103・終わったものと始まったもの
広げた両手を地面につけ、低頭する水宮君。
「我々は降伏する!」
「ええっ!?」
思わず攻撃を止めるジゼロジゼロ。
「駄目だ! 止めるな!」
「でっ、でも――」
「油断を誘う罠かもしれない!」
「罠ではない!!」
水宮君が叫ぶ。
それには真実味がある。
だが、それが嘘なら俺たちはあっという間に両断されてしまうだろう。
だから、心を鬼にしなくてはならない。
白竜の絶叫が響き続けようとも……。
「証拠を見せる!!」
水宮君の体が、どんどん縮んでいく。
鱗は消え、つるつるとした肌に変わっていく。
人間になっていく。
いくぶん短くなった双角を持つ青い長髪の青年に、姿を変えたのだ。
腰回りなどは鱗や青い体毛が覆い、服の代わりになっている。
「この姿では、水流も放てん!
望むならば、この角をへし折ろう!
そうすれば、もうドラゴンに戻ることも出来ない!」
額をこすりつける水宮君。
角を折るというのは、人間には想像もつかない覚悟だろう。
四肢や両目を失う恐怖に近いかもしれない。
「なぜそこまでする!」
「あのお方は、白竜の純血! 王者の血統!
あの方無くして、白竜幕府の存続はない!
どうか、どうか!!」
「ジーロ……」
「……わかった。攻撃を止めてくれ」
「ええ……」
ジゼロジゼロが、穴の中のドリル生成を止めた。
白竜帝の叫び声は収まり、やがて、血まみれの巨体が穴から這い上がってくる。
「……余計な……真似を……」
全身穴だらけになり、息も絶え絶えの白竜帝は、それでもなお、瞳は死んでいない。
「出過ぎた真似は認めます。しかし、貴方を失うわけにはいかない」
「余に生き恥を……晒せと言うのか……」
「それでも生きて血脈を繋いでいただかねばなりません。貴方には死ぬ自由もないのです。それが帝王というもの」
「ぐ……」
痛いところを突かれて、返答に窮する白竜帝。
負けても帝王たれ。
それには、反論しようがない。
「……わかった」
そこから、長い長い、一瞬の沈黙。
一呼吸置いたようにも、何時間経ったようにも感じる空白ののち――
「認める。……余の、負けだ」
戦いは、終わった。
真正面からは全く戦っていない。
まともに戦えば、一方的に蹂躙されていただろう。
勝ちと言えるかは、人によるだろう。
だが、これで、もうドラゴンとは戦わなくていいのだ……。
「降伏を受け入れる」
「忝い。我が君は満身創痍ゆえ、そちらの要求は私がお聞きする」
「要求は、ファスティバ国内から全面的に撤退すること。補償の類は、俺たちじゃなく、後で国から請求してもらう」
「承知した」
「あとは……答えて欲しいことがある」
「何なりと」
「侵深偵団と白竜幕府の関係についてだ」
「え?」
明らかに困惑する水宮君。
「おっしゃる意味がよく、わかりませんが……?」
「だから、侵深偵団だよ!
あんたらと中立の盟約を組んでいた……」
「中立の……?
私は聞き及んでいませんが……」
水宮君は、ただでさえ色素の薄い顔を蒼白にした。
その渋面からは何かを考え込んでいる様子がうかがえる。
まさか、本当に知らないのか……!?
思わず視線を白竜帝に向けると――
「シンシンテイダン……? なんじゃそれは……?」




