悪い配置だった。

 パコニカが居て助かった。

 ずっと明るいので時間感覚を狂わされるが、外はもう夜のはずだ。

 いい加減そろそろ休まないとまずい。

 強行軍向きの身体強化系スキルがあるらしいが、もちろんそんなもの俺は持っていない。

 パコニカがいなければ、水マジロを必死でどける羽目になっていたところだった。

 とにかく階段には難なく入ることが出来た。

 これで休める、と階段に腰を下ろしていると――


「何やっとんじゃ。若いくせにもうへばったのか?」

「そうですわよ。わたくしなんてまだまだバリバリですわ! ちょっと小さくはなってきましたけど」


 もう腹が減ってきたのか、確かに縮んで、最初にあった時くらいになっている。

 が、髪の色は緑のまま戻らなくなったようだ。


「違う違う。次の階に降りたら、また魔物が来るでしょ? だからここで休憩していこうよ」

「ああっ、ナイスですわ! それだったら、上に戻って岩を少し取ってきましょう。椅子くらいあったほうがよいでしょうし」


 名案だ、とハイタッチする俺たちを、パコニカがサングラスごしに冷めた目で見ていた。


「察しの悪いコンビじゃのう。わざわざ階段で休憩する必要などないわ」

「え? どういうこと?」

「ですの?」

「あー、そうか。そもそもを勘違いしておるのじゃな。わしはもう何度もこのダンジョンに入っておる。この先のことも知っておるんじゃよ」

「はぁ!?」

「ほあ!?」


 入り口の足跡がジゼロジゼロより後に入っていた形跡があったので、勘違いしていた。

 いや、それは間違いじゃないんだが、パコニカも今回が初回だと思い込んでいたのだ。


「雲で階段まで飛んで行けるのでな、調査と物資の補給でちょこちょこ往復しとるのじゃ」

「そうなのか……」

「やっぱりずるいですわ……わたくしたち、すっごく苦労しましたのに」

「にゃははは。許せ。いいことを教えてやるから」

「いいことですの?」

「次の階はセーフゾーンじゃ」

「!?」

「ほわーっ!?」


 それは、あまりに朗報!

 

「ま、あまり言っても興ざめじゃしな。実際にどうなっとるかは自分でかくにんせい」


 パコニカに促されるまま地下二階に降りると――


「え?」


 一瞬、また湿原かと思った。

 霧がかった水場が、視界いっぱい広がっている。

 上の階と違うのは、月夜になっていることと、岩場がその水場を囲んでいること。

 そして、桜が咲き誇っていること。

 そう、これは霧じゃない。

 ここは――


「温泉ですわ~~~~~~~~~!!!」


 湯けむり漂う、温泉であった。

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