111・絶望の口
Q・なぜドラゴンは人型に変身出来る?
A・元が人間だから。
Q・なぜ祖竜などという、最初の者が明確に認識されている?
A・進化の過程ではなく、変身した人間がいるから。
Q・なぜ祖竜ジゼロォが人間に愛されている?
A・元が人間だから。その伝承は失伝したが、親しみだけが残った。
Q・人は才能に人才などとつけないのに、なぜドラゴンの能力は【竜才】と呼ぶ?
A・元が人間だから。
Q・なぜドラゴンは人間のスキルをわが身に宿せる?
A・元が人間だから。
人語を解すのも、人間以外に唯一スキルが使えるとされるのも、人域を侵さないのも、貧乏くじを引いてまで世界を守護しているのも、何もかも全てはある事実に結実する。
元が人間だから。
その一点に。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」
タイクーンの絶望の叫びは留まるところを知らない。
「てめえには同情するぜ。白雷天から聞いてりゃ、反逆なんかしなかっただろうしな。俺たちの祖は、世界のために自分から貧乏くじを引いたんだ。その誇りを知ってりゃ、こんな馬鹿な真似ができるはずがねえ」
この世で最強で、この世で最も不自由な生き物・ドラゴン。
それは、誇りある自己犠牲だった。
ゆえに、それを嘆くのは、誇りに反すること。
しかしながら、それは一部の者にしか伝えられていなかった。
誇りなき者に伝えれば、逆効果となるリスクがあるからだろう。
それこそ同じ人間ならば場所を取り換えろと言い出しかねない。
だからこそ、時期を選んで待っていたのだろう。
長寿すぎる種族ゆえの、気長さがこの悲劇を生んだとも言える。
「そんな……そんな……それではわしは……わしは……!!」
その悲劇の主人公は――
「なんて可哀そうなんだァーーーーー!! かかかかかかかかか!!」
「はァ?」
悲劇に酔っていた。
「こんな可哀そうなことがあるかァ!!
わしの計画は、ぜーんぶ無駄だったんだ!!
無駄な悲しみ。無駄な苦悩!! 無駄な犠牲!!
騙して巻き込んで死なせた奴らはみーんな無駄死にだったわけだ!!
誰も彼もが可哀そうすぎる!!」
まだ悲運を嘆いているならば納得は出来る。
だが、何がそんなに嬉しいのか。
その気味の悪い笑みは何だ。
「何、他人事みたいに言ってやがる!!」
「ヒト事! そう元が人間だと知ってる奴はそういう言葉遣いにもなるか!
わしは知らなかったんだぞ!!
なんで白雷天はわしに教えてくれなかったのか!!
わしほど古くから仕えているドラゴンもそうはおらんというのに!!」
「信用されてなかったんだろうぜ!!」
フォースが再び殴り掛かる。
タイクーンはもはや抵抗もしていない。
ただ殴られるばかり。
それでも、口を開くことを止めない。
「可哀そう可哀そう可哀そう可哀そう可哀そう!!」
「なんなんだよテメエはよ!!」
壊れたおもちゃのように喋り続けるタイクーンを、フォースの拳が打ち抜き続ける。
俺もジゼロジゼロも、とても割って入れる状況ではない。
白竜幕府との戦いは、運が良すぎたのだと、今更ながら痛感する。
こんな竜巻のような暴力に、自分たちが入り込む余地はない。
邪神のしもべと、それに対する天敵たるドラゴンが一対一で戦うとき、これほどまでに差があろうとは……。
白竜幕府が全滅するまで姿を現さなかったのも頷ける。
「こんなに可哀そうなんだから、報われたっていいはずだろうがア!!!!!
神様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「もう、黙れ」
可哀そうではない。
だがあまりにも哀れだ。
フォースは、渾身の拳をタイクーンの顔面に叩き込――
「もう、仕方ないなあ……」
その拳が、受け止められた。
タイクーンの口の中から飛び出した、小柄な影が。
紫の肌をした女。
それはまさに――
「ユラーゲル!?」
「はぁい、久しぶり♡
あ、久しぶりってほどでもないか」
【深魔ユラーゲル】が、笑顔で手を振った……。




