109・縮空
「らァ!!」
天井の空間を引き裂き、黒龍が落ちて来た。
ズズゥンと、地震めいた振動と共に、着地する。
ドラゴンの姿は見たことが無かったが、あの声は間違いなくフォースだ。
立ち上がったその体には、多数の傷跡が見て取れた。
ここに来るまで、どんな戦いがあったのだろうか……。
トラップは全て白竜幕府が破壊したはずなので、魔物に襲われたのだろう。
恐るべき魔物だ……。
そんな魔物が居た記憶はないが、異界の力を偏らせた影響かもしれない。
「き、貴様は、黒龍領の……!!」
「黒龍領域だ! 間違えんじゃねえ!!
お前らんとこみたいに、別に治めちゃいねえんでな。
……いや、お前は裏切りモンみたいだがな」
フォースの睨みにタイクーンがびくりと震える。
「なぜ、黒龍が現れた!!」
「同族の恥を雪ぎに来たに決まってんだろうが」
ドラゴンがバキバキと拳を鳴らす。
「そうではない!! 他のドラゴンどもは【深魔】の復活に気を取られているはずだ!
お前は……わしに気づいていたというのか!?」
……!
コイツ……ユラーゲルの復活を知っていた……!?
だから、白竜帝を焚きつけて軍を動かしたんだな……!
「知らん!! そんなのは最敬老のじじいたちに任す!!
俺ァはお前らをぶん殴って止めに来たんだよ!!」
と、バチンと自分の頬をはたくフォース。
いや、何やってんだ!?
「クソァ!! 何してんだ俺ァ!!
明後日なとこ向かってる間に白竜幕府が崩壊してやがる!!
全部、俺のせいじゃねえか!!」
「思い上がるなよ若造!!
貴様一匹居たとて、わしに勝てるものかよ!!」
「思い上がりかどうか、見てみやがれオラァ!!」
黒龍の巨体が突進する。
「若造が……!!」
タイクーンの体中に口が開く。
まるで百目の妖怪の、目が全部口になったかのようだ。
「爬虫類人たちに奪わせた人間どものスキル!
彼らを食らって取り込んでおいたのよ!」
「あっ!?」
完全に失念していた!!
たしかに白骨公主たちは、スキルを集めていた。
コイツの指示なら、こいつも使えないはずはないのだ!!
全て、このためか……!!
「スキル総斉射!!」
たくさんの口から、火や水や岩や雷や風が放たれる!!
こんなもの軍隊の攻撃に等しい……!!
いくら黒龍といえどこれは――
「ヘッ」
突進するフォースがニヤリと笑った。
殺到する攻撃の渦にそのまま飛びこんでいく。
「ああっ、ダメですわ!!」
思わず目を背けるジゼロジゼロ。
だから彼女には何が起きたかわからなかっただろう。
「がっ、はっ……!?」
攻撃を食らって呻いているのは、タイクーンであった。
「えっ、えっ……何があったんですの……?」
「空間を、飛び越えたんだ」
「ええっ」
俺には、そう見えた。
攻撃に突っ込んでいた筈が、それが命中する直前、その巨体が消え、次の瞬間タイクーンの目の前に現れていたのだ!!
そして、そのまま、フォースの突進が炸裂したのだ。
「な……なぜ……!?」
「【縮空】。それが俺の【竜才】よォ!!」
おそらくはワープ能力……!
そういえば、この迷宮も他には真似できない方法で突破してきたという話だったが、それはこの能力によるものだったのか……!!
「おのれ……!!」
タイクーンが鋭い爪で引き裂こうと腕を振り下ろす。
だが、その腕は簡単に取り押さえられてしまう。
「タイマンで俺に勝てるわきゃあねえだろうがあ!!
オラァ!!!!」
放たれるラッシュの連打。
恐竜めいた巨体からボクシングの教科書のような攻撃が繰り返される。
「がっごっぐっ!?」
「聞いてんだぜ!! てめえらの弱点は肉弾戦だってなァ!!
うらららららららららららららァ!!」
怒涛のパンチパンチパンチパンチパンチ。
ドラゴンの拳は工事現場の杭打機に等しい。
その連打たるや、想像を絶する破壊力である。
せめてもの抵抗に火や雷を放つタイクーンだが、さっきのように一斉掃射できる余裕はなく、散発的な攻撃で止まるフォースではない。
「ぬっりいなァ!! 人間のスキルの方がよっぽど痛かったぜェ!!!」
こんな重機レベルの相手にそう思わせたバケモンは誰なんだよ……。
「げ……は……」
「ウオラアアアア!!!」
完全にグロッキーとなったタイクーンの顎を、フォースのアッパーが打ち抜いた。
そのあまりの威力に、タイクーンは垂直に吹っ飛び、その頭が天井に突き刺さった――




