115・【リボルバー・シー】
水越しに見えたのは巨大なドリルが海を切り裂いて飛んで来ている画だった。
螺旋の回転が、空気を巻き込みながら通り過ぎて行く。
本来、地面を掘れるはずがない三角錐のドリルは、水中でも物理法則を無視しているのか周囲を丸ごとえぐり取っている。
ジゼロジゼロが作ってくれたチャンス。逃すわけにはいかない!
「っ!」
水が流れ込む前に、ドリルが通過した空間に出来た空気だまりに突っ込む。
「ぶはっ!」
恵みの一呼吸!
すぐに水が押し寄せるが、空気を生成したバナナの葉で包み込む。
高菜おにぎりのように空気をストックし、ポーチへ。
これで――
「があっ!?」
激痛で酸素を吐き出す。
足にアノマロカリスが噛みついている……!
三葉虫を噛み砕く丸い口が、肉を抉り取る。
「あがあああああああああああっ!!!」
信じられない激痛。
真っ赤な血が海を染めて行く。
アノマロカリスやオパビニアは次々襲い掛かってくる。
「がっ、ごっ、ぎいっ!?」
肩や太ももに食らいつかれ、肉がこそぎ取られていく!
痛みをこらえて酸素を守るなんてとても無理だ!
「ぶくぶくぶくぶくっ!!」
見かねたジゼロジゼロが、巨大化して飛び込んで来た。
「(馬鹿!!)」
お前まで来てどうするんだ!!
フォースを治せば、お前だけなら助かるかもしれないのに!!
「ぶくぶく!!」
ジゼロジゼロにも、バージェス動物群が群がっていく。
サイズこそ違えど、あんなのに噛まれて痛くないはずがない。
だが、そんなものを無視して突っ込んでくる。
何て奴だ……お前って奴は……!!
「ぐうううううううううう!!」
それなのに、痛がっているばかりの俺は何だ!!
この弱虫野郎!!
根性を見せろ!!
「がぼぁ!!」
纏わりつくアノマロカリスから直接、バナナを生成!!
どいつもこいつもバナナにしてやる!!
「あら、それは良くないわね。最高。
だから――【リボルバー・シー】!」
ぐるん、と視界が一回転する感覚。
周囲の海が丸ごと回転し、入れ替わった。
バージェスの怪物たちは消え、代わりに遥かに巨大な影が目の前に現れた。
首長竜だ!
「ぼごぼん!!??」
ジゼロジゼロがドラゴンと勘違いするのも無理はない。
カンブリア紀の海から、一気にジュラ紀だか白亜紀だかの海に変わっている!!
ここは魚竜たちの狩場だ!!
「さぁ、抗いなさいな」
「(くそがあああ!!)」
痛みも麻痺するほどの圧力。
海の頂点捕食者の接近に、【死】を右手に纏う。
何となくわかって来た。
この海自体は異界の力じゃない。
おそらく、この世界の海の記憶を取り込んで再生しているのだ。
なら、殺せる……!!
左手でポーチに仕込んでいた葉を取り出し、酸素を口の中に放り込む。
「がぼお!!」
ジゼロジゼロが魚竜の首に掴みかかる。
巨大化した彼女は、この巨大な竜とすらひけをとらない体格。
しかし、人と虎が同サイズだとしてもまず勝てないように、分が悪すぎる!!
それに、大量の食物を摂取せずにする巨大化は、恐ろしく体力を消耗するはずだ。
【呪い】が【飢餓】である以上、それはあまりに危険だ。
俺が死を叩きこんで――
「はい残念」
「がほっ!?」
首長竜に気を取られていた俺の胴体に激しい衝撃が加わった。
それが白亜紀の頂点捕食者・モササウルスだと気づいた時には、そのサメのような頭の激突に、水上まで打ち上げられていた――




