113・深魔弄(もてあそ)ぶ
「長い間、琥珀の中に閉じ込められていたことで、私の感知能力はどこまでも研ぎ澄まされたの。だから、わかってる。
何がわかってるかって聞きたいわよね?
ちょっとでも時間稼ぎしたいわけだし」
「何がだ……!」
「【国宝】の到着時間。あと5分ってとこ。
外を高速で飛んできてる」
「!」
「一応言っておくと、ファスティバ正規軍の到着は1時間以上先ね」
「つまり5分稼げるかって話なわけか……」
「そうね。まぁ無理だし、別に【国宝】程度に負けはしないんだけど」
ユラーゲルがサソリの群れをけしかける。
「くっ!」
クロスボウで矢を射るが、硬い甲殻を貫けない。
キシキシと嫌な音を立て、サソリが殺到してくる。
「あはは。無駄無駄。無駄すぎて愛おしくなっちゃう。
ちゃんと【エイリアンスキル】を使わないと」
他人事みたいに言いやがって……!!
サソリは距離が近くなると、投石器のように反動をつけた尾で貫こうとしてくる。
「うおっ!?」
咄嗟に飛びのいたから避けれたが、大理石の床に穴が開いている。
あんなもの食らったらハチの巣だ。
つまり、囲まれたら終わる……!
距離をとらないと――
「真面目に戦わないと、あっちのお嬢様にけしかけるわよ?」
「性格最悪だな!!」
フォースを回復させているジゼロジゼロに視線を向けるユラーゲル。
黒龍が先ほど食らったのはやはりただの衝撃波だったわけではないらしく、体中から血を噴き出している。
おそらくは浸透する波動の類なのだろう。
回復には時間がかかるに違いない。
「くそ……!」
誘導されているようで癪だが、【Eスキル】に頼らざるを得ない。
右手に【死】を纏わせる。
あるいは【生】でしか倒せないかもしれないが、試してみるしかない。
「ふうん、やっぱり概念を操れるのね……」
いつの間にか、ユラーゲルの額には三つの目が開いていた。
都合五つもの目が、俺を凝視する。
いつでも殺せるくせにそれをしないのは、観察以外の理由はないだろう。
「でも、それじゃスカルポーネちゃんたちは倒せないでしょ。
触ってる間に他のに襲われるでしょ」
「半年LOMってろ!!」
「はぁ?」
説明してやる義理はない。
手近なサソリが、再び尾をしならせる。
「今だ!」
左手で床に触れ、サソリの床を回転させる。
「キシッ!?」
「ギシャッ!?」
発射を止められず、まんまと別のサソリに尾を打ち込んでくれた。
白竜帝と比べたら、タイミングは難しくない。
混乱しているその隙に、【死】の右手で甲殻に触れる。
が――
「効かないか!」
「そりゃそうでしょう。【紫界】勢の肉から作ったんだから」
「はいはいそうでしょうよ!」
邪神の勢力は【紫界】勢ね!
そんなことより、秘かに左手に貯めておいた【生】をサソリに叩き込む!
「ピギュアー!!」
サソリの体から、キノコが次々生えて行く。
タイクーンの苔のイメージがあったから、ついキノコにしたが、花だろうが茸だろうが同じだ。
マイナスの生命を、プラスの生命で打ち消していく。
「グキシシシシッ!!」
「あぶねっ!!」
命を削られたサソリがハサミを振り回す。
危うく頭を丸ごと持っていかれそうなスイングをかわして、距離を取る。
サソリが暴れてくれるおかげで、同士討ちになってくれる。
今のうちに態勢を整え――
「はい、どーん」
「かっ!?」
ユラーゲルから放たれた衝撃波が、周囲丸ごと吹き飛ばした。
一瞬の衝撃に、サソリの群れごと打ち上げられる。
「ごぶぇっ!?」
サソリは巨体ゆえに落下の衝撃で潰れ、俺は投げ技を食らったように床に叩きつけられる。
その衝撃よりも深く、骨から内臓まで響く不快な振動。
脳が強制的に揺らされて吐き気が止まらない。
そこにユラーゲルがとことこと歩いてくる。
見えているが、体が動かない……!
「もうちょっと頑張りと能力を見ておきたかったけど、そろそろ3分だもの。
遊びも終わりというか、遊びながら死んでもらおうかなって」
「く、くそが……」
手を抜いていても余裕で俺なんか殺せる化け物が、にやりと笑った。
顔が割けそうなほど深い笑みだった。
「浸り溺れ揺蕩え【アクアリウム・ナインシー】」
ユラーゲルの髪が深い青紫色になり、周囲を包むほどに拡大した。
次の瞬間、むせかえるほどの磯の香りが一気に広がった――




