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不満

今回も読んでいただきありがとうございます!

 



「よ!西宮」



 衝撃の事実を知った次の日。

 安眠出来なかったのと、衝撃の事実で気分が悪いのとの両方で、今の私は気分が最悪だ。

 そんな気分のまま、学校を終え下校していると誰かに呼びかけられて私は振り返る。


 能天気に元気な羽崎だった。



「ん、あぁ。羽崎か……」



 羽崎は私の隣に来て、一緒に歩き始める。



「そんな暗い顔してどうしたんだよ。お前らしくもない」



 あれだけ酷い事実を知って気分が悪くないわけが無い。

 それを知らずに、私に能天気に話しかけてくる羽崎にとても苛立つ。



「はぁ……。まぁ、あんたには言っておいた方がいいかもね」



 このままなぜ気分を悪くしているのを話さないと、羽崎は私にしつこく聞いてくることだろう。

 結局、秘密であるこの内容を吐かされてしまう。

 新澤先生には内密にとは言われたが、仕方ないだろう。


 私は羽崎に話すことを決めた。



「何のことだ?」

「一緒に来て」



 私は羽崎を連れて、公園に向かう。




 学生寮に近いこの公園は、それなりに広くよく小さな子供たちで賑わっている。

 ジャングルジムにブランコ。そしてベンチのみ置いてある簡素な公園だ。

 だが夕方に近づいているため、この時間公園にいる人はいない。


 私と羽崎はお互い少し距離をとってベンチに座る。



「何でここに来たんだよ?」



 二人とも座ったところで、羽崎は私に声をかけた。



「私が気分悪くしてる理由、話してあげるわ」


「なんだよ、その上から目線。まぁ、いっか」


「あんたの信憑性の低いって言ってた話。新澤先生に聞いてみたの。噂になってるんでしょ?その話って」


「まぁな」



 その信憑性の低い話というのは、下校中に羽崎とあった時に、羽崎が言いかけてやめた話のことだ。

 そしてその話とは、学校で回っている噂のことだ。



「噂で流れていた通り、『実力至上主義制度』は始まっていなかった。本当の『実力至上主義制度』施行は六月一日からだって」


「知ってる」



 羽崎が短く言葉を返した。

 その言葉に私は驚いた。

 そして同時に意味が分からなかった。



「え、どういうこと?」


「噂通り、六月一日から本当の『実力至上主義制度』が施行されるっていうのは知ってるよ」


「だ、だってあんた噂で聞いてただけなんでしょ?だから信憑性が低いって……」


「噂で流れているのは知ってる。だけど俺は、噂でそれを知ったんじゃない」



 思い込みが激しく、事実を知らされて驚いている私とは違い、羽崎は冷静に言葉を発する。



「じゃあどうやって?」


「俺の父親、国会議員なんだよ。だからその事については一番よく知ってる」



 国会議員であるということは、間違いなく『実力至上主義制度』のことを知っている。



「でも、国家議員であるあんたのお父さんから聞いたのなら信憑性は高いんじゃないの?」


「国家機密の内容を、いくら息子でも教えるとは思えない。だから偽りの内容を教えているんじゃないかって」



 烏の鳴き声が聞こえる。

 静かなこの時間帯では尚更響くはずの鳴き声は、私と羽崎には恐らく聞こえていないだろう。

 それだけ私たちは話に集中している。



「ずっと信憑性は低いって思ってたんだけどさ、昨日父親に突然呼び出された。そして五枚ほどの紙を俺に見せてくれた。それで漸く分かったんだよ。これは本当の話なんだって」


「あんたも見たんだ、あれ」



 五枚ほどの紙。

 恐らく私が昨日見た紙と同じなのだろうと思った。

 というのも私が見た紙の表紙の右下に、現首相の名前、『大橋(おおはし) 康作(こうさく)』が書かれ本人の判子も押されていたからである。



「ってことはお前もか。まぁとにかく胸糞悪かった」



 羽崎も私と同じ思いをしていたらしい。

 とてつもない恐怖にかられたあの時の気持ちは、今でも鮮明に覚えているくらいだ。



「本当に酷い内容よね。それを私たちとか偉い人除いてみんな知らないって思ったら、本当に残酷よね」



 噂が本物ではないと、恐らく皆思っているだろう。

 そんな中、とても恐ろしい制度の施行が日々近づいている。

 彼らはそれを知らず、知るのは当日。

 そしてその日に味わうであろう、恐怖やショックでいっぱいの周りの人たちの表情を思い浮かべると、本当に怖くて仕方がない。



「俺らは階級の最上位。制度から受ける恩恵は最も受けられるから、不平不満なんて一つも出てはこないはず。だけど、こういう性分だと出てしまうものなんだな」


「あんたも私と同じ反対派なのね?」



 私はもちろんこういうことは起きて欲しくないし、平和を望んでいる。

 こんな酷い制度を実施すれば間違いなく平和は遠ざかってしまう。

 だから私は反対派だ。



「他階級の人たちのこと、考えたら本当に気分悪くなる」



 羽崎はそう言って顔を歪める。



「そうよね……」



 羽崎が感じていることは、私と同じもの。

 同じ気持ちを抱いている人がいて私は少し安堵した。




次回ご期待ください!

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