episode39 襲撃〈死〉
異能は魂の力だ
魂と心は同じものではない、だが互いに隣接し影響し合う存在ではある
魂が歪めば心が歪む、心が歪めば魂にも影響が出る、つまり心が病めば異能が安定しなくなるのは必然のこと
「烈火の一族、その名に誓ってお前を殺す」
精神的に安定している時こそ異能は安定する、しかしまた圧倒的な負の感情を感じている時も異能は安定し、むしろその力を増すことがある
そのせいか今ならなんでもできる気がする
「へぇ、よくわかんねぇけどムカついたお前は殺すわ、そこの死体と一緒に野良犬に食わす」
「やってみろ、雑種」
霧の中に隠れる
七賢者第一位、状況判断だがおそらくラングレイが昔戦ったと言っていた空間を操る異能を持っている男だ、しかし当時は大した実力はなく時間を止める異能を持つ兄の方を殺せたのはこいつが足を引っ張ったかららしい
目の前に空間を区切るような細い光が現れる、それを咄嗟に避けるとその空間内の霧が一気に晴れた
「ははあーっは!!かくれんぼか!?あのボロ雑巾みたいに!」
苛つきすぎて魔力が抑えきれずに跳ねたが慌てて抑える
次々と霧が晴らされているが全く困ったことはない、能力が割れて困るのは相手だし“霧の街”での消耗もほとんどない、時間をかけて殺してやる
「……おい、うっざったいぞ、逃げ回りやがって…“黒箱”」
奴が出した黒い枠が囲ったところが今までの霧を散らす感じではなく消えたみたいに霧が晴らされた、直後黒い光で囲った空間に霧が吸い込まれていく
理屈としてはおそらく水の中に空気の入った袋を入れて空気を逃すと袋の中に水が入り込んでいく感じ、あれに似ている
試しに石を投げてみれば中心部分まで吸い込まれていって消えた、理屈はわからないが空間の中身を消し続けているのだろう、ラングレイの腹に空いた穴もアレに削られたのなら納得する傷口だ、……あぁ、考えただけで苛ついてきた
今の所奴が異能を使ったのは四種類だ
一つはラングレイたちを転移させたとき“運ぶ力”
二つは装甲車で引いたとき“守る力”
三つは霧を晴らした光の枠“散らす力”
そして一番今のところ危険な黒い枠の“消滅させる力“
だけど警戒するのは“消滅させる力”だけでいい
なぜなら“運ぶ力”で危険な場所…例えば火山の火口とかに送ればいいのだから、それか牢屋とかに閉じ込めて一方的に射殺とかもできる、でも私にはそんなことしない
距離の関係か、下準備がいるのか、少なくとも今は使えないはずだ
“守る力”はスバルの熱量を防ぎ切った、熱は防ごうと思って防げるものじゃ無いんだ、なのに防げたってことはおそらく“空間の時間を止める“とかかな、兄が時間を止める能力だったなら空間程度の時間を止めれてもおかしくはない、“憑夜酔時雨・四季”か圧倒的物量の“天涙”で押し切るくらいしか思いつかないな
このままゆっくりと削っていこう
「そうだ、お前を殺した後逃げたやつを追いかけることにするわ、手足を切り落とした男の目の前で女を犯すことにした、その後男は豚と交尾させて女には俺の子供を育たせる、楽しみだなぁ…!あいつらの言う通りだったよ、敵には何してもいいんだもん!」
「–––死ねぇ゛!!ドブ野郎が!穿てッ天涙!」
僕をムカつかせるのが本当にうまいやつだ
幾千にも届く天涙で肉片ひとつ残さずに殺してやる
「……かかったな」
下卑た嗤いと鳥肌の立つ視線が私を捉えた
自分の体を一瞬で黒い枠が囲った、ラングレイの抉られた腹の穴が脳裏に浮かぶ、しかし黒い枠は大きくブレて脇腹に激痛が走る、けど死んで無いならどうでもいい
「––ッ痛ぇ゛え゛!!クソが!!小細工しやがって!!」
どうやら上空に向かって射た天涙が奴の肩を抉ったらしい、弓の特権の曲射だ
そして奴は右腕は使えそうにはない、それにあの防御は一面しか守れないらしい
「だがテメェも終わりだ!抉れて死にやがれ!」
今度は完璧に体の周りを黒い枠で囲われた
けど私の方が一手早かった
すでに憑夜酔時雨は抜いてある
「“黒––」
「––ッ憑夜酔時雨・四季!」
確かな感触と共に達成感、しかしこいつを殺してもラングレイはもういないのだと改めて感じてしまったことに対する喪失感を感じる
「が…ぁ!」
若干踏み込みが浅かったのか、まだ息があるらしい
近づきたくも無いから天涙で仕留めるか
「穿て、天涙」
地面を抉りながら確かに肉片一つ残さず消し飛ばした
ラングレイの元に戻ろう、そう考えた瞬間滑りした何かに足を掴まれた
「……ぃて…」
「……自分も転移させることも可能か」
今度こそ確実に止めを刺そうとしたら骨の軋む音と共に掴まれている部分に激痛が走った、顔が苦痛に歪んだ
「……テメェも道連れだ!地獄を味わさせてやる!」
奴のドス黒い魔力見えたと共に一瞬だけ耳鳴りがした
不気味なその雰囲気に腰が抜けてその場に倒れ込むが何もそれ以外何か起きた様子はない、恐怖がだんだんと怒りに変わっていく
「さっさと死んでくれよ!私のことをイラつかせるなよ!雑種が!死ね!死ね!死ね!死ね!」
何度も刀を刺して、刺して、刺して、動かなくなったのを確認してから最後に首に刀を刺してそのまま壁に突き立てた、カカシのように立つように
そこまでやってようやく自分を落ちかせて、ラングレイの横に座り込む
「……ラングレイ」
気づけなかった、いや気づこうとしなかった
ラングレイが僕を否定しないからそれに甘えていた、契約なんて口実だ、馬鹿な僕を納得させるための嘘だ、ずっと僕の仲間でいてくれていた、ラングレイは捨てられた私を“人”として扱ってくれていた
もっと早く気づけてたらきっと違っていた、こんな最期にならなかった
一つも恩返しができてないのに、せめて結婚式くらい祝福させてくれよ…!
「……帰ろう、あんたの祖国に」
ラングレイを担ごうと腕を回すと銃声がした
振り返ると友軍がいた、おそらく撤退したスバル達が援軍を寄越してくれたのだ
「そこの兵士動くな!妙な動きをした瞬間撃ち殺すぞ!手を挙げて速やかに所属部隊と名前をいえ!」
全く油断しないその姿に安心する
ゆっくりと手をあげて立ち上がり声を上げる
「アカシア特殊作戦群特務第909班、アウル–4だ!援軍感謝する!」
「––動くなッ!」
近づこうとして足を踏み出した瞬間、近くの地面に警告として一発撃ち込まれた
ここまで警戒されるのも疲れているし血も流れすぎているから苛立ちが勝ってきた
さっさと確認をしてくれと思って待っていると奥からノア、遅れてスバルに肩を貸したティアが出てきた
「ノア、約束した通りだ」
「……君は誰だ?」
「……え?あぁ、ちょっと悪いけど今はそんな冗談を笑える気分じゃ無いんだ、少し横になりたいんだ」
脇腹の怪我、思ったより深かって歩くたびに激痛が走るがそれよりもラングレイのことだ、少し整理する時間が欲しい
そう思って一歩前に出た瞬間、踏み出した右足が燃えた、咄嗟に空気中の水分を使って鎮火してスバルを睨みつける
「–ッ!?なんの真似だスバ…ル…?」
まるで敵を見るように僕を見るスバル、冷静になってノアを見るとすでに僕に小銃を向けていた
とても冗談でやっているようには見えない
「気をつけてください!魔力量だけで見れば本気の俺より多いです!」
「な、なんで武器を向けるんだ…!?」
声が震える、初めて仲間に殺気と共に武器を向けられている
殺気を向けられるなんて慣れているが仲間からだと立っていられないほど動悸がする
最後の望みでティアに視線を向ける
「……あんた、名前は?」
「だ、だから、特務第909班アウル−4、シャーレ・ラングレイだよ、なんでそんなこと聞くんだよ?」
「残念だったわね、私の前でアウル班を騙るなら馬鹿かしら、アウル班は私とノア、そしてスバルの三人班よ」
僕を裏切ったのかと思いハーレクインの瞳術を使う、使ったが嘘をついているわけじゃない、僕は肉体的にか、それとも精神的にかわからないが膝から崩れ落ちてしまう
拘束されていく、抵抗しないようにティアとノアが銃口を突きつけられているがどうにも抵抗する気力が湧かない
ただ今だけは何も考えたくなかった
変なクラムボン「あれおかしいな、忘れられたわけじゃないのに仲間たちがシャーレに銃を向けているぞ?わすれられたはずはないのに」
右下謎生物「これは剣道で基礎中の基礎である残心を怠ったせいで人殺し人間屑に世界から存在した証拠を消されてしまったね」




