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episode37 襲撃〈一瞬の死闘〉

「……そういえば、結婚することになった」


ラングレイがシャーレを前の座席に呼んでそんな言葉を聞かした

まるで鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔になったシャーレを見てラングレイは少し笑う


「……は?誰が?」


「……俺だ」


主語が抜けていたためわざわざ確かめたシャーレだったが彼にとってとても理解できない答えが返ってくる

口を開けて空を見上げる、言葉を咀嚼して飲み込めたらしくふと疑問に思ったことを尋ねる


「恋愛婚だよな?」


「……正式に発表するのは戦争が終わってからだがな、先にお前には伝えておこうと思って伝えた」


複雑な感情になるシャーレ、しかしなぜ自分がラングレイの結婚にそんな複雑な感情を抱いてるのかとも疑問になる

頑張って祝福しようと思ったが相手がまだ誰か聞いていないことに気づく


「相手は?……言い方が悪いけど戦争で傷心の人間の心に漬け込んで金銭を巻き上げるロマンス詐欺なるものが流行っているらしいんだ

自分を客観的に見るのは難しいからシャガールあたりに一度話をしてみろ、それか僕に一度合わせろ、秘密にしていたがハーレクインの瞳術を使えば相手が嘘をついてるかくらい簡単にわかる、それまでせがまれても高価な宝石類とかは送らないでほしいし変な書類にはサインしないで欲しい、別にあんたのことを馬鹿にしているわけじないし相手のことを詐欺師と疑っているわけでもない、ただそういった事例があるということを理解して欲しいんだ、だからまず僕に一度合わせろ」


「……相手はユリーシェ・デュカシュ副官だ」


「あ、副官か」


相手を聞いたシャーレの熱が引いて落ち着く

ユリーシェ・デュカシュは階級少尉のラングレイの補佐官だ、シャーレからみた彼女はラングレイに最も親しい女性で歳の差はあれど知らない名前をあげられるよりかは数段納得、いや結婚するのならこの人しかいなかったかと納得できる相手だった

器量もよく家庭的な女性だと理解しているシャーレ、なぜか胸の奥にしこりのようなものを感じつつも素直に祝福した


「いいんじゃないか、あんたが大好きな珈琲を淹れるの得意だろ」


「……?俺は別に––」


「––っ!?」


ラングレイの言葉を遮って空の割れるような音が響き、シャーレの目の前から消えた

咄嗟にハンドルを握って装甲車を止める、そしてすぐに荷台にいる仲間の無事を確認しようと外に出ると荷台の方から誰かが歩いてきていた

ラングレイでもない、スバルたち特務第909班の仲間でもない、銀の装飾がされた剣を腰に刺し、シンプルだが地味ではない華奢な鎧を身につけた男、そして攻撃を仕掛けてくるわけでもなく少しの距離で立ち止まった


「七賢者第四位、『近衛剣』のリリー・シュバルツだ、『白い死神』とお見受けした、いざ尋常に手合わせ願おう」


「……そういう感じか、ラングレイ達は?」


「死神は第一位が相手する手筈になっている、他の兵士もおそらくそっちだ」


(やられたな)


ラングレイの“霧の街”とスバルの“天道の歩み方”は相性が悪い

お互いが実力を出せないまま追い込まれる可能性があるとシャーレは一瞬焦ったがすぐに落ち着きをとり戻す


(冷静に考えて……ラングレイが負けるわけないだろ)


「さぁ、尋常に勝負を」


剣を抜き臨戦体制に入ったリリー、シャーレも目の前の戦いに集中することだけを意識する


「つい最近いいことがあったんだ、戦う理由を再確認できた、僕にも守りたいと思えるものができた、精神的にようやく余裕ができたんだ。

だから今日の私は強いよ、憑夜酔時雨…完全権限」


シャーレも刀を抜く、しかし今までの消えゆくような薄く妖艶な雨ではなく、空が晴れているのにも関わらず奇怪な雨を見せる、そしてシャーレが手を降った上空の雨粒が矢となってリリーに向かって降り注いだ


「……えっ?剣の勝負は?」


見事に雨の矢を捌きながらシャーレと剣を交えるリリー

文字通りの真剣勝負を望んでいた彼は驚きを隠せないでいる


「巻き込む仲間もいないからね

最初から全開で行くよ、穿てッ!天涙」


シャーレが刀を振ると背後に雨で造られた巨大な弓が現れ、矢を穿った

地面を抉りながら高速で飛来する“天涙“をリリーの右肩に触れる、瞬間文字通り肩から先が消え去った


「––笑止ッ!こちらももとより全力だ!」


しかしリリーは一切怯む様子を見せずにシャーレに向かって剣を振るう

その剣速は一才の衰えを見せずに、正確無比な猛攻でシャーレに対して若干の優勢に立つ


「奥義・天雲烈斬ッ!」


「水妖花・一輪ッ!!」


リリーの真っ向斬りに対してシャーレは居合斬りを合わせる

どちらも防御を一才考えていない諸刃の一撃、勝負が始まってから五分も経たずの決着だった


「天晴れ…!誠に楽しかった、白い死神…いや、エルフの子よ」


「……シャーレ・エルフィン・ハーレクインだよ、私の名前は」


腹の筋肉が切れたせいでおかしな挙動で崩れ落ちるリリー、すでに意識がなくなったリリーの体をなるべく綺麗に整えてからシャーレは自分の右肩に深々と食い込んだ剣を抜いてそばに供えた、そしてエルフ流の弔いを捧げる、きっとこの魂が輪廻の道で迷わず新たな生を得られるようにと


(もし天涙を防がずに避けられてたら、もし失くした右腕分の力が最後の技に加わってたら、確実に負けてた…)


最後に立ってるのは確かに自分だ

それだけが唯一の事実、けれどもしここにアラクのような戦い慣れた魔術師のサポートがあったらとシャーレの心臓は恐怖からか鼓動を早める

リリーが一対一を望んだおかげで勝てた、そう考えることしかシャーレにはできなかった


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