104・白竜幕府と侵深偵団
「シンシンテイダンなどというものを……余は知らぬ……
他のドラゴンにすら……力を借りぬのに……
その他を頼みになどせぬ……」
「は?」
待て。
待て待て待て待て。
どういうことだ!?
「そんなはずは……」
だが、白竜帝は腹芸が出来る奴じゃない。
水宮君の様子も演技とは思えない。
おかしい。
何かが噛み合っていない。
致命的な何かが……!
思い出せ……
最初はどこからだ?
……たしかダンバドだ。
捕縛した爬虫類人を拷問し、引き出した情報だったはずだ。
『ああ、そうだ。奴らの軍団の名前が分かったぞ』
『!』
『その名を侵深偵団。威力偵察を行う部隊だそうだ』
『そもそも、どこの国の部隊なんですの? いま敵対している国もないはずですが……』
『どこでもない、奴はそう繰り返すばかりで。嘘をついているようには見えなかったですがね』
だが、爬虫類人たちは実際には白竜幕府だった。
白竜幕府は人類から見ればどこの国でもないと言えなくもないが……違和感が残る。
次は、なんだったか……。
そうだ。侵深偵団についてジゼロジゼロが触れた時、パコニカが飛び上がるくらい驚いた時だ。
『ということは、やはり侵深偵団は大迷宮で魔物を繁殖させていたのですわ!』
『なに!?』
『ど、どうしたんですの!?』
『今なんと言うた?』
『侵深偵団は――』
『侵深偵団じゃと……』
『何か知っているんですね?』
『……今は言えぬ。たとえ疑われたとしてもの』
パコニカは明らかに侵深偵団について知っていた。
そもそも外れダンジョンをずっと調査していたのに、【千魔夜行】の準備をしていた爬虫類人たちに会わないはずがないのだ。
彼女は何かを隠している。
そして驚いたのは、侵深偵団の名が漏れたことに対してだろう。
その証拠に――
『中立の約定を破ったと見てよいかの、パコニカどの?』
『それはこっちのセリフじゃよ。白竜幕府・白骨公主どの』
『で、中立を破った理由はこちらの非じゃと?』
『そうじゃ。秘するべきものを、そちらの配下が漏らしおった』
パコニカは、爬虫類人たちの親玉である白骨公主を問い詰めた。
同様に白骨公主はパコニカの敵対を咎めた。
白骨公主とパコニカが中立の約定を結んでいたのは間違いない。
話の流れから考えても、パコニカは侵深偵団の一員である可能性は極めて高い。
ならば、白竜幕府と侵深偵団の間に中立の約定があると考えるのは自然――
『奉族どもの所業など、わらわらは関知せぬ』
『それは随分と都合の良い話じゃのう』
『やつらはわらわらの機嫌を取るために、勝手に動いているだけじゃ。知ったことではないわ』
「……!!」
脳内に閃くものがあった。
まさか。
まさかそういうことなのか。
だとしたら、まずい……!!
警告を発しようとしたその時、水宮君の周りに数名の爬虫類人たちが集まって来ていた。
「おお、お前たち。無事だったのか。
今までどこに隠れていた?」
「……」
「まぁいい。もう戦いは終わったのだ。今さら隠れていた責は問わん」
「駄目だ!! そいつらを近づけるな!!!」
「なに?」
水宮君が俺の声に反応した次の瞬間、その胸から刃が飛び出した。
「がっは……!?」
爬虫類人たちは、次々と刃を突き入れる。
人型となった水宮君に、致命傷を与えるのに十分すぎる攻撃だった。
「な、何をしておるか……! どういうつもりだ貴様ら……!!」
白竜帝が血を吐きながら叫ぶ。
だが、爬虫類人たちは不敵に笑った。
「聞いたでしょう。
我々こそが侵深偵団ですよ、陛下」
トカゲ人間が、ナイフから血を舐め取った……。




