13・マーキメデューサと推定エルフ
マーキメラは、マーキメデューサだった!
タテガミに擬態していた蛇頭の目が放つ光線が、地面を薙ぐ。
幸い、ゴーレムの影に避難できた俺たちは無事だったが、命中した箇所がみるみるうちに石化していく。
直視すれば石化する可能性があるため、それを確認するのには工夫がいる。
「いつまで目をつむっていたらいいんですの~!」
「つむらなくてもいいよ!? 直視しないなら!」
「そんなことおっしゃられても怖いですわ~!」
「とりあえずゴーレムの影に隠れてて!」
「了解ですわ~~~!」
こうなると、ジゼロジゼロは戦力にならない。
俺がメデューサ頭を確認出来ているのは、背を向けた状態で【水鏡】に反射した像を見ているからだ。
何しろ、俺の【水鏡】はスキルを取得していないためスカスカで、鏡替わりに使えるのだ。
潜在能力を示す星も、ろくに潜在していないので気持ち程度に瞬く程度に過ぎない。
「ほー、考えたのう~」
上から誰かの声が相変わらずして来るがそちらを見る余裕はない。
とりあえず女性の声なのは確かで、口調の割に若々しい。
勝手にエルフで想像しているが、この世界にそんな種族がいるとは聞いたことはない。
それより、メデューサ頭のビームは魔法の類らしく文字通りの光の速さではないが、数えきれないほどの蛇の目から同時に放たれているのが脅威だ。
むしろばらけさせてきた方が怖いが、それだと出力が足りないのかもしれない。
ただ、ゴーレムはもともとが岩なので石化光線は無力だ。
かくいう俺も、ゴーレムの影に隠れながらチャンスを伺っている状態だ。
マーキメデューサにしてみれば、獅子頭の回復のための時間稼ぎだろう。
おそらく、獅子頭が体のメインコントロールを担当しているのだ。
だから、こっちを釘付けにするだけでも十分意味がある。
獅子頭が回復したなら、体当たりをされるだけで俺たちはお陀仏なのだ。
「くそっ……」
手をこまねいている間にも、石化は周囲に広がっていく。
「あの~、ふと思ったのですけど」
「何か手が?」
「辺りが石化していくのって、武器が増えて行くだけじゃないんですの?」
「あ」
我ながら、間抜けすぎる!!!!
たぶん、志村後ろ後ろ状態だったことだろう!!
「でかいやつ頼む!!」
「フフフン! やらいでか! ですわ!! ゴーレム・最大パワー!!!」
「ゴッ!!」
なんかもうスーパーロボットって感じだな……。
周囲の石が剥離し、ゴーレムに付着。
岩の体をどんどん大きくしていく。
そのサイズ、およそ15m。
マーキメデューサの1/2ほどのサイズだが、岩石の塊だけに威圧感では負けていない。
「ふむ……このサイズ感、並みの【岩石操作】じゃないのう。何らかのレアスキルか……?」
推定エルフの見物人の呑気な声は無視するとして、【水鏡】の反射映像を元に、ジゼロジゼロに指示を出す。
「そのまま真っすぐゴーレムを進ませて! 間違っても自分が向いてる方向という意味で真っすぐじゃないよ!」
メデューサ頭と目を合わせないようにジゼロジゼロは背を向けてるからな。
それをやらかしたら、俺らはまとめてゴーレムに引き潰される。
「流石にわかってますわよ! わたくしをちょっと抜けているって思っていませんこと!?」
思ってはいる。
普段の行いと、獅子頭の炎のせいで髪の毛チリチリなのが悪い。
「いいからまっすぐ突っ込ませて!」
「誤魔化せてませんわよ! 別にいいですけど!!」
別にいいんだけど、と言って、それが本心だった上司などいない。
……悲しい前世の記憶が蘇ってしまった。
まぁ、ジゼロジゼロは本当に気にしてなさそうだけど。
「ゴゴゴゴッ!!」
突進するゴーレム。
メデューサ頭が石化ビームを放つが、岩のゴーレムには何ら意味がない。
なんというかこの怪物、スペック上のヤバさの割に、なんか不憫だな!
一歩間違えば本当に死んでしまう戦いをしているのに、何でこんな緊張感ないんだ……。
これで死んだらやりきれないので、油断はしない。
「突進しながら、パンチだ!!」
「オッケーですわ!!! ぐるぐるパンチでしてよゴーレム!!」
ぐるぐるは指定していないが。
ピッチングマシン式投球の際にコツをつかんだらしく、遠心力で破壊力を倍増させた岩の塊というあまりに凶悪なパンチがさく裂した。
「フシューーーーッ!?」
岩の拳が砕けるほどの破壊力で前足がへし折れる。
それで下がってきた頭に、左のぐるぐるパンチがさく裂した。
「プギュッ!?」
あーあ。
あーあ……。
「仕留められました? もう見ていいですの?」
「絶対に見ないで」
「えっ」
非常にグロいことになっているのよ……。
スイカ割りというかなんというか。
タテガミに見紛う無数の蛇と言えど、獅子頭が潰れてしまっては生きていけない。
蛇だったものたちの間から、紫の気珠が零れ落ちていたので、とりあえずそれは回収した。
「ふうむ……威力がありすぎるのも困りものじゃのう」
ようやく空中の推定エルフに目を向けると――
「ん?」
それは、雲の上に乗っていた。
少女が、あぐらをかいて座っている。
その恰好がまたアンバランスというか、ショートの黒髪に野球帽に似た帽子をかぶり、サングラスをかけていて、お忍びのアイドルがやりそうなアイテム装備だ。
服装は胸の下までの丈のTシャツに、ホットパンツと、だいぶアグレッシブだが、この世界では別に肌の露出のうちにも入るまい。
全体的に男子と間違えられる女子、という印象で、日本にいても薄着以外は違和感がない。
肌の色が青いことを除けば。
想像していたエルフとは似ても似つかぬ姿なのは間違いない。
「見苦しゅうてかなわんから、片づけてやろうかの」
少女が手を天に掲げる。
すると、頭上に黒雲が寄り集まって行く。
「【コール・スコール】!」
少女が指を鳴らした瞬間、一気に雨がマーキメデューサに降り注ぐ。
雲は物理法則を無視して傾き、風もないのに横殴りの雨となって怪物の巨体を押し流していく。
あっという間に、マーキメデューサの死体は押し流され、湿地に沈んでいった。
「にゃはははは。どうじゃすっきりしたろう!」
「っていうか君は誰だ!」
「おお、そうじゃな。言うておらんだわ」
少女が雲ごと降下してきた。
そして、よたよたと雲から降りる。
足が確実に着く高さにすればいいのに、ちょっと高いところで降りるから、もたもたしている。
「わしは、パコニカ。【雲】使いにして、ダンジョン考古学者のパコニカ・ルーフェランドゥーじゃ」
「考古学者……ええと、俺はジーロ。防険者の卵で、あっちが――」
ジゼロジゼロの方を向くと、また目をつむっていた。
「ほ?」
「もう目は開けていいよ!?」




