表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの英雄  作者: トネヌ
第三章 『たった一人の英雄』
35/45

第三十五話 「賢者様の苦難」

───それから、一週間が経った。

色々と分かったことがあるので、この辺で一度整理しておこうと思う。

まずはセインと、その家族が持つ特殊な瞳について。

あの目の正式名称は『王眼』というらしい。

目隠しをしたまま本が読めていたのも、その王眼が持つ能力の一つなんだとか。

……いいなぁ。

賢者の目なんて名前だけ立派なくせに、俺の目にはそういう特殊能力は一つもない。

完全に名前負けである。

次に、この城で働く人たちについて。

最初は糸目のメイドしかいないのかと思っていたが、実際にはそうでもなかった。

もちろん糸目のメイド──略して糸目イドは相変わらず大量発生している。

もはやこの城の名物なんじゃないかと思うくらいだ。

だが、それ以外の人間もちらほら見かけるようになった。

特に多かったのは白衣姿の研究者たち。

気になって調べてみたところ、どうやら壊れた転送装置の修復を進めているらしい。

ぜひ頑張っていただきたい。

俺の帰宅手段が彼らの肩にかかっているので。

……まぁ、その前に任務の報告をどうするかという問題が残ってるんだけど。

考えないようにしよう。

うん。

それから、もう一人。

城の中でやたら目立つ人物がいた。

褐色肌に派手な格好をしたギャルだ。

王城の雰囲気から完全に浮いている。

あまりにも違和感があったので、ついじっと眺めていたら──

「……あ? なに見てんの?」

ものすごく睨まれた。

反省しています。

あのギャルを見かけたのは、この一週間でたった二回だけだった。

レアなのかもしれない。

一応見た目を説明すると、セインの父様と同じクリーム色の髪に、同じ金色の王眼。

白を基調とした服に短いスカート。

そして――胸は小さかった。

性格は最初こそ父親似の気難しいタイプかと思っていたが、糸目イドたちとは楽しそうに話していた。

どうやら父親とはあまり似ていないらしい。

一応セインと同じ血を引いているのだろうが、肌の色も性格も全然違う。

最初は母親似なのかとも思った。

だが、セイン自身も父様とはまるで似ていない。

となるとセインが母親似ということになる。

……じゃああの褐色ギャルは誰に似たんだよ。

謎である。

というか、セイン。

お前に姉がいるなら最初に教えといてくれ。

兄様の話はして姉様の話はゼロってどういうことだ。

なんなら、その兄様とやらも一週間経って一度も見ていない。

……いや。

そういえば「あまり家にはいない」って言ってたな。

それなら見かけないのも普通か。

そんなこんなで、セインの家族事情はなんとなく分かってきた。

……名前はいまだにセインしか知らないけど。

そして家族のこととは別に、この一週間で俺がずっと探していたものがある。

転送遺跡だ。

リベリオンの転送装置とは違い、ディメンション同士を繋ぐ古代の遺跡。

俺が以前カリュシアンへ来たときにも使った、あの遺跡である。

もしあれがアークレイアにもあるなら、壊れた転送装置なんか待たずに帰れるかもしれない。

ちなみに、なぜ人類は転送遺跡なんて便利なものを放棄して、わざわざ転送装置なんてものを開発したのか。

答えは簡単。

転送遺跡は、転生者しかまともに使えないから。

……いや、厳密には誰でも使うこと自体はできる。

問題はそのあとだ。

転生者じゃない人間が転送遺跡でディメンションを移動すると――

移動中に体が耐えきれず、

バラバラの肉片になる。

そして転送先には、その肉片だけが降り注ぐらしい。

……うん。

考えただけで吐きそうだ。

そりゃ人類も別の方法を考える。

転送装置が作られたのも納得である。

……と、誰に向けているのかも分からない解説はこの辺にして。

この一週間で、セインについても色々分かってきた。

どうやら少し前までは学校へ通っていたらしい。

だが、あの目隠しのせいでいじめを受け、不登校になったんだとか。

最初は、

(王族をいじめるとか、どんな命知らずだよ……)

と思った。

だが話を聞けば、学校では身分を隠し、偽名を使っていたらしい。

まぁ当然だ。

「王の息子です」なんて名乗って学校へ行ったら、暗殺してくださいと言っているようなものだからな。

その結果、学校で学ぶはずだった魔術も、剣術も、座学も。

全部、中途半端なまま止まってしまったらしい。

ということで。

俺はセインの家庭教師になることとなった。

どうやらセインが言っていた『うちで働く』というのは、こういうことだったらしい。

こちらとしても賢者として培った知識を存分に活かせるので、悪い気はしない。

教え始めて分かったことだが、セインはとにかく物覚えがいい。

少し難しい理論を説明しても、一度聞いただけで理解してしまう。

飲み込みが早い教え子というのは、教える側からすると本当に気持ちがいい。

教え子としては百点満点だ。

……ただ。

学校にあまり通えなかったせいか、基礎中の基礎を知らないことが結構多い。

その辺は減点対象だが、まぁ一から教えれば済む話なので問題ない。

それより気になったのは、質問の多さだった。

『ルクシスはなんで剣も魔法も使えるの?』

『ルクシスって転生者……なの?』

そんな質問ばかり飛んでくる。

……いや。

お前、もしかして俺が記憶喪失じゃないこと気付いてないか?

そう疑いたくなるくらい鋭い質問ばかりだった。

もちろん、設定は崩せない。

毎回「記憶喪失らしい答え」を考えながら返すのは、中々骨が折れる。

その代わりというわけでもないが、

俺がセインの過去について尋ねれば、セインもちゃんと答えてくれた。

『どんないじめを受けてたんだ?』

そう聞いた時だった。

セインはしばらく黙り込み、

ぽつり、ぽつりと話し始めた。

その声は今にも消えてしまいそうなくらい小さくて、

聞いているこっちまで胸が苦しくなるような内容だった。

反省しています。

話を戻して、剣技で言えば、セインは身のこなしが良かった。

小柄な体を活かした素早い動きで相手を翻弄することに長けている。

攻撃はまだ単調だが、それは経験不足なだけだ。教えればすぐにテクニカルな剣士へ成長するだろう。

……そこはいい。

問題は、その先だった。

力が弱すぎる。

俺の攻撃を避けて反撃しようとするまではいい。

だが振り下ろされる剣が、あまりにも遅い。

遅すぎて三度見した。

本当に三度見した。

「……いや、遅っ」

思わず口に出そうになったくらいだ。

しかも三分ほど練習しただけで肩で息をし、その場に座り込んでしまう。

体力も壊滅的だった。

細い体を見れば納得できなくもないが、せっかくの身軽さが完全に持ち腐れになっている。

これは一度ちゃんと測ったほうがいい。

そう思い、体力テストをしてみた。

結果はこちら。

握力 12kg

上体起こし 3回

50m走 5秒

20mシャトルラン 15回

道具が足りず全部は測れなかった。

それでも十分だった。

分かったことは一つ。

能力の偏りが、とんでもない。

圧倒的な素早さ。

しかも体力テストの時は、魔力すら使っていなかったらしい。

つまり素でこの速さなのだから、才能だけで言えば間違いなく一級品だ。

……なのに、それを活かすためのものを何一つ持ち合わせていない。

宝の持ち腐れにも程がある。

一応、脳内会議では「筋トレで基礎能力を伸ばせばいいのでは?」という案も出た。

だが、

『結果が出るまで何年かかるか分からない』

という理由が八割。

『ムキムキマッチョなセインを見たくない』

という理由が二割で却下された。

剣術の話はこのくらいにして、次は魔術だ。

セインはさっきも言ったように、とにかく物覚えがいい。

教えた魔法は次から次へと覚え、今では中級魔法の三分の一ほどを習得している。

ちなみにセインは十ニ歳。

普通なら、ようやく中級魔法を一つ覚え始めるくらいの年齢だ。

つまり。

セインは異常だ。

いや、異常というより天才と言った方が正しいか。

この成長速度を見て、一度だけ

「もう魔法でいじめっ子ぶっ飛ばせば?」

と提案してみた。

だが返ってきた答えは、

『許可なしに町中で魔法を使うと、一発で退学になっちゃうよ』

……。

一発撃っただけで?

厳しくない?

そう思った。

……が、この街――いや、この国には納得の理由があるらしい。

昔、この国には魔法を取り締まる法律が存在しなかった時代があった。

その頃は魔法犯罪が絶えず、殺人、強盗、放火、街の破壊まで、まさになんでもありだったらしい。

そこで当時の国王が魔法を規制する法律を制定し、それを破った者を片っ端から斬首刑に処したという。

……思い切りが良すぎる。

よくそれで今みたいな平和な国を作れたもんだ。

ともかく、この国が魔法に関して異常なほど厳しいことはよく分かった。

さて、次は座学だ。

と言っても、算数と読み書きを教えるくらいである。

セインはここでも天才だった。

算数も読み書きも、教えた端から吸収していく。

このペースなら数週間で分厚い教科書を丸ごと暗記しても驚かない。

なので、ふと疑問に思った。

「それだけ物覚えがいいのに、なんで家庭教師なんて必要なんだ?」

するとセインは少しだけ考えてから、小さく答えた。

「……寂しいから」

……なるほど。

一人だと勉強する気になれないらしい。

そういうところは年相応というか、すごく可愛い。

男なのが、非常に惜しい。

……とまぁ、セイン以外の話をするなら。

俺の仕事は家庭教師だけじゃない。

糸目イド達と一緒に掃除をしたり、荷物を運んだりと、ほかの使用人達と似たような仕事もしている。

ちなみに料理だけは、

『毒を入れられるかもしれませんので』

という理由で、糸目イド達から厨房を出禁にされた。

非常に悲しい。

……だが、ここ数日セインに全力で尽くしてきたおかげか、信頼がゼロというわけではないらしい。

最近では糸目イド達とも少しずつ話せるようになってきた。

と言っても、

「本日はお日柄も良く……」

「……そうですか。」

こんな感じである。

会話が続く気配は一切ない。

仕方ないだろ。

こっちから話せる話題なんて、相手の名前と天気くらいしかないんだから。

それと、糸目イド達以外で言えばセインの父様。

あの人は会うたびに無言で睨んでくるので、近寄ることすらできない。

糸目イド達とも必要最低限しか話していないし、正直よく分からない人だ。

……よし。

とりあえず一週間を振り返るとこんな感じだ。

改めて思う。

実に濃い一週間だった。

……なのに、元のディメンションへ帰る希望は、まだ何一つ見えていない。

先が思いやられるぜ。

畜生。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ