114・【アクアリウム・ナインシー】
視界が一瞬で海中になる。
「がほっ」
呼吸できず、言葉は代わりに泡となって口から溢れ出す。
一瞬のうちに、海に叩き込まれている!?
「どう? 私のナカは?」
露骨なまでに煽情的な声が、水中特有の籠り方をして響き渡る。
声は上方からしている。
反射的に上を見ると、どうやら巨大な金魚鉢のようなものに包まれているらしかった。
よく見えないが、どうやらユラーゲルの胴体が広がって海となっているのだろう。
そんなことより息が続くうちに早く脱出しなくては。
腕をかき出した瞬間――
「っ!!」
目の前を巨大な影が横切った。
巨大なエビのような、節を持つ生き物。
何より目を引くのは2本のカギ状のキバだ。
こいつを、俺は知っている……!
アノマロカリスだ……!!
恐竜より遥か古い時代、カンブリア紀に居た、生き物……!
なんでこんな奴が……!
しかも、でかい。ホオジロザメほどもある。
カンブリア紀の生き物は、まだそんなに巨大なものはいなかったはずだ。
つまりこれは異界のアノマロカリス……!!
「あら? 反応を見るに、知ってるのねそれを。
遥か昔に絶滅した生き物なのにね。
ちなみに、ソイツ肉食よ」
「!?」
ふざけんな……!!
巨大なアノマロカリスは、俺を獲物と見定めたのか、ぐるぐる回遊している。
よく見れば、他にも何匹もいるし、口がホースのように伸びたやつ――確かオパビニアなんかもいる。
あのどこが頭なのかもわからないトゲトゲのハルキゲニアとかも海底を歩いている。
ほかにもわけのわからない生き物だらけ。
どいつも、俺を狙っているように思えて来る。
「(くそっ)」
右手に【死】、左手に【生】の力を纏う。
アノマロカリスらがマイナスかプラスかもわからないのでどっちも叩き込むしかない。
「その力、ただの海水も殺せるのかしら? どうなのかしらね?」
海水を操って攻撃してきたなら違うかもしれないが……ただの水は殺せない。
だが、こいつの体なら別だ。
と、思っていたが、この口ぶりだと違うのか?
こいつは場であって……とダメだ。
もう息が続かない……!
なんとかこの化け物をかわして水面に――
「ああ、無駄よぉ。幅は自由自在だし。
それと、そろそろ【国宝】が来そうだから、手は打っておいたわ」
「……!」
「スカルポーネを球に戻して上の階に飛ばしておいたの。
今頃、疑似ドラゴンになって【国宝】と戦ってるはずよ。
きっと間に合わないでしょうね。
可哀そうに。うふふ」
クッソ性格の悪い……!
何か、手は!
手はないか……!
ダメだ、苦しすぎる……!
考えるだけの酸素すら……!
俺が弱るのを確認してから、一気にアノマロカリスたちが迫ってくる……!!
「ジーロッ!?」
と、そこに何かが海を切り裂いて飛んできた。
それは、巨大なドリルだった。




