110・ドラゴンの真実
天井に顔面が突き刺さったタイクーンは、その巨体を重力に引かれ、すぐに落下した。
フォースの着地など比べ物にならない衝撃が床に伝わる。
俺とジゼロジゼロの体が跳ね上がったほどだ。
「がぁ……っ」
顔面をはじめ、至る所を骨折しているのだろう。
黒っぽく変色したアザだらけであり、体中の口からは紫色の血液が撒き散らされている。
普通なら、決着だ。
だが、異界の化け物は、これで本当に終わりなのか――
「……なんで……邪魔するんだよォ……」
哭いていた。
巨竜が、体を震わせて。
「ドラゴンなんかよぉ……何にもいいことねぇだろうが……」
「あァ?」
「いつ来るかもわからん敵のために……無駄に長い寿命でよぉ……
そのくせ、辺境に押し込められてよお……
何でわしらばかり貧乏くじを引かにゃならんのだ……
何で……人間みたいなちっぽけな生き物のために……」
「……」
フォースは無言になる。
彼も、思うところがあるのだろうか……。
「お前よう。それ、てめえんとこの大将に話したか?」
「無論よ……白竜帝を唆したのはわしだ……
だが、やつも同じ思いをしていたのだ。
だから簡単に乗った……かかか……」
「そうじゃねえ。白雷天に聞いたのかって意味だ。
先代の殿様だよ」
「なに……?」
フォースの顔には、人間から見てもわかるくらい、渋面としか言えない苦渋の皺が刻まれていた。
「大方、聞かずに殺したんだろ?
馬鹿野郎が。
だから、一番肝心なことを聞けずにこうなっちまった」
「何を言って……いる?」
「俺もな、同じことを思ってたよ。
だから、最敬老のじじいに、尋ねたんだ。
何でドラゴンばっか我慢しなきゃなんねえんだ、ってな」
「そうだろう!
それが当たり前――」
「そうしたら、じじいにこう言われたよ」
『戯けが!! よく考えよ!! なぜ我らは人型に変身出来る!! なぜ祖竜などが存在する!! なぜ祖竜ジゼロォが人間に愛されておる! なぜ我らの能力を【竜才】などと呼ぶ!!』
「ってな……」
「え……あ……?」
待て。
待てよ。
何かとんでもない話をしている気がする。
だって、その言い方だと――
「いまだったら、『なぜ人間のスキルをわが身に宿せる!!』って言われそうだな」
「なに、が……なにを……」
タイクーンもまた混乱している。
「で、こう」
『考えればわかろう!! 考えぬからわからんのだ!! ここまで揃えば、答えは一つじゃろう!!』
「うあ……ああ……ああ……!!??」
そう、なのだ。
そこまで揃ったのなら、誰だってもう答えは見えている……。
「なんですの!? ど、どういうことでして!?」
訂正。ジゼロジゼロはもうちょっとかかる。
「やめろ……言うな!! それ以上言うなああああああ!!!!」
タイクーンの絶叫は、もはや悲鳴だった。
全て崩壊する直前の、あまりに悲痛な叫び。
「俺ら竜は、人が変身したものだ!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
絶望的な事実を前に、裏切りの巨竜は、紫の血涙を三つの目から流しながら、ただ慟哭した……。




