僅かな平和
今回も読んでいただきありがとうございます!
四月一日。
国が試験的にここ新宿に『実力至上主義制度』というものが導入された。
それまでの『年功序列制度』とは、大きく変わるその制度は施行されたにも関わらず、見られる変化がほんの一部しかないということに私は気付いていた。
新宿と他区との境界線に、国家運営委員によって派遣された自衛隊が配備され、外へ出ることも外から入ってくることも不可能となった。
必要な物資のみ特別に国が許可して外から入ってくる。
また、外との通信も遮断され中と外とは情報の交換、共有は出来ない。
つまりテレビやインターネットなどは使用出来ず、さらには携帯電話なども存在しない。
電話は内線電話のみ使うことが出来、インターネットは特別なところでのみ新宿内の情報を入手することが出来る。
さらに、ここ新宿内の人たちの職業やキャリアに殆ど変化はなく、皆普通に働いて、普通に学んでいた。
行われたのは、戦闘の教育が施されて階級の設定をし、魔法士階級の人たちには欠片が配布。
しかし、この階級もただのクラス分けでしかなく、上下関係は一切無し。
実力至上主義とはとても言い難い制度の内容に正直私は疑念を抱いていた。
抱いてはいたが、それなりに平和な感じであることに安堵し特に気にはして来なかった。
だが私のこの予感は的中していた。
本当の施行は六月一日。
それまでの期間はあくまで準備期間で、基本的なところに慣れてもらうため。
つまりこの平和に感じられた生活も残り僅かということなのだ。
そして、その六月一日に施行される内容というのが想像を絶していた。
今日の朝、面接室で新澤先生から渡された紙にそれは書かれていた。
クリップで纏められていた紙は表紙を合わせて、五枚。
そこにズラリと文字が並んでいた。
第一章、第一項と言ったふうにそれぞれは区切られていて、全部で四章まである。
私はそれを読み、とてつもなく怖い気持ちで体が震え上がった。
『第一章、第一項。
階級が下の者には上の者に対して逆らうことが出来ない。また逆に、上の者は下の者に命令をすることが出来る』
『第一章、第三項。
例え年齢が相手より高くても、下の者は上の者に対して敬意を払わなければならない』
『第一章、第四項。
どうしても命令に対して不服であれば、唯一戦闘という形で対抗することが出来る』
『第一章、第五項。
戦闘の様子は全て欠片にデータとして記録され、全て国に送られる。その結果によっては一週間に一度ある階級替えで、階級が変動することがある。』
『第二章、第一項。
階級が上の者は、社会的地位においても高くなる。よってその階級によって報酬や権利が変化する』
『第四章、第三項。
戦闘を行えるのは午後六時から翌朝六時までとする。午後六時より前からの戦闘、及び翌朝六時以降の戦闘は違反とし、罰する』
『第四章、第四項。
欠片に記録される戦闘データは、勝敗では付けられない。一時的に下の者が優位に立ったり、上の者にダメージを与えることが出来たりした場合は、プラス評価となる。そのため例え負け状態となっても必ずしもマイナス評価になるとは限らない』
『第四章、第六項。
勝敗は定義しない。但し、第四章の第二項に記載した違反を犯すと、すぐさま大きなマイナス評価となり、罰せられる』
もちろん一度みただけでは全部覚えられなかったので、覚えているのはこれだけ。
一度だけでこれだけ覚えられれば十分だと思う。
私は読み進めれば進めるほど、体中に汗が滲み出た。
あまりの恐怖に怯えていた。
これだけ残酷な内容の本当の『実力至上主義制度』がまだ私と教師、そして偉い人たちしか知らないと思うと、言葉一つ出てこない。
五月も残すはあと二週間と少し。
殆ど何事も起こらない平和な『実力至上主義』は残り僅か。
私は無情にも施行まで近づいていく『実力至上主義制度』を受け入れることしか出来ないのだろうか……。
そんな複雑な心境のまま、気付けば一日が過ぎ去ってしまった。
次回をお楽しみに!
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