112・【先任邪将】
クリフハンガーにもほどがある。
苦労して白竜幕府を倒したと思ったら、タイクーンが本性を現して、フォースの助けでなんとかなって、ようやく終わると思ったらユラーゲルだ。
これが映画なら、観客はもうくたくただろう。
勘弁してくれ……!!
「何その勘弁してくれって顔。傷つくわ……」
「やめろ……全部嘘の癖に」
「全部本当よ。嘘なんて自分の立場を保つためにつくものでしょう?
あなたは蟻にわざわざ嘘をつくかしら?」
「余計たちが悪いんだよ蟻マニア!!」
「あら? 愛は認めてくれるってこと? 嬉しいな」
こいつは化け物だ。
その証拠に、軽口を叩きながらも、フォースの拳を片手で受け止めている。
ドラゴンは邪神のしもべの天敵のはずだ。
それなのに、意に介していない……!
「ぐぎぎぎぎぎぎ……!!
なんだァテメエは……!!」
「初めまして私は【深魔】ユラーゲル。
ああ、ドラゴンにもわかりやすく【先任邪将】がいいかしら?」
「なっ!?」
フォースが虚を突かれたその隙に、ユラーゲルから衝撃波ともオーラともつかぬ波動が放たれ、黒龍の巨体が吹っ飛ばされた。
「ぐおおおおおおおおおおっ!?」
信じられない。
まるで新幹線が通過するように、フォースの巨体が一瞬で遠くまですっ飛んで行った。
「これが……【先任邪将】……」
復活直後は、まるで本気ではなかったのだ。
【先任邪将】という名前を聞いたのは初めてだ。
だが、前にフォースはこう言っていた。
『ウルトラヴァイオレット直轄のバケモン……と聞いてる。【侵深邪将】、【侵深邪神官】、【三副侵】が将官クラスって話だが……流石にそんなもんが出てきたら、全ドラゴンが同盟組んで追討しなきゃなんねえだろうな』
おそらく、その【侵深邪将】のことだろう。
つまり、ドラゴンが総出で戦わなくてはならないような存在。
そして先任というからには、もう新任がいるのだ。
封印されている間に、邪神サイドで次の将軍が選任され、更にその情報をコイツは得ていることになる……!!
俺は、ジゼロジゼロにアイコンタクトする。
「!」
フォースの元へ、という意図。
それは伝わったようで、ジゼロジゼロが下がっていく。
彼女のスキルなら、フォースを癒せる。
それに、ユラーゲルは俺には興味を示している。
ジゼロジゼロにターゲットが向く前に離した方がいい。
「かかかかかかかかかか!!
流石は【邪将】!! 素晴らしい強さだぁ!!!
悲しいくらいに強い!! 強すぎる!!」
先ほどまで笑いながら自己憐憫に浸っていたタイクーンが、泣き笑いをしている。
「お前ら……何なんだよ……
わけがわからない……」
「あら、こんなにわかりやすいのに?」
「どこがだ。
お前らの愛も悲しみも……全部嘘っぱちだ。
全部反転した世界から来たんだな……!」
生死すら反転した世界に棲む怪物たち。
そんな奴らの感情など、理解できるはずがない。
「すこぉし勘違いしてるみたいね。
別に感情も反転しているわけじゃないわ」
「え?」
「喜怒哀楽も愛憎も、全部私たちにもあるわ。
それが同時に出ているだけ。
混沌とはそういうものだもの」
「……な、るほど……」
理解はしきれない。
だが、納得は出来る。
悲しいから嬉しい。
楽しいから腹立たしい。
憎んでいるから好き。
好きだから殺す。
こいつらは、そういう生き物なのだ。
「これでお前たちは終わりだ!!
悲しいなぁ!! ドラゴンを全滅させたのになぁ!!
かかかかかかかかかかかか」
「うるさい」
「え?」
ぐしゃっ。トマトが潰れるような音。
しかし、それはトマトなどではなく、タイクーンの肉体の大半がプレス機にかけられた車のようにひしゃげていたのだ。
「な……なんで……わし……を?」
「うるさいから」
きっとそれは、怒りではないのだ。
単にうるさいからスイッチを切るように、潰しただけ。
「そんな……可哀そうすぎる……」
「はい、お疲れ様」
「あぎゅっ……!? かっ、くぇっ!?」
タイクーンの体が、いくつものボーリング玉サイズの球に変わっていく。
「何を……している」
「こうするのよ」
そのボーリング玉が床に落ちると、次々と形を変えて、ねじくれたサソリのような怪物に姿を変えた。
サソリと言ってもライオンほどのサイズがある。
それがうじゃうじゃと現れたのだ。
「くっ!」
「即席の手下ってわけ。
そろそろ、そっちの助っ人が来そうだし?」
「……」
バレている。
ファスティバの戦力――特にファルケファルケ――の到着まで時間を稼いでいたのだ。
白竜幕府は、あまりにも悪意に対して耐性がなかった。
だから、驚くほどトラップが効いて、まさかまさか、勝ててしまった。
だが、こいつは違う。
悪意の塊のような奴なのだ。
「でも、ピンチに助っ人が次から次に出て来るっていうのも興ざめよねえ?」
ユラーゲルが、にっこりと笑った。
「その前に殺してあげるわね」




