episode4 内面
腹を割って話そう、そう告げるノアは真剣で、いつもシャーレに話しかけるように少しおどけた様子は全くなく、その目はまさしく兵士だった
「戦争が始まったらボクらはお互いの命を預けて戦うことになる
そうじゃなくても死人が出る訓練もある、だからお互いのことをよく知ってた方がいいと思うんだ」
「……まぁそうか」
誰だって死にたくない、もちろんシャーレ自身もだ
しかしシャーレにとって他人と交流を重ねるのはストレスでしかないのだ
だからといってもこの状況に抗ってノアの機嫌を損ねこれ以上の軋轢ができるのも面倒だと感じ納得する
「何か言ったかい?」
「……いやなんでもない」
口に出した訳ではないがシャーレの何か言いたげな表情をめざとく察し、ノアが釘を刺すように睨みつける
「で、何を話すんだ?」
「どんな人か知りたいからなぁ〜、好きな食べ物は?」
さっきまでの真剣な顔はどこに行ったのか
気づいたらノアの顔にはいつもの少し抜けた明るさが鳴りを出し始めていた
「ラーシュ」
「らーしゅ…?なにそれ?」
「いや、知らないなら良い」
それを聞いてノアが少し怒る
不貞腐れたかのように頬を膨らませてからシャーレの皿からタルトを奪って頬張る
「そうやって君はすぐ逃げる、こっちはよろしくないんだよ
ラーシュについて教えてくれれば良いと思うんだよ!」
「……そうだな」
「お菓子の一種で小麦、卵、砂糖、バターを一緒に混ぜて小さく丸めて油で揚げるんだ
これが本当に美味しくて、僕のおすすめは中に空洞を作っておいてそこにクリームを入れるんだ、砂糖を抜いて味付けを変えればご飯にもなる」
「美味しそうだね」
故郷の食べ物を美味しそうと褒められ、シャーレも多少気分が良くなる
聞き上手だと思いその顔を見つめていると次の質問が飛んできた
「ではご趣味は?」
「……お見合いか」
好きな食べ物まではまだ納得がいっていたシャーレだったが趣味まで言う義理はないと睨みつける、そして突き放すように口を開く
「次で最後だ、それ以上は答えない」
「怒らないで欲しいな」
少し罰が悪そうに俯いて指をいじる
紅茶を飲みながら少し悩んだ末にようやく口を開いた
「実のところ聞きたいことはたくさんあるんだ
出身地はどこどか、なんでアカシアの家に来たのかとか、将来の夢はなんだとか
髪を伸ばしてる理由とか、ほら?ボクって結構欲張りだから」
「……だろうな」
「……決めた!ご趣味は?」
シャーレが口に運んでいてケーキが崩れて皿に落ちる
唖然としたその表情はどれほどその質問が意外だったかを顕著に示している
「…………質問はそれでいいのか?」
「うん、残りはまた今度君から言わせてあげるよ」
顔を手で押さえて隠すシャーレ
そして大きく一つ、ため息をついてからコーヒーに口をつける
「…………読書」
「随分おしゃれな趣味だね」
ーー
追加で頼んだケーキをノアが食べ切るのを待ち、会計を済ませた頃にはすでに二時を回っていた
結局チョコケーキ、苺タルトに加えて追加のチーズケーキとパンケーキまで奢ったため財布の中身も少し寂しくなってしまった
「……警戒されてたな」
一見無警戒を装ってはいたが一度も僕に背中を向けなかったし護身用の武器を服の袖に隠していた
アカシアの家から大分離れているから偶然街で見かけたなんて線は薄い、それに集中していなかったとはいえ尾けられていることに全く気づけなかった
何かしらの目的を持った上で僕に近づいてきたってことだ
「あの会話はよくわからんが、けどそれとは別の目的を持って僕を追っていた……?本当に何のためにだ?」
僕のプライベートなんてわざわざ貴重な休日を消費してまで見ようよする価値なんてない
本当に何のためなのか全くわからない
ていうかもし街で見かけたからと言ってわざわざ話しかける仲でも無い
「……一応警戒しておくか」




