12・フロアボス・マーキメラ?
マーキメラは巨大すぎたために距離感がバグっていたが、近づいて来たことでその威容が鳥肌という形で実感される。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ブエエエエエエエエエエエエエエエエ」
いくら何でもでかすぎる。
ビル10階ほどの高さがあり、尾びれは大型の鯨のそれと遜色ない。
前足の一振りで一戸建て住居が吹き飛ばせるだろう。
マーライオンは8,9mくらいなので想像以上に小さくて驚くというが、こいつは30mはある。
もう怪獣だ。
昔はそのくらいのサイズのマーライオンもあったとか――
「何を呆けていますの!?」
「ごめん、現実感なさすぎて!」
「何か作戦はありまして!?」
「流石にない!! 逃げよう!」
「採用ですわ!!」
準備はしてきたつもりだったが、あんな大怪獣は想定してない。
水マジロの死体のせいで階段に逃げ込むことも出来ないので、葦原に飛び込んでいく。
奥の方は人の背丈並みの高さがある。
まだ隠れようはある!
いや、今のジゼロジゼロの体格だときついか!?
だが行くしかない。
「なるべくかがんで!!」
「合点承知の助ですわ!」
背後に迫りくる大怪獣の上げる激しい水しぶきの音。
水滴がかかってきたことからも、もうすぐそこまで来ている!!
だが、葦原に隠れるのが早い。
角度的に上から見られているのでバレやすいが、風でも吹けばどうせわからなくなる!
「ガオオオアアアアアアアアアアアアアアア」
「ベエエエエエエエエエエエエエエエエ」
俺たちを見失ったマーキメラは苛立っている。
相手がでかすぎるので葦の隙間からこっちは姿が見える。
「ここからどうしますの?」
近くでかがんでいたジゼロジゼロが小声で聞いてくるが……現状では切れるカードはない。
ただ――
「一応確認だけど、泥は操れないんだよね?」
「ええ。【泥操作】は水と土の複合スキルですわ」
「じゃあ岩場を探そう。そこでなら君のスキルが使える」
「なるほど、そうですわね」
「まずは奴に気づかれないように移動を……」
と、マーキメラのライオン頭が大きく息を吸い込んだ。
「そうかあ!? しまった!!」
「どうしましたの!?」
「キメラは火を吐くんだった!!」
「ええっ!?」
「水中に飛び込めーーーーー!!!」
葦原の中でも水が深くなっている箇所はある。
そこに飛び込んだ直後、猛烈な炎が葦原を薙いだ。
着水でやや濁った水中に居てなお、炎の光を知覚出来たし、熱さを感じた気がする。
息が続くか、炎が消えるかというせめぎあい。
昔の特撮で水面にまいたガソリンの量が多すぎて浮上できずに役者が溺れかけたという話を思い出す。
そんなことを考えて耐えていたが、もう呼吸の限界。
浮き上がったのは、炎が消えた直後だった。
「ぶはあ!!」
見ると葦原は一面焼き払われていた。
あちこち煙が噴き上がり、根元を残して焦げる葦の群れは刈入れ後の田んぼのようだ。
つまり、隠れる場所がない!
マーキメラの獅子の瞳と、明らかに目が合う!
「こっちですの!!」
先に上がっていたらしいジゼロジゼロの声で振り向く。
少し焦げて髪がちりちりしている彼女が駆けていくのは、ごつごつした岩場だった。
葦原が焼き払われたことで、岩場が露出していたのだ!
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ブエエエエエエエエエエエエエエエエ」
こっちの意図に気づいてか気づかずか、マーキメラが突っ込んでくる。
あるいは焼いたら生気が吸えないということに気づいたのかもしれない。
「行きますわよ!」
先に岩場に到着したジゼロジゼロがゴーレムを生み出そうとする。
「岩を全部は使うな!」
「なぜですの!? ちょっとでも大きくした方がいいですわ!」
「岩を投げさせるんだ!!」
「なるほど!!」
理解力がいいのか、ノリがいいのか、ジゼロジゼロは了承するや、ほどよいサイズのゴーレムを生み出した。
身長にして3m強、それでいてまだ周囲に岩がごろごろしている。
「行けーーーーっ!」
「行かいでかーですわ!!」
「ゴオオオオオオオ!!」
ゴーレムが洞窟を抜ける風のような吠え声を上げて岩を投擲する。
岩場に向かう俺の上を飛んで行ったそれは、でかすぎて外しようがないキメラに命中。
「ゴアアアアアアアアア!!!」
胸に命中したキメラが悲鳴を上げる。
マーキメラのサイズからすれば小石みたいなものだが、人間だって小石をぶつけられれば大けがをする。
「それそれっ!!」
投石器に等しいゴーレムの岩投げは、マーキメラをひるませるのには十分な効果があった。
おかげで俺も問題なく岩場に辿り着けた。
が、岩も残り少なくなって来ている。
仕留め切れるかどうか。
どうにかして威力を高められないか。
カタパルトを作る……のは今からじゃ無理だ。
なら、どうする?
投げると言えば――
「そうか!」
「ど、どうしましたの?」
「腕を縦に一回転して投げさせるんだ!」
「わかりましたわ! こう、かな?」
「ゴッ!」
人間ではないゴーレムは、そもそも筋肉や腱で動いていない。
生身を超えた可動域が、腕を一回転させ、その加速力で岩を射出した。
そう、ピッチングマシンのように!
「ギャオオオオオオオオオオ!!??」
まともに眉間に岩塊が命中したマーキメラの獅子頭が絶叫する。
破壊力凄まじく、白目をむいて頭ががくりと落ちた。
「やりましたわ!!」
「まだだ!」
「ベエエエエエエエエエアアアアア!!!」
ヤギ頭が怒りの雄たけびを上げる。
アイツにはどんな能力があるのか、そういえばわからない。
そもそも神話でも何してたんだっけ。何も印象がない。
火を吐くのがどの頭って描写もなかった気がするが、ヤギには似合わないしな……。
「ブエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
仕掛けて来るのに備えるが、何もやってこない。
「……」
「……何もしてきませんわね」
「……もしかしたら、何の能力もないのかも……」
「それじゃあ、ゴーレム、やっちゃってくださいまし」
「ゴ」
ゴーレムの剛腕が唸りを上げ、岩塊がヤギの頭を直撃した。
「ベエエッ!?」
あっさり、ヤギの頭も気絶した。
「……なんか拍子抜けですわね」
「うーん、まぁ肉食獣のライオンが主導権を握ってたのかも……」
しかし、起き上がってこられたらたまったものじゃない。
今のうちに止めを刺さないと。
そう思ってマーキメラに近づいたとき、空から声が降ってきた。
「知らないのかねえ。キメラの頭は二つじゃないってねぇ」
「あっ!?」
気づいたときには、もう遅い。
獅子頭のタテガミが逆立っていた。
いや、タテガミではなかったのだ。
無数の蛇の集まりであった。
それはまるで――
「見るなーーーーっ!! ゴーレムの影に隠れろーーーーっ!!」
「ふぇっ!?」
メデューサそっくりの蛇頭の群れが、怪しい光を放った……。




